Pretense 8/8
ゲーム部の部室から少し離れたところで立ち止まる。
車いすに座るきいを見れば、さっきの黒美ちゃんと同じくらい呆けている。目の前で手を振っても、まったく反応なし。
顔を近づけても気が付けてくれないしなあ……。
「はっ! キスの気配!」
「…………」
正気を取り戻したきいは唇を尖らせて、顔を近づけようとしてくる。はっきり気持ち悪い。
顔を遠ざけると、きいは残念そうに握りこぶしをつくっていた。
「やっぱり黙ってやるべきだったかなあ。でもそんなのずるいし……」
「ずるいも何も、姉妹でキスしてどうするのさ」
「え、普通じゃない?」
「どこの普通の話よ」
少なくとも、日本においてはアブノーマルだ。アブノーマルだよね?
きいは、首をぶんぶんと横に振って、否定の意をこれでもかと示している。そんな妹を見て、私はため息をつく。
「あんな露骨にさ、やる気なくすことある?」
「だってしょうがないじゃん。密室かと思ったら、そうじゃなかったんだし。がっかりするのも当然じゃない?」
「いや、『じゃない?』って聞かれても私にはちょっとよくわかんないって」
「ふうん。おねえちゃんはそうなんだね」
壁を感じる。これが初めてのことではなかったけれど、やっぱりさみしさを感じる。
そして、心の中がちりちりと焦げ付くような感覚がある。
この感情は――。
「おねえちゃん?」
「――どうかした?」
「どうかしたもなにも、返事してくれなかったのはそっちだよ」
「あ、ごめん。それで何の話?」
「キスしてもいいのかって話っ!」
人気がなく暗い廊下へ、きいの声がよく通る。背後まで振り返ってまでして抱きついてこようとするきいを押しやりながら、私はため息をつくのだった。
三つの謎、二人の姉妹、真実一つ。 藤原くう @erevestakiba
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