第3話 あんニャ事やこんニャ事.......これぞハーレムの醍醐味ニャ!?

「よーっし!ビバハーレム!ビバイケメンマジック!かもんぬイケメーン」

 容姿は.......と許可したが運の尽き。

 咲希は第2、第3.......のイケメンを創造すべく、意気込んだ。


「.......んーで、どうやるのー?さっきみたくすればおけ?」

「いや、それではコストが高すぎる。もう少し能力を控えたほうが良かろう。我に与えた膨大な知識も然り。知識など後から幾らでも教えられる。知識の為に無駄にスーポを消費するくらいなら、その分知能を与えたほうが良かろう?」


「んー.......?おっけー。んじゃー知能ホイってして、えっとー.......」

「能力はその10分の1程度で充分だろう」


「うんんー.......10個にフンッ!ってすれば良きよねー」

 咲希の脳内では、デカデカと“のうりょく”と書かれた楕円形の何かをぶった斬る映像が浮かべられた。

「まぁ、そう急くな。ひとまず座るが良い」

 ホークは暴走する咲希を止め、そう促した。

「ん?.......おっけー」


 ホークも咲希の横に腰掛けると、スクリーンを思念で操り目下まで移動させた。

「おー.......そんな事も出来たんだー」

「ふんっ。当然だろう」

 確かにこれだけの事が出来て、スクリーンの移動は不可能だなんて可笑しな話だ。


 咲希は何やらスクリーンを操作し始めたホークに身を寄せ、ジッと見守った。


「うむ、これで良かろう」

 ホークは打ち込んだ文字をスクロールしながらざっと読み流すと、満足げに頷いた。

「.......すごー.......」

 咲希は読めた一部の文字から、ホークが打ち込んだのは先程の会話に通ずる内容である事を理解した。


「.......本来、スーピー及びスーピッターが人員を創造する際には、この創生ツールを使用する。我については例外だと思え」

「へ、へぇ.......」

「知能、能力は妥当だろうラインに.......知識も最低限は打ち込んだ。後は容姿や性格.......咲希の好みに仕上げれば良い」

「.......あ、う、うん。あーとー.......」

「家具制作の要領で、己がイメージを注ぎ込めば良い。それから.......ひとまず3名程度に留めておけ。それ以上を求むなら、新たなルームを作ってからだ」

「ん、りょー」

 そして咲希はウンッとイメージを送り込んだ。


 まず創造されたのは、銀髪銀目のこれまた美男だ。

 名はディーンと名付けられた。

 何処より現れたディーンは咲希を見付けると、真っ先に歩み寄った。

「ぁ.......ンっ.......」

 初対面にも関わらず、あろう事かいきなり口付けした。

 しかし既に合意の上なのでセーフだ。

 乙女ゲーのキャラクターを超えし人外にのみ許された所業である。

 ディーンは暫し柔らかな感触を味わうと、ジッと咲希の目を見つめた。

「フン.......」

 しかしそれも束の間、ディーンは咲希から視線を外すと、今度はホークを見やった。

 ホークは静かに見つめ返し、2人は暫し見つめ合った。


 ディーンは咲希の足元から立ち上がると、ホークの元へ歩み寄り右手を差し出した。

「.......ナンバーゼロ、と呼ぶべきか。ディーンだ。よろしく頼む」

「.......我はホーク。.......色事に励むは良いが、咲希を傷付ければ生かしてはおかん」

 ホークはそう言い、短く握手に応じた。

 ホークの言葉にディーンは“フン”と鼻で笑い、咲希の元へ踵を返した。


 それから未だに夢見心地な咲希に、再び口付けした。

 咲希は満更でもないと酔いしれ、ディーンに身を任せた。

 唇に甘い刺激を受けながら、優しく頭部を撫行く温もりを感じた。


 ふと温もりが離れて咲希が目を開けると、ディーンがジッと目を見つめていた。

 信じられないほどの絶世のイケメン.......。

 夢かうつつか.......咲希は夢だったら夢を呪ってやると思った。

「ンっ.......」

 ディーンがスっと唇をひと撫ですれば、咲希は甘く息を漏らした。

「.......フン.......もっと可愛いがってやろう」

 とても尊大で自意識過剰なセリフ.......されど咲希の心には的確に突き刺さった。

 どうしてくれるのだろうと、期待に熱く気持ちを昂らせ、コクリと小さく頷いた。


 ディーンは咲希を抱きかかえて壁に凭れ、己の脚の上に座らせた。

 言わずもがな、咲希はディーンのそんな行動にキュンと心をときめかせた。

 暴走しつつある衝動を何とか宥め、ディーンの次の行動を待った。

「フン.......」

 ディーンは咲希の後頭部に手をやると、グッと引き寄せた。

「ぅんんッ.......」

 のしかかるような体制は第三者から見れば、咲希がディーンに襲いかかっているように思えるだろう。


「ンっ.......ぁ.......ふぁン.......ンンぅ.......」

 2人の口付けは段々と深まっていき、静かな部屋にピチャリと水音が響いた。

 たかが口付けに、咲希はかつてなく満ち足りた気持ちを感じていた。


 一方、ホークはそんな2人の様子を暫し見守っていたが、問題なしとの判断を下した。

 一人スクリーンに向き合い始めた姿は、何処か寂しげな佇まいだった。

 今度は何をするのか.......考えなしな咲希のフォローをする為のようだ。

 実のところ、生活に必要な物品はまだまだ足りていない。

 それは本来、システムルームの内装よりも優先すべきもの.......そう、便所、風呂、食事だ。


 ホークはまず、便所の制作に取り掛かった。

 ピンクに染められた部屋から咲希の好みを分析し、便所にもピンク色を使用する事にした。

 居住用ルームを増築し、幾つかの個室を設置。

 肝心の便所と、手洗い場も忘れずに設置した。

 咲希が仕上げたシステムルームには扉がない為、代わりに両ルームに転移装置を設置した。

 膨大な知識と神にも等しい知恵、人外な能力を以てすれば、それらはあっという間に出来上がった。


 ホークは次に風呂作りに取り掛かった。

 例の如くシステムルームがアレな為、こちらも独立した部屋にし、転移装置を設置するようだ。

 その位置は脱衣場にと決定した。

 何故だか知っている咲希の願望や性癖を考慮し、何処のスペースもゆとりを持って広めに作っていく。

 手始めに脱衣所だ。

 咲希の趣味に則り、ラブリー且つ子供っぽすぎない内装を心掛けた。

 仕上げはホークにしてみても上々のよう。

 化粧台完備の、まるでお姫様が使っていそうな雰囲気となった。

 続いて浴室だが、足を滑らせない配慮は当然、程よく柔らかい材質を厳選した。

 シャワーはキラキラ好きな咲希を思い、ヘッド部分にライトを搭載し、オンオフ機能を付けた。

 シャンプーなどを備え付けたら、浴室、脱衣所、便所の順に点検だ。


 お楽しみ中な2人を横目に静かに立ち上がり、システムルーム壁に備え付けた転移装置へ向かう。

 転移装置はラブリーな内装を邪魔しないよう、僅かに濃い程度の同系色が用いられており、ほんの小さなスイッチのような見た目に仕上がっている。

 転移したい際にはその装置部分へ触れ、念じる事で作動する仕組みだ。

 その際は転移したい事と、どこへ行きたいかの2つを念じる必要がある。

 これは設置した3つの転移装置が同一である為だ。

 ホークは今後も部屋が増設される事を考慮し、いずれかと対.......といった仕様ではなく、いずれの部屋からいずれへも転移出来るようにと、全てを繋げられる仕様にしたのだ。

 ホークが装置へ触れる直前にチラリと2人を見やると、内、片方と目が合った。

 ホークはその人物へ対し、暫く咲希を頼むぞと念を送った。

 普通の人間であれば嫉妬するか嫌悪するかしても良いところなのだが、ホークにそういった感情は一切ないようだ。


 順次試用していった結果、全ての機能は正常に稼働。

 ホークは異常なし、と満足げに頷いた。


 再び浴室に舞い戻り、最後の仕事だ。

 すべき事など言わずもがな。

 最後の仕事とは、浴槽に湯を張る事である。

 ホークは先程の2人の仲睦まじい様子を見て、万が一があるかもと考えたのだ。

 並々と湯を張ると、キッチリ己の手を生贄に温度を確認した。

 さて、ひとまずの仕事はこれで終わりだ。

 ホークは転移装置を使用し、システムルームへと戻った。


 ホークが戻るとディーンはすぐにそれに気付き、行為を止め、ジッとホークへと視線を送った。

 ホークは見つめ返し、咲希はぼんやりとした様子で気付いているのかいないのか.......。

「.......腹は?」

 先に口を開いたのはホークだった。

「.......俺は平気だが。.......咲希、お前は?」

 ディーンがそう尋ねるが、咲希は中々答えなかった。

 決して聞こえていない訳ではない。

 しかし脳がそれについて考える余裕はないようだ。

 依然とぼうっとし、その視線はディーンの唇を捉えている。


 ディーンがグッと顎を押し上げ、無理矢理視線を合わせさせようと試みたが、咲希の目は盲目に唇を追い掛けた。

「.......フン.......快楽に溺れ無視するようじゃ、お預けだな」

 しかしその言葉も、咲希には届かなかった。

 果たしてそのような状態に追いやったほうが悪いのか.......望み、自ら陥ったほうが悪いのか.......。

 この状況ではどちらとも言えまい。


「.......ぁ.......えぇと.......ん、あーと」

 暫くして漸く正気に戻った咲希は、何に対してか礼を述べた。

「.......フン.......」

 ディーンの返事を聞いてからスっと立ち上がり、ホークを見付けるとその隣へと歩み寄った。


「ホーク、次、呼んで良いー?」

 何事もなかったかのような振る舞いは、もはや清いとさえ思える。

 尚、先程された質問は既に、咲希の頭には残っていなかった。

「ふんっ.......好きにするが良い」

「わーい」


 そんな調子で程なくして、もう一人の男が生み出された。

 透き通るような金髪にシトリンのようなイエローの目.......名をレオという。

 先の2人とは少々系統が異なり、優しげな顔立ちをしている。


 しかしレオもやはり一目散に咲希の元へ行くと、手を取り、その甲へ口付けた。

 咲希は出かかった奇声を堪え、幸せを噛み締めた。

 紅潮する頬だけは、咲希にもどうしようもなかった。

「お呼びに与り光栄です。.......なんてね。よろしく、咲希」

「よ、よろー」


 それからレオはホークとディーンとも挨拶を交わした。

「2人もよろしく。俺はレオ。2人は?」

「我はホーク。よろしく頼む」

「ホーク、ね。うん、こちらこそ」

「.......ディーンだ」

「ディーン、良い名前だ。よろしくね」

「.......フン」

「うんうん、皆仲良くねー」

 咲希はそう締めくくると、“さ、ラストイケメン召喚しよー”とスクリーンに向き合った。


「いでよー、イケメーン」

 緩い掛け声と共に生み出された男は、明るいミルクティーピンクの髪に同色の目。

 名をクインという。

「うは〜っ!きゃわわー」

 可愛いのかどうかはさておき、柔らかな髪色の影響か甘い雰囲気を纏っている。


「ん.......よろしく」

「え、マジきゃわわー。ちょ、え、むりー」

 咲希はクインの前へ歩み寄ると、背伸びをして手を伸ばした。

「ふわーふあー」

 見るからに触り心地が良さそうな髪に引き寄せられたようだ。

「.......ん」

 クインは目を閉じ、気持ち良さそうにされるがままとなった。


「ふはぁ〜.......マジ天国.......ねぇーホークー.......私、ちゃんと生きてるー?」

「ふんっ.......案ずるな。脚が透けていたりなどしない」

「うーん.......」

 咲希は気の抜けた返事をした。


「あ、皆ー、クインだよー。クイン、左の黒いのがホークで、真ん中のがディーン、あっちがレオだよー。皆、仲良くねー」

「.......ん」

「よろしく」

「よろしく頼む」

「.......フン」

 咲希は皆が挨拶をしたのを見届けると、クインの手を引き、ホークとディーンの間に座らせた。

 それからクインの後ろから抱き付く形で、己も腰を下ろした。


 咲希は左手をクインのお腹に回し、右手でフワフワとミルクティー色の髪を撫でている。


「.......ひとまず、今日はここまでにしたほうが良かろう。焦っても良い事はない」

 うつつを抜かす咲希を見かね、場を取り仕切ったのはホークだ。

 まだそう遅い時間ではないが、咲希の様子を見て、これでは身が入らないだろうと考えての事だ。

「ん.......」

「.......最低限必要だろう設備は制作した。トイレ、風呂.......他に今すぐ作るべきものはあるか?」

「あ.......忘れてた。あーとー。.......んー.......特にないかなー?」

「ふむ。」

「って思い出したらトイレ行きたくなってきた。ちょと行ってくるねー。トイレ何処ー?」

「案内する。着いてこい」

「ん、よろー」


 ホークは例の転移装置の前まで咲希を連れ添い、簡潔に説明した。

「あーね.......ホーク天才.......」

「ふんっ.......これしき、大した事なかろう。理解したなら実践だ。さっそく操作してみるが良い。教えた通りにやれば出来る筈だ」

「おっけー。.......うーん.......」

 ウンっと念じると摩訶不思議、咲希はスっと姿を消した。


「おー.......これマ?」

 咲希は一瞬にして切り替わった光景を見つめ、シバシバと目を瞬いた。

「ふんっ.......まだ言うか」

「えー.......だってさー.......」

 言い返そうとしたものの、上手く言葉が浮かんでこなかったようだ。

 早々に言い訳を諦め、ホークに倣ってスリッパを履いた。


「着いてこい。見れば分かるだろうが、念の為説明する」

「はーい」

 ホークはまず手洗い場を案内した。

 転移直後の位置からも丸見えであり、見た目も咲希の理解の範疇にあった。

 薄ピンク色の洗面台はくどくない程度に宝石があしらわれており、咲希は小さく笑みを零した。

「きゃわわー.......」

 己の為のデザインである事は明白、その配慮は的確であり、何よりもホークが己の為を思って作ってくれた事が嬉しかった。

「気に入ったなら何よりだ。使い方は簡単だ。咲希の知る蛇口と同様、水はこの管から出る。水を出すには転移装置同様、念じれば良い。それは止める際も然り。それから水温は2段階に調節出来るようにした。質問は?」

「んー.......ちょっと使ってみて良いー?」

「ふんっ.......好きにするが良い」

「あーとー」

 咲希は“水でろー”、“止まれー”、“お湯ー”、“止まれー”.......と一通り操作を試した。

「ん、おっけー」

「ふむ。では次に行こう」


 それからホークは肝心の便器の使い方も教授した。

 咲希が理解した事を確認すると、ホークは一足先にシステムルームへと戻って行った。


「.......ふぅ.......」

 咲希はひとまず目的を果たし、一息ついた。

 手を洗い終えるとそのまま鏡を見つめ、ぼんやりと考え込んだ。


 これは夢なのか現実なのか.......

 どちらにせよ、この状況は一体何なのか.......

 あの有り得ないイケメン達は何なのか.......


 それからディーンとの口付けを思い出して頬を染め、自身の唇を指でスっと撫でた。

「.......っ.......やばたん.......マジ意味分かんない」

 しかし、甘い刺激を思い出したせいか、もはや何もかもがどうでもよく思えた。

「.......ってディーンのやつ、酷くない?」

 唐突にお預けをくらった事に、かなり不服に感じているようだ。

「.......はぁぁ〜.......むり死ぬ.......」

 襲い来る甘い疼きを抑え込まんと、ギュっと固く目を閉じた。

 それから暫し深呼吸をし.......。

 しかし抑えようと思えば思うほど、先程の事が目に浮かぶよう。

 仕方なく、気持ち冷めやらぬまま部屋へ戻る事となった。


 咲希が彼らに慣れるには、もう暫し時間が掛かりそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る