第12話

 夢を見た。美咲と武と一緒に電車に乗っている。大勢の乗客が出たり入ったりする。俺の隣りにいるのが武。向かいに座っているのが美咲だった。美咲は俺に話しかける、

「私は次の駅で降りるからね」

 俺は、それも仕方のないことだと思う。だって、本来なら美咲はここに呼んでいい人ではなかった。俺のわがままで引き止めていただけだったから。

「何か言わなくていいのか」

 武は俺をせっついた。俺は美咲に歩み寄り、言った。

「ありがとう、美咲」

「いいのよ。私のほうでも、用事はあったから。でも、ここまでみたいね」

 美咲は電車を降りていった。車内には誰もいなくなった。俺は武の方を見た。

「武は降りなくていいのか」

「俺はお前の降りる駅で降りるよ」

 そうだった。俺と武はどこまでも一緒にいるのだ。俺は武の手を握った。永遠の充足感が俺を包んだ。


 はっと目を覚ますと、武はキッチンで何かを焼いていた。

「航平、起きた?」

「武……おはよう」

「幸せそうな寝顔だったぜ」

「そうかもしれない……」

 頬をもみほぐす。洗面所で顔を洗って居間に戻ると、美味しそうな目玉焼きとサラダが食卓に並んでいた。

「美味そ〜」

「だろ?」

 いただきます、と手を合わせて一口食べると、じゅわりと旨味が口いっぱいに広がった。

「美味しい」

 武は頬杖をついて、俺の食べる姿を見ていた。

「美咲と話し合うよ」

「泣かせるなよ」

「大丈夫」

 やけに白い朝だった。俺は武の家を出た。

「またな、武」

「うん」

 朝日の中を歩いていった。光が町に満ちていた。


 美咲は泣いた。大丈夫などではなかった。

「……航平に好きな人ができたっていうなら諦められる」

 美咲は泣きじゃくりながら言った。

「……昔の恋人なんだ」

「結局、その人がずっと好きだったのね」

「俺は……俺は美咲に、母親を投影してた。そんなことをしても不毛なのに」

「不毛なんかじゃないわ。それだって繋がりの一つでしょう」

「……恋愛じゃないんだ。そのことは美咲もよく分かってるんだと思うけど……」

「それで良いって言ったじゃない。それに私、体の繋がりだけを求めてるわけじゃない」

「君は……俺に弟さんを投影してるんだ」

 美咲ははっとした顔をし、黙りこんだ。

「亡くなった人は戻ってこないんだよ。俺は弟さんじゃない。きっとそのことは、美咲もよく分かっていると思う」

「……」

 美咲は涙を拭って、自室に入っていった。俺は美咲がまた出てくるのを待った。じっと待っていた。

 やがて出てきた美咲は、泣きはらした顔で微笑んでいた。

「別れましょう、私達」

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