第4話

 確信めいたものが混ざり始めた。

 何となく昼休みに駄弁っていたときだった。タケとリュウが購買に行っていたのだが、先にタケが戻ってきた。男気じゃんけんで見事勝ち上がったタケが僕らにジュースをご馳走してくれることになったのだが、購買に行きたいからとリュウもついて行ったのだった。購買に行きたい、というのは嘘ではないんだろうけれど、タケがジュースを抱えるのを手伝おうとも思ったのだろう。リュウはそういう奴だ。だからタケが一人で戻ってきたのは予想外だった。タケが次々とパックジュースを渡していく。僕も受け取ったところで、

 「リュウと一緒じゃなかったのか?」

 「そうだよ、どうせあいつ、ジュース持つの手伝うよ~とか言ったんだろ。俺らが嫌な奴みたいじゃん」

 と、いっくんがぶすくれているのなんて何のその、タケが身を乗り出した。

 「そうなんだよ、聞いてくれよ!購買に行ったらさ、リュウの奴、女子に声掛けられてた!」

 「まじ?それ絶対告白じゃん」

 と、ナベさんがパックジュースにストローをさした。勢い良く飲んで息を吐くと、

 「でも実際さ、なんか納得しねえ?リュウ優しいじゃん」

 確かになあ、同調しながら僕もパックジュースに口をつける。何となくいっくんを見ることができなかった。そこに今度はタケが続けた。

 「いっくん、黙ってんなよ」

 「え、俺?」

 「しらばっくれんなよ。この前告られたらしいじゃん。女子が噂してたぜ。何で教えてくんなかったんだよ」

 そうなの、といっくんに聞くと、おずおずと頷いた。居心地が悪そうに、パックジュースを啜っている。

 「あんま言い触らすようなことじゃねえだろ」

 「告った女子が言い触らしてちゃ何だかなって感じだけどな」

 と、ナベさんが苦笑していたが、変わらずにいっくんは続ける。

 「でも一応、真面目に気持ちを伝えてくれたわけだしさ、俺がペラペラ言うことじゃねえじゃん」

 「いっくんって良い奴だよねえ。僕、いっくんにはそのままでいてほしい」

 「褒めてくれて嬉しいけど、何でユウちゃんはニヤニヤしてんの」

 「聞いてねえよ、とは思ったけど、まあ告られた本人がドヤ顔で言い触らしてたら萎えるよな」

 「俺も聞いてねえな、それ」

 と、上から降ってきたリュウの声に、いっくんだけじゃなく僕も固まってしまった。おかえり、とタケとナベさんは呑気にリュウを出迎える。リュウは近くの席から椅子を持ってきて、いっくんの目の前に置いた。そのままどっかりと座っていっくんの顔を覗き込む。

 「で?告られたんだって?」

 「お前だって……、リュウだって。さっき呼び出されてたんだろ、告られたんだろ」

 「そうだけど。いっくん、俺の質問に答えろって。告られたの?」

 「そう、だけど」

 「いつ」

 「えっと、先週」

  へえ、とリュウが目を細めた。タケとナベさんがケラケラと笑っている。

 「リュウ怖えな、尋問かよ」

 「俺らの間に隠し事はなしだぜ。なあ、ナベさん」

 「そうだな」

 「さっき、いっくん良い奴~って言ってたじゃねえかよ」

 「やっぱりそんなことなかったわ」

 「ナベさんもタケもふざけんなよ」

 やいのやいの言っているところで、僕は焦って口を挟んでしまった。

 「い、言えないこともあるだろ!」

 皆、びっくりした顔で僕を見る。そんな顔のままタケが口を開いた。

 「ユウちゃん、そんなマジにならなくても」

 「あ、そうだね。ごめん……」

 いっくんは笑って僕の肩に腕を回してきた。

 「ユウちゃん、良い奴だなあ」

 そのとき予鈴が鳴ってそれぞれが立ち上がった。ありがとな、といっくんは小さく笑った。僕は曖昧に頷くことしかできなかった。



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