第23話
長い夢を見ていた。だが、詳しくは思い出せない。だが、いい夢ではなかった気がする。とても痛くて悲しくて辛い夢だった。思い出そうとすると吐き気がする。
目を覚ますとそこは見知らぬ所だった。
「.............あ、ロア様起きたのですね」
「あ、アリア。おはよう」
「あぁ、お労しい。そんな姿にしてしまった私をお許しください。お守りすることができずに」
体を起き上がらせようとするもどうも自由が利かない。思えば片目には何も映っていないし、いったい何があったんだ。
「ロア様、覚えていらっしゃいますか?ロア様が森で魔獣に襲われてそのような姿になってしまったことを」
「.............え?」
思い出そうとするも靄がかかってしまい何も思い出すことができない。森に行った記憶もなければ、ここ最近の記憶がすっぽりと抜け落ちている。聖女と呼ばれるアリアが言っているし、彼女のことは信頼しているからきっとそうなのだろうけれど、何故か今日は彼女のことを信じ切れなかった。
それに何故だろう。.............彼女のことを見るとほんの少し距離を置きたくなってしまう。いったいどうしたんだろう、僕は。アリアがあんなに涙を溜めて僕を心配してくれているのに。
「きっとロア様は、辛い経験をした為その記憶を体が無意識に消してしまったのだと思います」
「なるほど、確かにそうかもしれない。ごめんね、アリア。心配をかけて」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。私がついていながらこんなことになってになってしまって」
「いや、多分僕が悪いから。謝らないで、アリア」
片手を伸ばして、アリアの頭を撫でようとして寸での所で止まってしまう。心がそれをストップしていた。いつもならば何も思わず頭を撫でていたのに、どうしてか彼女に忌避感を覚えてしまった。
どうして。
僕はその感情を押し殺して彼女の頭を撫でる。胸がムカムカするがきっとこれは魔獣に負けた自分への不甲斐なさの気持ちなのだろう。一緒にいたと言っていた彼女に責任をどこか押し付けてしまっているから、こんな気持ちになっているのかもしれない。
なんてひどい人間なんだろう、僕は。
「ロア様、大丈夫です。私が傍にいますから。今度こそロア様を守りますから」
「ありがとう。アリアは優しいね」
「ッいえ、そんなことありません。ロア様の方がずっと優しくて賢いお方です」
「そんなことないよ。アリアはいつも頑張ってるしみんなの事を笑顔にしているし、貧しい人にも食べ物を分けてあげたりだとか、孤児院に寄付もしているし。アリアは本当に偉くて、すごいなっていつも思ってるから」
「っ!!!ありがとうございます、ロア様。私、これからも頑張りますね」
「あんまり無理しちゃダメだよ?」
「大丈夫です。ロア様に褒めてもらえるだけで私は生きていけますから」
ゾクりと体が震えた。彼女はにこりと笑っているはずなのに、どこか恐ろしくて仕方がなかった。どうしてだろう、なぜだろう。
僕の頭は疑問で埋め尽くされていくが、一向に答えは導くことができなかった。
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