第2-2話 縋る彼女
「39度2分……こりゃしばらく安静にしておいた方がよさそうだね」
熱を測ってみると、中谷さんはかなりの高熱だった。
横になっている中谷さんは、辛そうにうなり声を上げている。
「ごめんね、ちょっとだけ触るよ」
そう断りを入れて、祥平は中谷さんの前髪を掻き上げ、額に冷えピタを貼ってあげる。
額に触れた瞬間、冷えピタのひんやりとした冷たさに、ピクっと身体を震わせる中谷さん。
しかし、徐々に染み渡る冷たさに慣れてきたらしい、すっと身体が脱力していく。
「何か食べられそう?」
「うーん……栄養ドリンクとかなら何とか」
「栄養ドリンクか……」
プロテインならあるけど、ゼリー状の栄養ドリンク系は家に置いてなかった気がする。
「分かった。それじゃあ、ちょっとコンビニで買ってくるから待ってて」
コンビニへ栄養ドリンクを買いに行こうと、祥平が立ち上がろうとしたところで、不意に制服の袖の辺りに違和感を覚える。
振り向けば、中谷さんが懸命に腕を伸ばし、祥平の服の袖を掴んできていた。
「中谷さん?」
「――で」
「えっ?」
「……行かないで」
必死に紡がれた、懇願するような声音。
中谷さんは、縋るような視線を向けてくる。
「でも……」
「お願いっ!」
すると、中谷さんは何を血迷ったのか、祥平の足元へ顔を押し付けてくる。
「私を一人にしないで……」
今にも泣きだしそうなかすれた声で、弱音を吐きだす中谷さん。
そんな彼女を目の当たりにして、祥平はふぅっと息を吐き、ゆっくりとその場に座り込む。
祥平は寝転がっている中谷さんと同じ高さに目線を合わせ、ふっと優しく微笑んだ。
「分かった。今はそばにいてあげるから、寝れそうならそのまま寝ちゃいな」
「本当にいてくれる?」
中谷さんは、再度確認するように尋ねてくる。
それはまるで、親に甘える子供のようだった。
普段教室で見る澄ました態度からは考えられないような甘える仕草とのギャップに面食らいつつも、祥平は平静を装って笑みを作る。
「あぁ、もちろんだよ」
祥平が朗らかな口調で答えると、中谷さんはようやく表情を和らげた。
「ありがとう……」
中谷さんは、祥平がそばにいてくれると聞いて安心したのか、枕元へ頭を戻し、ゆっくりと瞼を閉じた。
なんだか、中谷さんに対して、庇護欲のようなものが湧いてきてしまい、祥平はつい彼女の頭に手を置いてしまう。
「辛かったよね。もう大丈夫だからね」
そして、中谷さんを安心させるように、優しい言葉まで囁きながら……。
嫌がられるのを承知の上で触れたのだが、予想に反して中谷さんはほっとしたような表情を浮かべた。
「温かい……ありがとう」
「どういたしまして」
怒られなかったことに安堵しつつ、祥平は無心に、トントンと一定のリズムで中谷さんの頭を撫でてあげるのであった。
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