第2-1話 心安らぐ場所?
祥平の家は、閑静な住宅街にあるアパートの一室。
中谷さんを背負いながら、二階へと続く外階段を登り、廊下を伝って扉前まで進む。
祥平はポケットからカギを取り出して鍵穴へと差し込み、施錠を解除する。
ドアノブを回して扉を開き、玄関の中へと入っていく。
室内は暗闇に包まれていて、妙な静けさが漂っている。
中谷さんを一旦玄関先に下ろして、靴を脱がすよう促した。
その間に、祥平は手で壁際を探り、家の明かりのスイッチを押す。
刹那、蛍光灯の光が瞬き、部屋が白い光で満たされた。
室内は一般的なワンルームで、生憎だが、人様を迎え入れるほど綺麗とはいえない。
片付けよりも今は体調回復が優先なので、中谷さんには我慢してもらうことにする。
申し訳ないと思いつつ、鞄を玄関脇のスペースに置き、祥平はもう一度屈みこみ、中谷さんを背負って部屋の奥へと進む。
中谷さんを連れて向かったのは、普段祥平が使っているベッド。
祥平は、彼女をベッドの上へゆっくり下ろしてあげる。
「ひとまず、布団にくるまって温まりな。横になったら少しは楽になると思うから。あっ、今暖房付けるね。部屋もすぐに暖かくなるよ」
祥平は、ローテーブルの上においてあったエアコンの電源ボタンを押して、部屋の温度を22度に設定する。
中谷さんの反応がなかったのでちらりと様子を窺えば、彼女はベッドの上に座り込み、じっと祥平を見上げてきていた。
「どうしたの?」
「いやっ……その……」
祥平が問いかけると、中谷さんは言葉を詰まらせ、視線を彷徨わせた。
そこで、祥平は中谷さんが戸惑っている理由に気が付く。
「あぁごめん。普段俺が使ってるベッドに寝転がるって、流石に抵抗あるよね」
考えてみたら、年頃の女子高生が、異性のベッドに寝転がることに、抵抗感を覚えない方がおかしいというもの。
中谷さんの気持ちを慮ることが出来ず、申し訳ない気持ちになっていると、彼女は首を横に振った。
「そ、そうじゃなくて……ありがとう」
祥平の予想とは裏腹に、ボゾッと感謝の言葉を口にする中谷さん。
そんな彼女の言葉を聞いて、祥平はふっと破願した。
「どう致しまして。それより今は、自分の体調を良くすることを優先して欲しいかな」
「うん、わかった」
中谷さんは頷くと、布団を捲り上げ、躊躇することなくベッドに横になる。
身体の上に布団を掛け、すぅーと大きく息を吐く中谷さん。
すると、中谷さんはわずかに眉根をひくつかせた。
「あっ、もしかして嫌な臭いでもした? ごめん、今消臭剤持ってくるよ」
「そうじゃないから……持ってこなくて平気」
「そう? もし鼻につくとかだったら、いつでも言ってね」
「うん、ありがとう」
ひとまず、不快な匂いがするとかではないようなので、祥平は心の中で安堵しつつ、体温計と冷えピタを取りに行くことにした。
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