第15話 カオス

 「........え?」


 何が起こったのか全くと言っていい程理解できなかった。


 先ほどまで指を指してにやにやと笑っていた貴族の男の腕が空中を舞い、そのままボトッと生々しい音をたてて教室の床に落ちたことでやっとそのことを理解できた。


 教室が静まり返る。

 

 貴族の男の片腕から止めどなく血が流れる。


 呆気に取られてしまい、何も言えず動けないままでいるとまた、次の瞬間にはその男だけでなくほかの貴族たちの足が切り落とされバランスを無くし、そのまま顔面から崩れ落ちる。


 数瞬の静寂の後に、やっと状況が理解できたのか教室中から悲鳴が上がり収拾がつかなくなる。


「ロア様を侮辱するなんて.......許せるわけないじゃないですか」

「私はどれだけ侮辱してもいいけれど、ロアを侮辱することを許せるわけない。今からたっぷり苛め抜いてから殺してあげるからね?解体して出荷してあげるから。オークの餌くらいにはなると思うから良かったね」


 ミアとアリアが淡々と呟いた。人の足と手を切り裂いたというのに全くと言っていい程彼らの事を気にする様子はない。ドロドロと濁った瞳から狂気と呼べるほどの怒りが伝わってくる。


 ここで、さらに予想していなかったことが起こる。


「ロア君、おはよう........ってこれどういう状況かな?」

「ロア........おはよう」


 さらにリリアとエリーが教室へとやってきた。


「このゴミにも劣る者達が、ロア様を侮辱したのです。『また学校に来たのかよゴミ屑』

『まだ生きてたんだ。さっさと死ねよ。お前のようなゴミはこの学校には必要ねぇんだよ』

『そうです、あなたのような平民がいていいような場所ではありません』と、このようなことを言っていたのでそれにふさわしい罰を与えているところです」


 アリアがこちらへと近づいてきた二人に対してこの状況の訳を話すと、二人ともアリアとミアのように目がドス黒く染まっていき今にもこの場にいる全員を殺してしまいそうな雰囲気を感じてしまう。


「うふふ、そうなんだ。....私の大切なロア君にそんなこと言う人まだいたんだ。私は、そんな酷いこという人こそこの学校にいちゃいけないと思うな。....そもそも存在しちゃいけないね」

「........ロア、私に任せて」


 二人が更に貴族たちへと罰を与えようとしたところでやっと体が動き、リリア、エリーを抱きしめることで二人はビクッと体を震わせ魔法の詠唱を中止した。


 こうでもしないと二人はやめてくれそうになかったから。


 その隙にクロエが血だらけになってしまっている貴族たちの元へと向かい回復魔法をかけてくれている。


「リリア、エリー、大丈夫だから。もう、僕は怒ってないから。それ以上この人たちを傷つけちゃダメだよ。それにあの人たちを本当に殺しちゃったらリリアお姉ちゃんでも面倒臭いでしょう?」

「でも.......ロア君。私、あのゴミにも劣る奴らの事を許せそうにないよ」

「ロア、私も無理。絶対に許せない」


 二人がまだ深い怒りを持ったごみを見るような目で彼らを見ているので、さらに強く抱きしめこれ以上彼らに近づけさせないようにする。


「ダメ、これ以上は本当に死んじゃうから。僕は本当に怒ってないから。大丈夫だから」

「んっ........わ、分かったよ。ロア君」

「........仕方がない。ロアがそこまで、いうなら」


 どうにかわかってもらえた様で二人は動きを完全に止めてくれて、怒りに染まっていた瞳も元のドロドロとしたものに........あれ、さっきよりもより粘性の高いドロドロとしたものになっているような.....。


「ロア君........そのまましばらく私を抱きしめたままにしてくれないかな?じゃないと私、またこいつらの事を殺しちゃうかもしれないから」

「私も、お願い」


 それなら仕方がないかなとそう思い、二人を抑えていると先ほどより鋭い殺気が飛んできて思わず体を震わせてしまう。


 そちらへと視線を動かすと、アリア、ミアが今度はエリー、リリアに対して殺気を向けていた。


「........ロア、私もあいつらの事、殺しちゃいそう。止めてくれない、かな?」

「........ロア様、私も抑えきれそうにありません」


 二人はクロエが介抱している貴族の方へと魔法を放ちそうになるのでリリア、エリーへとしたように、抱きしめて気を散らせる。


「んっ........ロア。ずっと........そのまま」

「あぁ........ロア、様」

 

 ミア、アリアは恍惚とした笑みを浮かべて、そのままこちらへと身をゆだねた。

 

 


 


 

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