第5話 律儀な性格

【お知らせ】

 1話~3話までを分割致しました。

 内容的な変更はございませんので、読んでいただいた方は気にせず最新話をご覧ください。



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 ガタンという物音が聞こえたような気がして、祥平は目を覚ました。


「んんっ……ん?」


 慌てて身体を起こすと、ハラリと何かが背中からずり落ちた。

 後ろを見れてみると、床に毛布が置いてある。

 触れれば、暖かい温もりが伝わってきた。

 どうやら、祥平は中谷さんが眠るのを見守った後、机に突っ伏したまま眠りについてしまったらしい。

 カーテンの隙間からは、陽の光が差し込んでおり、薄暗い部屋内を照らしている。


「そう言えば、中谷さんは⁉」


 祥平は、慌ててベッドの方へ視線を向ける。

 しかし、ベッドの上に中谷さんの姿はなかった。


「中谷さん?」


 祥平は室内で彼女の名前を呼んでみるものの、反応は返ってこない。

 カチッ、カチっと壁時計の秒針の音だけが部屋に木霊している。

 布団は綺麗に畳まれており、壁に掛けられていたはずのコートや制服も一式無くなっていた。

 昨夜、中谷さんを家に泊めたのが夢だったかのように、形跡が跡形もなく消え去っている。


「やっぱり、無理に泊まらせちゃったのが良くなかったのかな」


 本当は嫌々泊って行ったから、祥平が起きる前に帰宅してしまったのだろうか。

 そんなことを思っていると、ふと机の上に、何やら白い物体が置いてあるのが目に入った。

 机の上には、ルーズリーフが置いてあり、何やら文字が書かれている。

 覗き込んでみると――


『おはよう。立ち眩みも収まり大分楽になったので、家に帰ります。昨日は看病してくれてありがとう。このお礼はいつか絶対にするから』


 と、丁寧な丸文字で書かれていた。

 中谷さんからの書置きを読んで、彼女が感謝の意を示していることが知れて安堵したとともに、役に立つことが出来たという嬉しさが込み上げてくる。

 晴れやかな気持ちになりつつ、翔平は両手を上げて大きく伸びをした。


 身体をほぐしてから、立ち上がろうとしたところで、膝を机にぶつけてしまう。


「痛っ⁉」


 突然の衝撃に膝を抑えて悶絶していると、ルーズリーフを抑えていた筆箱がズレる。

 するとそこに、何やら文字が書かれていることに気づく。

 何だろうと目を凝らせば――


『P.S 施錠するために鍵を拝借したので、今度学校行ったときに返します』


 と書かれていた。


「そんな律儀にカギ閉めていかなくてもいいのに」


 これも、中谷さんなりの配慮というものなのだろう。

 まあでもおかげで、中谷さんと学校で話す口実が出来たとポジティブに捉えよう。

 学外で色々とあったし、学内でも話しが出来たらいいなと思いつつ、祥平は朝の身支度を済ませ、学校へ行く準備を整えるのであった。


 しかし、祥平は楽観的に捉えすぎていた。

 中谷さんに、ことを……。

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