第1-2話 ふらつく彼女

 祥平は、クラスメイトである中谷友美なかたにともみの名前を呟いていた。

 

 どうして確証が持てなかったのか。

 それは、彼女が普段教室で纏っている髪色と、全く異なる色をしていたから。

 学校での中谷さんは、前髪をカールしたショートボブの黒髪。

 それに対して、今目の前にいる中谷さんは、クリーム色のストレートの髪を、背中辺りまで伸ばしているのだ。


 ただ、見目麗しい顔立ちや、祥平が名前を呼ばれたことから推察して、目の前に蹲っている人物が中谷さんだと判断したのだ。

 案の定、苗字を呼ばれた中谷さんは、コクリと小さく頷いてくれる。

 目の前に蹲っている人物が、クラスメイトだと分かり安堵すると同時に、祥平は次なる疑問を口にした。


「こんなところで何してるんだ?」


 中谷さんに聞きたいことは山々ある。

 けどまずは、こんな寒空の中、どうして電柱の下に蹲っているのか。

 そんな純粋な疑問を、彼女へとぶつけていた。


「……なんでもない、気にしないで」


 祥平の問いに対して、中谷さんは素っ気なく答えると、手を地面についてからゆっくりと立ち上がろうとする。

 刹那、ふらふらと中谷さんの身体が左右に揺れたかと思えば、すっと力が抜けたようにその場へ再び崩れ落ちてしまう。


「おい、大丈夫か⁉」


 翔平は咄嗟に手を差し出して、地べたへ崩れ落ちた中谷さんの肢体を抱きかかえる。

 中谷さんの肢体に触れて、祥平は初めて気づく。

 彼女が苦しそうに息を吐き、眉間に皺を寄せ、苦悶の表情を浮かべていることに……。


「平気……だから」


 中谷さんは頑なにそう言い張るものの、白磁のように白い肌は上気して赤く染まっており、ぷっくりとした唇は薄紫色に変色していた。

 おまけに、中谷さんはゴホッ、ゴホッと咳き込んでいる。

 体調が悪いのは明白だった。


「いいわけないだろ。ちょっとごめんな」


 祥平は一言断りを入れてから、中谷さんの額と自身の額に手を当て、熱の具合を比べてみる。


「すごい熱い……」


 中谷さんの額は、火傷しそうなほど熱かった。

 どうやら彼女は、高熱を出しているらしい。

 推察するに、歩いている途中に辛くなってきて、この電柱にしゃがみ込んで動けなくなってしまったのだろう。

 中谷さんは、相変わらず苦しそうに肩で呼吸を繰り返している。


「いつからここで蹲ってたんだ?」


 祥平が優しく尋ねると、彼女はポツポツと呟く。


「分かんない……。多分、まだ外が明るかったと思うけど……」


 中谷さんの言う事が本当であれば、彼女はかなり長時間ここで一人寒さに凍えながら蹲っていたことになる。


 北風吹き荒れる寒い冬の夜。

 下手したら、中谷さんの生命に関わってくる。

 まずは一刻も早く、中谷さんをどこか温かいところへ連れて行く必要があった。

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