Heart to heart 2/7
「生徒会長があんな一方的な人だとは思わなかった」
思わず、ハンドルを握った手に力がこもる。
私はきいの乗る車いすを押しながら、投書の送り主である三俣まゆみがいる一年三組の教室を目指していた。
「おねえちゃん。ちょっと怖いよ」
「ごめん。ついかっとなっちゃって」
「ううん。おねえちゃんがワタシのために怒ってくれてるんでしょ? ちょっとうれしいな」
「変なところで嬉しがるんだから……。ちょっとは真剣になってほしいんだけど」
「失礼なっ」車椅子のひじ掛けを、きいは叩いた。「ワタシだって真剣ですとも。あんな静かで居心地のいいところ他にはないんだから」
一年生の教室は三階にある。生徒会室は二階にあるので、まずはエレベーターで三階へ。チンという音ともに扉が開いて、廊下へと降り立つ。
そこには一年生の教室しかない。当然、いるのも一年生がほとんど。西日の差し込む廊下は、ピカピカの制服を身にまとった生徒でごった返していた。そんな中でただ一人だけ二年生がいる。というか私だけど、バカみたいに目立っている。視線が突き刺さって痛い。きゃーとかなんとかも聞こえてくる。
身を小さくしながら後輩たちの間を足早に通り過ぎていく。きいの、おねえちゃんはワタシのものなんだから、というつぶやきが聞こえたけど、だれに対していっているのやら。
一年三組の教室を見つけて、足早に入る。いきなり上級生が入ってきたことに、三組の生徒たちは困惑しているように見えて、ちょっと申し訳なくなる。
「あのーいきなりごめん。三俣まゆみちゃんっているかな」
私の言葉に一人の生徒がおずおずと手を上げた。
「わたしですけど……」
「急にごめんね。生徒会の件で話を聞きたいんだ」
私が訊ねると、何のことだろうと首を傾げて少し。ポンと手を打つ。
「あ、あの手紙の件ってことですね」
「そうそうそれそれ。私たちが代理で調べることになったんだ。私と妹のきいとで」
「謎解き部の初陣なのです!」
びしっと指を突き付けるきいに、まゆみちゃんは唖然としていた。私はきいの腕を掴みながら、ごめんね、と口にする。
「いえいえ。えっとその驚いたっていうか。お二人って姉妹なんですね」
「相思相愛恋人だよっ」
「ただの姉妹だから」
私がきいの頭をはたけば、あいたっという言葉が漏れた。ワタシの灰色の頭脳になんてことするんだ、という声が聞こえてきたけど、私は無視する。
不意に笑い声が聞こえた。前を見ればまゆみちゃんが笑っていた。
「仲がいいんですね」
「とっても!」
「それに、きいちゃんがこんな人だなんて知らなかった」
「どういう……?」
私が聞くと、まゆみちゃんの肩がびくりと震えた。
「えっとそれは」
「ワタシも聞きたいなー」
私ときいが揃ったように尋ねる。まゆみちゃんは口をもごもごさせていた。その目は泳ぎに泳ぎまくっている。何かを隠していると考えないのは無理な話というものであった。
「な、中庭に行きませんか。そこでもらった手紙を見せますので」
言うが早いか、真由美ちゃんは学生カバンを掴み、歩きだしている。その背中に手をかけて詰問することはできたのかもしれないけど、周囲にはあどけない一年生たちがいて、彼女たちを怖がらせるのはなんか嫌だった。
「なんだったんだろうね?」
「さあ。とにかく追いかけよう」
「そうだね」
私は行ってしまったまゆみちゃんを追いかけて、教室の外へと出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます