第10話

「…ロア、あまり無理をしない方がいい。ある程度は直したとはいえ無理をすれば悪化してしまうぞ。ゆっくり時間をかけて直せばいいじゃないか。それに医者も無理をしてはいけないと言っていたよ」

「大丈夫だよ、クロエ。無理なんかしてないから」


 体を起き上がらせ、何とか自分の足で立つことに成功する。まぁ、クロエに支えてもらわないと厳しいものだけれど。


 腕がないというのはどうにも不便で平衡感覚が取りずらい。クロエに支えてもらっていた手を放してもらい自分一人で立つ。


 クロエは終始心配そうな顔を浮かべて僕の方を見ている。


 今朝、目を覚まし部屋で朝食を取ってから僕は早速リハビリを開始することにした。


 これ以上クロエ家に迷惑を掛けられないという事が第一だが..............流石にこの年でトイレをするときにメイドさん、クロエに介助してもらうのは恥ずかしすぎた。


 メイドさんもクロエも何も気にしてはいないとは思うけれど、何とも言えない絶妙な空気になるし僕も恥ずかしいので早く元のようにとまではいかないもののトイレに行けるくらいには歩けるようになりたい。


 クロエに「大丈夫だから」と言って笑い、一歩を踏み出す。意外と歩けるな、なんてのんきなことを考えていた矢先、体が言うことを聞かず思い切り顔からこけてしまいそうになる。


「ロアッ!!」


 クロエが僕のことを支えてどうにか倒れはしなかったが..............


「ロア、言ったよね?」

「..............はい」


 クロエはあからさまに、誰が見ても怒っていた。


「私はロアに傷ついて欲しくないんだ」

「はい」

「誰だってそうだろう?友達が傷ついているの何て見たくない。無理をせず、一歩一歩頑張っていこう?焦らずにね」

「..............はい」


 何も言い返すことなんかできずに、僕は粛々とクロエの言葉を受け入れるしかない。傍から見れば出来の悪い弟とそれを窘める兄にしか見えないだろう。


「.............はぁ。どうせ君の事だ。これだけ焦っていることを見るに私に迷惑を掛けすぎているとかそう思っているんだろう?」

「それは.............」


 僕が思っていたことをぴしゃりと言い当てられてしまい思わず言葉に詰まってしまう。


「やっぱりね。だから、君は気にしなくていいんだ。私がしたくてしているんだから。困ったときはお互い様、だろう?」

「う、うん」


 クロエはそう笑顔で言って僕を見つめてきた。


 本当に、この親友には敵いそうにない。


 クロエの手助けもあり何とか立ち上がってもう一度次はゆっくりクロエと一緒に踏み出す。


 その後、ゆっくり二人で歩き広い部屋を一周したところでクロエにストップをかけられた。


「今日はもうこれで終わり」

「えー」

「あんな重傷を負って昨日目覚めたばかりなんだ。これ以上動くのは禁止。これは私との約束だ。いいね、ロア?」

「は、はーい」


 クロエが笑顔ながらも有無を言わさない雰囲気を醸し出していたので、大人しく頷く。


「..........私は稽古があるからここから離れるけれど勝手に歩こうとか、無理に動こうとしたら」

「う、うん」


 クロエは再度、部屋を出る前にじぃっと見つめそう言ってから部屋の外へと出て行った。


 当然、クロエの言葉を無視できるはずもなく(無視したらお説教何時間コースかも分からない為)僕はおとなしくやわらかいベッドへと身を委ねることにした。


 

 



 



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