第22話

何か違和感を覚えたのは、今朝彼女たちにあってからだった。どこか彼女たちの様子がおかしい。いつも通りに見えて何処か浮足立っているように見える。今日は学校で何かイベントごとでもあっただろうかと頭を働かせてみるものの全くと言っていい程検討が立たない。


 彼女たちの機嫌が良いことは、僕やクロエの負担が減るだろうからこちらとしては嬉しいし、平穏に過ごすことができるし彼女たちが何か嬉しいのであれば、あんなことをされた後でさえ僕も少しだけ嬉しいと思ってしまうのはお人よし過ぎるだろうか。


 相も変わらずどこか重たい空気を漂わせている教室の扉を開けるとそこにはエリーがおり、僕を見ると直ぐに此方へと来て抱きしめてきたので咄嗟にそっと抱きしめ返す。朝がほかの人に比べて比較的弱く、最近忙しそうにしていたエリーがいたので少しだけ驚いてしまう。


「おはよう、エリー。どうしたの?」

「やっと研究が終わったの。褒めて、ロア」

「そうだったんだ。よく頑張ったね、エリー」

「んふふ、ありがとう」


 頭を撫でると身を捩り胸に鼻を当てて何やらクンクンと匂い嗅いでくるエリーに思わず苦笑してしまう。前から彼女の頭を撫でているとエリーはこうして匂いを嗅いでくるんだよね。最初の頃は恥ずかしくて止めてといったんだけれど、何度もされるうちにもう止めるのもやめてしまった。


 エリーが抱き着くと決まって誰かが止めたりもするのだが、やはり今日に限って誰も止めに入ることはない。エリーに対して濁った眼を向けてはいるが。


 やはり何かおかしい。


「クロエさん、ナタリー先生が聞きたいことがあるみたいで呼んでいましたよ」

「ナタリー先生が?........だが、私は、ロアの事を」


 僕の隣で静観していたクロエが、どうやら呼ばれてしまったらしい。クロエとしては僕の事が心配だから動きたくないのだろうけれど、僕の事は彼女たちが助けてくれるだろうし、やりすぎてしまったら僕が止めればある程度は聞いてくれるから大丈夫だろう。


「クロエ、大丈夫だよ。行ってきてもいいよ」

「だが……」

「大丈夫ですよ、クロエ君。ロア君の事は私が責任をもってお守りしますから。何があっても守りますので」

「そうです。ロア様を害する敵は私が皆殺しにしますのでどうぞナタリー先生の元へ行ってください」


 クロエが明らかに心配そうな目でこちらを見てくるので「大丈夫だから。行ってきて」と出来るだけ心配をかけないように笑顔で送り出す。


「すぐに帰ってくる」


 そう言って足早に教室から出て行くクロエを見届ける。それにしてもナタリー先生は何の用事でクロエを呼び出したのだろう?クロエは優秀で品行方正な人間だから悪事を働いて呼び出されるわけがないし、きっと家の事か、それとも何かを任されたのだろう。


「ロア、こっち向いて」

「ん?どうしたのミ―」


 後ろから近付いてきたミアが僕の口に強引に何かを飲ませた。咄嗟に吐き出そうと思ったものの口を押さえられて吐き出すこともできない。


「大丈夫、ロア。それを飲み込んで。よくなる薬だから」

「大丈夫ですよ、ロア君。飲み込んでください」

「すみませんロア様。でも、これはロア様のためなのです」


 何か嫌な予感がしたが、もう飲み込んでしまった。すると急激に眠くなり意識が段々と薄れていく。


「ロア、お休み」

「おやすみなさい、ロア君」


 最後に見た光景は、彼女たちの爛爛としていて真っ黒な瞳と、ニコリとした笑みだった。


 



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