第16話 おんぶ
クロエの尽力、そして正気を取り戻した四人の手伝いのおかげもあってあの惨状となっていた教室はなんとかもとには戻ったものの、切られた足、手などは元には戻らなかった。
いや、戻さなかったと言った方が正しい。アリアの力をもってすれば原型が残っていた手や足があったので縫合はできたはずだが、頑なに直そうとはしなかった。
本人曰く
「ロア様を侮辱したものにこれ以上施しを与える程私は慈悲深くはないようです。申し訳ありません」
と涙ながらに言われてしまったら、何も言えない。頼みこんで何とか傷などは治してもらったけれど。
学校全体が何処かどんよりとしており、休み時間のあの和気あいあいとした雰囲気は見る影もない。
休み時間中は彼女たちが僕を守りようにして周りを威嚇して絶対に話さないと言わんばかりに抱きしめて離さない。僕に対して謝りに来た人たちに対して「誠意が足しませんね」と言って、目を抉ろうとしたり腕を切り落とそうとするものだからどうしようもない。
その度にクロエに迷惑を掛けてしまっているので、申し訳ない気持ちが募るが彼女たちも僕の事を二度と傷つけさせないという気持ちが伝わるので強くは言えない。
そんなこんなで何とか全授業を終え、何とか一日を乗り越えることが出来た。
「ロア様、歩くのはお辛いでしょうから私が抱っこして御送りいたします」
「い、いやそれは大丈夫だよ。流石にこの年で抱っこは恥ずかしいよ」
「じゃあ、お姉ちゃんがおんぶしてあげよっか?あの時はロア君がおんぶしてくれたから、今度は私がしてあげる」
とニコニコ笑ってそう言ってくるリリア。
懐かしいな。あの時のリリアは精神的に良くなくて僕がおんぶして帰っていた。
「あの時は、そうだったけれど。........やっぱり、恥ずかしいよ」
僕がそう言うと、リリアは俯いて震えた声で
「.............や、やっぱり私になんかされたくないよね。私、ロア君のお姉ちゃんにはなれないよね」
地面に涙がポタポタと止めど無く落ちて行ってしまう。
「い、いや。本当に恥ずかしいだけで」
「.............ホント?」
「嘘なんかつかないよ。今までお姉ちゃんに嘘ついたことないでしょ?」
「....そ、そうだけれど。やっぱり私不安なの。だから、おんぶさせて」
俯いていた顔を上げると頬から涙が零れ落ちる。目は相変わらず真っ黒で底が見えない。これ以上恥ずかしいからという理由で断るとリリアが戻らないのではないかと思えてしまう程だ。
..............仕方ない。腹を括るしかない。
「分かった。お姉ちゃん、頼める?」
「う、うん!!お姉ちゃんに任せてね」
それからリリアにおんぶされて帰ることになったが、ミア、アリアも競うように僕の事をおんぶしようとするので、結局普通に帰るよりも時間がかかった。
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真夜中の学校。
「いる?」
「..............なに?わたし、少し忙しい」
研究室に小さな明かりが一つもぞもぞと動く人影。
「話があるの」
「…何?」
「勿論、私のロア君の話」
「..............お前のなんかじゃない。私のロア」
鋭い視線が飛び交う。
「.............それで、何?」
「見当はついているのか、っていう話」
「…」
二人の間に沈黙が流れる。
「聞こえなかったら言ってあげる。私たちをこんな風にした人間は誰なのかっていう話」
「…聞こえてる。正直、まだ分からない」
「そう」
「けれど..............」
エリーが底冷えるような声で
「こんな風にした奴は私が絶対に苦しめて、苦しめて苦しめて苦しめて苦しめて、絶望して、泣きわめいて、もう二度とこの世に生を受けられない様にする予定」
「…そう」
それだけ聞くと、研究室からリリアは出て行った。
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