Stage1_B
第11話:モリビトノシゴト_ゼン_1
改は嘉壱の言っている意味を理解できないでいた。デスゲームはもちろん聞いたことがある。ゲームでもプレイしたことがあるし、漫画や小説を読んだこともあった。だが、それゆえにどうしても、現実世界とのリンクが取れなかった。あれは、創作世界の話じゃないのか。
「え、ほ、本当に……? それって、僕の知っているデスゲームと同じでしょうか……?」
「同じだと思うよ? ってか、デスゲームってそれしかなくない? 『人と人が命を懸けて脱出や生き残りを目指して殺し合うゲーム』に『参加者が望むものを目指して他人を殺していくゲーム』とか。あとはそうだな。『追跡者のいるデストラップだらけの建物から逃げ出すゲーム』『自分の快楽のために逃げまどう人を片っ端から殺していくゲーム』も、一応デスゲームなのか? 脱出ゲーム? まぁ、いい。定義は色々あるかもしれないが、結果は同じだろ? 人が、呆気なく死ぬ――」
不思議そうな顔で改を見つめている嘉壱を見て、改は思わず鳥肌を立てた。なにもおかしなことはお互い言っていないのに、嘉壱の言葉がうすら寒く聞こえる。整った顔立ちから発せられる声が、余計にその言葉を強調しているように感じた。
「……信じられない?」
「まだ、少し……」
「じゃあやっぱり、見に行ってみよう。目を逸らしても良い。最初だからね。ただ、ずっと目を逸らすことはできないよ? これは、もう君の仕事なんだから」
「……」
なにも言葉を発せないでいる改の肩を叩き、この部屋からの退出を嘉壱は促した。書類はすべて必要事項も書き終わり、改の持ち帰りぶんは封筒に入れて手渡す。会社保管の資料をクリアファイルに入れると、嘉壱は改を連れ立って件の護人たちがいる部屋へと向かった。
「――みんな、お疲れ」
「あっ、嘉壱さん、お疲れ様です~」
「……お疲れ」
「嘉壱君お疲れ様。今日は部屋に来るのが遅かったね。……おや、その子は?」
「今日から仲間になる灰根改君だ」
「はっ、初めまして! 灰根改です! よろしくお願いします!」
みんなからの視線にいたたまれなくなり、大きく改はお辞儀をした。顔をあげると、ニコニコと笑っているスタイルの良い優しそうな女性、無表情で腕を組んでいる少女、素敵な紳士に見える男性の順に目が合った。
「ええっとぉ、自己紹介したほうがいいんですよね~? 初めまして改さん~。桃城もがなです~。よろしくねぇ」
桃城もがな。目のやり場に困ってしまうような、豊満な身体つき。長いスカートにゆったりとしたトップスに隠れているが、胸の大きさやムチムチ具合は隠しきれていない。そんなつもりはなくとも、興味があればじっと見つめてしまってもおかしくない見た目だった。ゆるゆるとウェーブがかったロングヘアは、耳の下辺りでふたつ結びにされており、なんとなく、しゃべりかたや声と合わせてふわふわとしていそうな人に見える。
「もがなのこと、変な目で見るなよ? ボクは森ノ宮りんご。……改で良いよね。よろしく」
生意気そうなこの女の子は森ノ宮りんご。ずっと幼く見えるが、果たして成人しているのだろうか。もがなとは正反対で、ランドセルも似合いそうな可愛い子である。幼児体型と言ったらぶん殴られてしまいそうだから決して言うまいと改は思ったが、身体の表面に凹凸はないように見えた。可愛らしい、フリルのたくさんついたボリュームのある短いワンピースを着て、ボブヘアの頭には大きなリボンをつけている。ミルクティー色の髪色だが髪の毛は全く傷んでおらず、長いまつ毛に大きな瞳と、まるで人形のような外見だった。
「二人とも可愛いだろう? ここで仕事ができるなんて、君は幸せ者だね。私も嬉しいよ。なんせ、君みたいな子と仕事がしたかったからね。私の名前は兎荷丙-とつかひのえ-。気軽に丙さんと呼んでくれたまえ」
渋くて良い声の男性。彼が兎荷丙。嘉壱と同じで細身だががっしりとした体型をしており、あまり年齢を感じさせない。ところどころ白髪の混じった髪の毛が、これまた似合っていた。ストライプのスーツを着ているのだろう。ジャケットが椅子の背もたれにかけてあった。ワイシャツを捲ったところから覗く腕は筋肉質で、力が入っているのか血管が浮き出ていた。年下の女性に人気のありそうな風貌で、どこか父親のような威厳と優しさを持ち合わせているように見えた。
「今日のゲーム、まだ始まってなかったよな?」
「あぁ、まだだね。どうかしたかい?」
「もうすぐ始まるだろう? 改君にも見せてあげてくれないか? ……なんというか、社長がまた、詳しいゲームの説明をしていなかったみたいでね。いくら耐性があるかもしれないとはいえ、なにも知らないまま護人を任せるのは酷だと思ったから」
「あぁ、三律ちゃん、またやっちゃったのかい。構わないよ。ほら、改ちゃん、こっちにおいで」
「は、はい……!」
丙に呼ばれるまま、改は丙の隣の椅子に座った。その隣に、嘉壱も座る。
「このモニタを見ていたらわかるよ。……そうだね、もうすぐだ」
とてつもなく大きなモニタに、どこかの場所が映し出されている。モニタの一番真ん中にデカデカと映しだされているのを筆頭に、それを囲むように別の視点から捉えただろう映像や、メインで映っている場所ではない映像が並べられている。
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