第1-3話 温まれる場所

「ひとまず、どこか温まれるところへ行こう。ここにいたら、さらに身体が冷え切って病状が悪化しちゃうから」


 祥平が中谷さんの背中を優しくさすりながら言うと、彼女は抵抗することなく素直に頷いた。


「ちなみに、ここから家は近い?」

「……分からない。意識が朦朧としてて、気づいたらここにいたから……」


 どうやってここに来たかも覚えていないということは、相当無理をしていたのだろう。


 にしても困ったことになった。

 このままでは、中谷さんを安寧の地へ連れて行くことが出来ない。

 祥平はどうしたものかと熟考する。

 

 中谷さんとは、一応中学からの同級生。

 引っ越しなどしてない限り、この近所には住んでいるはず。

 だが、肝心の家がどこにあるのか分からなければ、送り届けることも不可能。

 げっそりしている中谷さんをみるに、道案内をお願いするのも難しそうだ。

 スマホを借りて、ご両親に迎えを頼んでもらうか?


「ゴホッ……ゴホッ……」


 祥平が考えを巡らせていると、中谷さんが苦しそうに咳き込んだ。

 そうだ、彼女は病人。

 家に送り届けることも重要だが、今は一刻も早く、中谷さんを温かい場所へ連れて行くことが先決だ。

 彼女が少しでも、楽な体勢で寝転がれる場所へ。

 そうと決まれば、祥平の頭に浮かんだ選択肢は一つしかなかった。


「なら、一旦俺の家で休んでいこう。俺の家、すぐそこだからさ」


 祥平は、中谷さんを自身の家で休ませていくことを提案した。


 すると、中谷さんは非常に申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「えっ? でもそんなことしたら迷惑じゃ……」

「気にしないで。今は中谷さんの体調が最優先だから。それに……」


 そこで、祥平は言おうとしていた言葉を飲み込み、別のことを口にする。


「とにかく、中谷さんは今、自分の心配だけしてくれればいいからさ」


 祥平はにこやかに微笑みつつ、中谷さんを安心させてから、肩に背負っていた荷物を地面に下ろした。

 そして、中谷さんの前に屈み込み、両手を後ろに差し出す。


「背負ってあげる、寄り掛かれそう?」


 祥平が顔だけ後ろへ向けながら尋ねると、祥平の強引さに折れたのか、中谷さんは電柱に寄り掛からせていた身体をゆっくり動かして、背中へ身体を預けてきてくれた。


「よしっ、しっかり捕まっててね」


 左右の手で、中谷さんのもも裏を抱えて身体を持ち上げる。

 片方の手を一旦外し、地面に置いてある二人分の荷物を手に持とうとしたところで、新たな問題が発生した。


 荷物を抱えたまま、中谷さんをおぶることが出来ない……。

 いくら中谷さんが軽いとはいえ、片方だけで支えるのは無理があるし、万が一病人である中谷さんを落としでもしてしまったら一大事だ。


「体調悪いところ申し訳ないんだけど、荷物だけ持っててくれるかな?」


 祥平が心苦しい思いでお願いすると、中谷さんはぶら下げていた手に力を込め、鞄の持ち手を掴んでくれた。


「ありがとう。すぐ着くから、ちょっとだけ辛抱してね」


 優しくそう言って、祥平は目の前に見えている家へ、中谷さんを担いでいった。

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