第12話:モリビトノシゴト_ゼン_2
「今回のゲームは?」
「シンプルなやつだよ。親が一人、子が四人。鬼ごっこ形式。逃げるのも追いかけるのも、お金が欲しい人たち。制限時間は六十分。子が全員死ぬか鬼が死ぬか、もしくは時間切れでゲーム終了。時間切れの場合は全員死亡。ゲームの会場は【ミノタウロスの迷宮】だ。武器は鬼が鉈だけど、子はナイフだけだね。ただ、スタート地点がバラバラとはいえ合流さえできれば共闘できるから、そこによって結構結果が変わるんじゃないかなぁ」
「オッズは?」
「鬼が圧倒的だね。やっぱり。今回の鬼、さっきウォーミングアップしてる姿見たけど、結構足早いのよ。ガタイも良いし、力も強そうだね。資料を見る限り、なかなかだと思うよ。特に視界に入ったら即勝負を決めそうなタイプ。持久力はまだわからないけど、合流できない限り子に不利な状況が続くかもね」
淡々と目の前に広がる映像を見て、ゲームの説明が進められていく。ぽかんとしている改に、丙は話しかけた。
「なにこれ? って顔してるね。これが、僕たちの仕事だよ。デスゲームを行う人たちを、このモニタで監視する……見守ること。カメラ操作や位置の把握をして、観客に伝えることも忘れないようにしてる。オッズが出るから、それを参考にメインで撮影する人を選んだり、観客に配信できる映像の数は限られているから、適切に切り替えたり。必要な解説入れるのも私達の仕事だね。どうしても、パッと観客が見てわからない部分もあるから」
「あ、あの! 観客、って……」
「あぁ、お金が発生するの。賭けずに見ているだけの人もいるけど。要はこれ、ギャンブルだよ」
「……え?」
「金持ちの道楽と言うか、モノ好きのお遊びというか。参加者は死か金。観客は金。一部のマニア向けに配信されてるから。……お金さえ払って守秘義務守れば、まぁわりと一般人でも見ることができるけどね。見るのは会員制だし、会員にならないと賭けられないし。なんなら、会員費や賭博費用から私達の給料も出てるし、施設や会社の運営費も賄われてる。……人気なんだよ、これ。みんな頭おかしいんだから」
「これが、デスゲーム……」
「実感ないでしょ? まだ誰も死んでないから。……さぁ、始まるよ。もがなちゃん、りんごちゃん、やろうか」
「はぁい」
「丙、話長い」
「ごめんって」
これまで丙の話をなんとなく聞いていた、もがなとりんごの目つきが変わる。なにかをシャットアウトしているような、これから起こることを無機質に仕分けしていきそうな、冷たい目に。
「声は私たちがつけているインカムからしか入らないから、改ちゃんは自由にしゃべってもらって構わないよ。私たちはこっちに集中してしまうから、気になることがあったら嘉壱君に聞いてね。聞こえたとしても、まぁ良いんだけどさ。観客向けにしかしゃべっていないから。……それじゃ、いくよ。もがなちゃん、りんごちゃん、ゲーム──スタート!」
――カチリ。
なにかのスイッチが入り、モニタの一部にコメントのようなものが流れ始めた。
「――みなさんこんにちは! ご機嫌いかがでしょう? 本日、午前の部の司会は、私【バニィ】と――」
「【リンリン】だよ」
「それから【ペシェ】の、三人でお送りします〜」
「さぁ、今回のゲーム、一番人気はやはり鬼です。みなさん、しっかり賭けることはできましたか? 一人ずつ、見ていきましょうか」
「……今日は鬼含めて五 人。会場の割には、人数が少ないよね」
「うふふ。胸が高鳴りますねぇ~」
「どんな殺し合いになるのでしょうか。――まずは、鬼の行動から見ていきましょう」
丙はそう言うと、目の前の機械を操作し始めた。モニタに映る一番真ん中、最も大きい映像が、誰かの視点から切り替わる。映し出されたのは、目と鼻の部分だけ穴の空いている麻袋を被って、大きな鉈を持った誰かの姿。
「あれが……鬼?」
「一応、生きて帰ることは可能だからね。残れば、だけど。顔を隠しているつもりなんだよ。アクシデントで取れちゃうこともあるけどね」
「あの鉈は、本物ですか……?」
「もちろん。打撃の威力もすごいよ? 少し重たいのが難点だけど。関係ないんじゃないかな、今日の鬼の彼には。……あぁ、向こうもスタートしたんだね。鬼が動き始めた」
嘉壱が説明してくれた今回のルールは以下だった。まず、鬼一人の子四人の全五人参加で、鬼は全員、子は鬼を殺せば、残った人間――つまり鬼の場合は一人だが、子の場合は複数人勝利することができる。ただし、時間制限でゲームオーバーになった場合は、全員脳内のチップから致死量の電流が走り死亡する。勝利すれば生き残った人数で分配した賞金を手に入れ、無事家に帰ることができる。――記憶処理を施して。それぞれ武器を持っており、子はチーム戦が可能なため弱い武器、鬼は一人で全員を相手にしないといけないため強い武器を選ぶことができる。今鬼が持っている鉈は、特別製でリーチが長く刃も鋭くなっているらしい。それぞれの開始位置はランダムで、鬼から離れる場合もあれば、近距離から始まる場合もあるらしい。理想は子が近くに揃っていて鬼がある程度離れた場所にいることだが、そう上手くいくことはほとんどなかった。特に今回のような迷宮が会場に選ばれた場合、子が袋小路に追い詰められて殺されたり、鬼が狭い道で挟み撃ちにあって殺されることもある。直線と広場のような視界の開けた場所では迎撃しやすいが、曲がり角やカーブで死角ができやすいため、突然鉢合わせて訳のわからぬうちに死ぬことも多かった。
鬼と子には見えていないが、実況者側からは誰がどの位置にいるかすべて把握できていた。埋め込まれたチップのおかげだ。観客の中でも希望者は、追加料金を払えば現在地を同じように知ることができる。だが、見えていない、敢えて見ないようにしている観客もいるため、コメントで場所を書き出すのは御法度になっている。
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