第10話
手洗いから出ると、武が渋い顔をしていた。
「ちゃんと美咲ちゃんと話し合うんだぞ」
「うん、分かったよ……」
さっきは一瞬微妙な空気になったが、武が「浮気の片棒担ぎたくない」
と言って、俺は頷いた。キスした時点で微妙なラインかと思うが、なんとかそれ以上は踏みとどまった。
月明かりが差し込む部屋で、武はぽつりと言った。
「高校生の時、お前付き合ってた子いたろ」
「いたな〜、真帆ちゃんね」
「最近連絡あってさ……お前が今どうしてるか聞いてきたんだ」
「まじか」
「フリーターしてるって言っといた」
「あはは。まぁ事実だな」
「そっから連絡来ないけど……」
「なんか残酷だな」
「お前、真帆ちゃんのどういうところが好きだったの」
「優しくて面倒見いいところかなぁ」
「やっぱり母親を求めてるんじゃないか」
「そうかもな……物心ついたときにはもう、母はいなかったせいもあるかも」
「そんな簡単に因果関係は分からないよ」
「……確かに」
なんとなく救われた気がして武のほうを見る。
「武はどうして俺のことが好きなの」
「……分からん。気づいた時には」
「いつ、気づいたの」
「……高3の時の放課後、進路話し合った時あったろ」
「うん」
「同じ大学の同じ学部だって知って、自分でも驚くくらいに嬉しかった。それで」
「……そうだったんだ。俺も嬉しかったな。サークルまで一緒だったのは面白かった」
「俺はお前が思ってる以上にお前のことが好きだよ」
急にそんなことを言われてどきりとした。
「今だってほんとは側に行きたいと思ってる」
「……ごめん、応えられなくて」
「いいんだ」
武はこちらに顔を向けた。
「こうしていられるだけで満足だから」
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