第25話 消えない傷

「ロア様の様子はいかがでしたか?どこか体調が優れないところがあるのなら、今すぐにでもロア様の所へ参りますが」

「体調は大丈夫みたいだけれど、私にはやっぱりロアが無理をしているように見えた。記憶をなくすことには成功したみたいだけれど、身体は言うことを聞かないみたいで、私たちが過去にしてしまった過ちを覚えているみたいで」

「...........やはり、そうですか。うっすらとですが、私もそんな気がしていました」

「お姉ちゃんって呼んではくれているけれど、ロア君の事が大好きな私は分かったよ。ロア君が無理して私の事を‘‘お姉ちゃん’’って呼んでることくらい」


 彼女たちの顔が一様にして曇った。


 ロアの前では抑えていたものの、先ほどのロアの態度から拒絶されているような感覚になり彼女たちの心は闇に落ちていた。


 いくらロアが忘れようと、ロアに対してしたことは永遠に消えてなくならないのだと知り、そしてそれから目をそらすことはできないと改めて理解させられた。逃げるつもりもなかったし、受け止めきるつもりであったし、これからの人生全てをロアに捧げると誓っている彼女達だったが、ロアに心の底では拒絶されているのだと理解させられるのが何よりも堪えてしまった。


「ロア様、私は間違った道へと進んでしまったのでしょうか?ですが、こうしなければロア様は嫌な記憶を一生背負い、私をあんなふうにした愚か者を誘い出すなんてことが出来ない。己の無力を呪うばかりです。あぁ、ロア様、どうかお許しいただけないでしょうか」


 アリアはその場で涙を流し、膝をついて懺悔をするような形をとった。その目から零れ落ちる涙すら濁って見える。


「やっぱり、私はロア君のお姉ちゃんにはなれないのかな?ロア君にあんなに無理をさせているダメダメな人間なのにお姉ちゃんになんてなれるはずないよね。でも、優しいロア君は無理をしてでも私の事をお姉ちゃんって呼んでくれているんだもん。ロア君の期待に応えないといけないよね。ごめんね、ロア君。ロア君のお姉ちゃんとしてふさわしい人間になるから。だから、嫌いにならないで。拒絶しないで。一緒にいさせて」


 リリアはぺたりと床に座り込み両手で顔を覆って涙を流した。やはりその涙すらも濁っている。


「ロア、ごめん。本当にごめんね。ロアの幼馴染なのにロアに迷惑ばかりかけるこんな私でごめんなさい。でも、私はロアから離れられないの。私がロアから離れたら、私は私じゃなくなっちゃうから。ごめんね、ロア。許して。そばにいさせて」


 天を仰ぐようにしてミアはそう言って涙を流す。


 三人の押し殺すような嗚咽が部屋に溶けては消えていく。


 だが、ロアへと与えた暴力や暴言では済まされない過去の傷は消えてはくれなかった。

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