第2-3話 意外な一面
「んぁ……お母さん……それ……」
しばらく祥平が撫で続けていると、中谷さんは意識が朦朧としてきたのか、頭を撫でているのがお母さんと勘違いして、独り言を零していた。
まもなくして、スヤスヤと中谷さんの寝息が聞こえてくる。
どうやら、眠りについてくれたらしい。
祥平はふぅっと緊張を解くようにして息を吐き、肩の力を抜いた。
意識を辺りに向けると、カチッ、カチッと、壁に掛けられた時計の秒針の音だけが部屋に鳴り響いている。
視線を中谷さんの方へ戻せば、彼女は無防備な寝顔を晒していた。
その純粋無垢な寝顔は、彼女の元々の美しさも相まって、神聖な雰囲気を漂わせている。
祥平は見てはいけないようなものを見た気がして、即座に視線を逸らした。
思考を紛らわすように、祥平は先ほど零した中谷さんの言葉を思い返す。
中谷さんの元を立ち去ろうとした時に向けてきた、彼女の寂しそうな瞳。
いつも孤高で大人びた雰囲気を醸し出している中谷さんからは想像できないようなか弱い一面を目撃して、彼女もまだ祥平と同じ子供なんだなということを実感する。
それにしても……
「一人にしないで……か」
中谷さんが言い放った言葉をボソっと祥平は反芻し、ちらりと彼女の様子を窺う。
祥平の制服の袖は、中谷さんにギュっと掴まれたままで、離される気配は全くない。
まるで、目の前から祥平がいなくなってしまうのを必死に食い止めるように……。
弱っている状態とはいえ、普段の姿からは想像できないような甘えっぷり。
中谷さんの新たな一面を垣間見てしまい、申し訳なさとむず痒さが祥平の心の中で渦巻いていた。
にしても、祥平を勘違いしてお母さんと呼んでしまうなんて……もしかしたら中谷さんって――
祥平はそこまで思い至ったところで、咄嗟に首を横に振り、頭の中で考えていた思考を振り払う。
「今はそんなこと考えるより、中谷さんの体調が良くなることを考えないと」
自身に言い聞かせるように口にする。
その後も、思考が浮かび上がっては消し去りという葛藤を繰り返しつつ、祥平は中谷さんのそばで見守ってあげた。
中谷さんの体調が、少しでも良くなるようにと願いながら。
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