第4話 困惑
中谷さんが一泊することが決まり、彼女の寝支度を整えるため、祥平はタンスの中から寝間着を持ってきた。
「制服のままだと寝にくいと思うから、俺のスウェットで申し訳ないんだけど、良かったら着てくれ。下着は申し訳ないんだけど、一日我慢してくれると助かる」
「それぐらい分かってるって。むしろこれで、加賀美君から下着手渡されてたらドン引きだよ」
「確かに」
もし仮に、祥平が逆の立場だったとして、中谷さんから男性向けのパンツを差し出されたら、色々と勘繰ってしまうに違いない。
「それじゃ、俺はコンビニに買い出し行ってくるくるから、その間に着替えを済ましといてくれ。ハンガーはコートと同じところに余ってるのがあるから、自由に使って」
「ありがとう。何から何までいたせり尽くせりでごめんね」
「謝らなくていいよ。体調崩してるんだからお互い様。気にしない、気にしない。あっ、そうだ、栄養ドリンクの他に何か食べたいものとかある? 少しでも胃に入れておいた方がいいと思うし、食べられそうなものがあったら買ってくるよ」
「うーんそうだなぁ……」
中谷さんはしばし顎に人差し指を当てて考えた後、すっと子供じみた笑みを向けてきた。
「プリン買ってきて欲しいかな。プッチン出来るヤツ」
「分かった。それじゃあコンビニ行ってくる。15分ぐらいしたら戻ってくるから」
「うん、いってらっしゃい」
「行ってきます」
クラスメイトの女の子に『いってらっしゃい』と見送られ、ちょっぴり不思議な温かさに包まれながら、祥平はドアノブを回して表へと出た。
外廊下へと出て、つま先をトントンとして、靴を履き終える。
ようやく一人になって、祥平は手で口元を覆った。
「ったく……なんであんなに素直なんだよ」
じんわりと熱い胸の奥を外の空気で冷ますように、思っていた感情を吐き出す。
今まであまり関わってこなかったからこそ知りえなかった、中谷さんの性格。
彼女はどこまでも純粋で、気遣いが出来る普通の女の子だった。
だからこそ、教室で忌避されているのが幻なのではないかと疑ってしまいそうになる。
「ほんと、どうして学校ではあんななんだろうか……」
あの気遣いの出来る性格であれば、すぐにクラスメイトとも打ち解けられるはずなのに……。
何か、深い事情でもあるのだろうか?
そんなことを思いつつ、祥平は寒空の中、コンビニへと向かうのだった。
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