第15話
書いた脚本が新人賞を受賞した。一応表彰式みたいなものがあって、それに出席した。
「おめでとう、伊丹くん」
近づいてきたのは服部誠二だった。
「服部、久しぶりだな」
「ああ。卒業式以来か?」
「そうだな」
「お前、才能あったもんな」
「在学中に文学賞取ったお前にそう言ってもらえると嬉しいな」
「そんなの覚えてくれてたんだ」
「この前話に出てね」
なんともないような顔をしている。本当は、服部に聞きたいことはたくさんあった。
「この後どう? どっか飲みに行かねぇ?」
さりげなく誘ってみる。ここで会えたのは偶然ではないような気がしていた。
「いいよ。武のことだろう?」
ひやりとする。
「……なんで分かった?」
「武から話は聞いてるから」
涼し気な顔で言う。
「……色々聴きたいな」
別れたはずの武とどうして繋がりがあるのか。内心穏やかではなかった。
「半年前くらいに家は出ていったよ。俺は別れたつもりないけど」
カクテルを眺めながら、服部はそう言った。
「だから連絡したんだよ。そろそろ帰るって。そしたらもう伊丹くんと付き合ってるし、別れたはずだから帰ってくんなって。ひどいよね」
言葉が出ない。何言ってるんだ、こいつ。
「だから今日会えて嬉しかったよ。これではっきり言える。君は武の恋人には相応しくないよ。現に俺が恋人だし」
「……妄言もいい加減にしろよ」
「だって別れてないもん」
「子どもか。そんな我儘通用しねぇよ。お前、武の家から出ていったんだろ? 武もはっきり別れたって言ってたし」
「そんなの嘘に決まってるじゃん」
切れ長の目が俺を捉える。
「武の今の恋人は俺なの。誰にも渡さないよ」
「そのくせ、頻繁に家空けてたんだろ。大事にしてたとはいえない」
「お前には分からないよ」
ふぅっと煙草の煙を吐く。俺の鼻先をかすめて、立ち昇っていく。
「……文学者ってのはみんなお前みたいなの? 我儘で自己中でさ」
「言うねぇ。色々だよ」
「そうか……」
俺は立ち上がる。
「とにかく、お前はもう武とは関係ない。もう俺達に関わらないでくれ」
「へへ。また会おうね」
「今の聞こえてたか?……じゃあな」
手を振ってバーを出る。
なんとなく、嫌な予感がした。また会う気がする。武が苦しい思いをするのだけは避けたかった。
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