第7話
突然のことに僕自身も固まってしまったが、僕にも春が来たようだ。
「何で黙ってたんだよ~、ユウちゃんずるい!羨ましい!」
と、タケにうざったい絡みを方をされるが、そんなことが気にならないくらい僕は浮かれていた。
委員会が一緒になったことがきっかけで話すようになったクラスメイトで、読む小説や観る映画の趣味が合う子だった。インドアな趣味とのギャップというか、教室では元気一杯でニコニコと笑うその人懐っこさにも密かに惹かれていた。だから、半期しか任期の無い委員会が終わってしまうときに、関係が無くなってしまうのが惜しくて告白した。いつも元気な彼女が静かに頷いてくれたあの瞬間は、きっと忘れられない。
僕が全然へこたれないので、飽きたタケは今度はリュウにターゲットをうつしていた。
「俺の仲間はリュウといっくんだけだよ」
「はいはい、どうも」
「なんだよ~、リュウも素っ気ないなあ」
「仲間だって言われてもな、そりゃ嬉しいわけねえだろ」
ポケットから取り出した飴をタケに渡して、リュウはてきとうに宥めていた。自分の教室へと戻っていくタケを見送りながら、リュウに話しかける。
「やっとタケ帰ったなあ」
「ああ、ユウちゃんも大変だったな」
「まあ、初めだけだろうからな。ナベさんのときも初め絡むだけ絡んですぐに飽きてたし」
「そうだった、そうだった。そういえばナベさんまだ彼女と続いてるな」
「そうだなあ。ナベ先輩にコツ聞こうかなあ……」
僕は真剣な気持ちで呟いたのだが、リュウに笑われてしまった。僕が思わず口を尖らせてしまったので、リュウは否定しながら続ける。
「何か特別なことしなくてもユウちゃんは大丈夫だろ」
「そうかなあ」
「お姉さんいるんだし、お姉さんにもアドバイス貰えば?」
「うちの姉ちゃん頼りにならないよ。この前、家に来たとき会ったから分かるだろ」
「可愛らしいお姉さんだったな」
「リュウ、そういうとこあるよな。うちの姉ちゃんはリュウみたいな顔がタイプでテンション上がっちゃったんだよ」
「まじ?お礼言っといてくれよ」
「だからそういうとこだって」
リュウは時々、年相応に笑う。リュウと軽口を叩き合うのがなんだか久し振りで、僕はその調子で言ってしまった。
「な、リュウもアドバイスくれよ」
そのとき、リュウの顔から一瞬表情が消えた。その一瞬だけで、リュウは僕が秘密を知っていることを知っているんだと悟った。リュウはすぐに笑顔を取り繕って、
「俺に彼女いないの知ってるだろ、アドバイスなんてできねえよ」
何か言おうと思ったが、何を言っても墓穴を掘ることしかできそうになくて、僕はひきつった笑いを返す。リュウは自分の席に戻っていった。心臓がバクバク鳴っているそのままで授業を受けたが、午後の移動教室に向かう頃にはいつものように話せたので、少しホッとしている。
放課後は早速彼女と過ごすことにしていたので、リュウと別れて待ち合わせしている下駄箱へと向かう。彼女を見つけた途端僕もつられて笑顔になる。付き合って初めて一緒に歩くので、ずっと緊張している状態が続いて何だかぎこちない。彼女も同じだったようで、それに気付いたときに思わず笑いあってしまった。その笑顔に堪らなくなって、彼女の手を握った。真っ赤になりながらも、その手は握り返してくれた。口許が緩んでいるのを慌てて隠したが、見られてしまったかもしれない。
ふと横を見たとき、店のショーウィンドウに僕と彼女が映っていた。手を繋ぐ僕らが映っている。なぜかリュウの取り繕った笑顔を思い出した。リュウといっくんは一緒に歩くとき、きっと手は繋がない。彼らはそういうことを人目のつくところではきっとしない。それは世間がどうだということよりは、いっくんとリュウの性格上やらないのだと思った。二人がそれでいいのなら何も言うことはないけれど、本当にそれでいいのだろうか。こう思うこと自体が、なんだか思い上がっているような気分にもなってしまう。彼女に訝しげに声をかけられて、僕は頭の中にこびりついたそれを一旦見ないことにした。せっかく好きな人といるんだ。僕は彼女に笑いかけた。その笑顔がひきつっていたかどうかは分からないけれど。
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