第8話 クロエ

「..............ロア、大丈夫なのかい?」

「…うん。大丈夫だよクロエ。心配させてごめんね」

「いや、ロアが良いのなら私は良いんだ」


 リリアが手を振りながら部屋を出ていくので、僕も残っている方の片腕で振り返して見送る。


 ドアを閉じてから数分、僕とクロエは何もしゃべらずじっとドアを見つめていたが最初に切り出したのはクロエだった。


「だが、あまり無理をしてはいけないよ?今だって、相当無理をしているだろう?」

「いや…そんなことはないよ」

「あるさ。…ほら、こんなに手が震えてる。彼女たちにどうにか見えないようにしていたけれどずっと隣にいた私は流石に気づくよ」


 クロエはそう言って僕の手を両手で包み込んだ。


「彼女たちと前のようにしたいのは分かるけれど、あんまり焦りすぎないようにね。焦りすぎてロアが体調を崩したら元も子もないから。それに.....まだ、彼女たちが元に戻ったとそう結論付けるにはまだ早い。これは壮大な罠だっていう可能性も無くはないから」

「.....そう、だね。あぁ.....本当にクロエがいてよかった。僕一人じゃきっと彼女たちに会う事すらできなかっただろうね。心強い親友がいてくれて助かったよ」

「ッ、だ、だから君という奴はすぐに恥ずかしいことを言うな」

「あれ?照れてるの?王子様の格好いい顔が台無しだよ?」


 顔を真っ赤に染めたクロエは顔を僕から逸らして、窓の外へと視線を移した。


 相変わらず格好良い顔だな。美形っていうのはこういうことを言うのだろう。でもこうして照れて顔を真っ赤にしている所は王子というより女の子の様だけれど。


 きっと女子たちはそんなギャップにドキドキしているのかも知れない。


「う、うるさい。まったくいつも君は私をからかってばかりだ。はぁ..............まぁ良いか。それより、ロアは心身ともに疲れているだろうから夕飯まで休んでいてくれ」

「うん、そうさせてもらうよ。本当にありがとね、クロエ」

「だから、いいよ。あたりまえのことだろ」


 そう言って半ば逃げるようにして部屋から飛び出して行ってしまった。


 クロエをからかうのは良いけれど、からかいすぎるのも良くないなと少し反省しつつ、窓の外へと視線を移す。


 これから僕はどうしていけばいいのだろうか。


 漠然とした問いだが、この問いが今の僕を的確に表しているのだから仕方がない。彼女たちとどう接していけばよいか、学校は大丈夫なのか、そも彼女たちは本当に元に戻っているのか、考えだすとこうして不安が溢れ出てくる。


 解答なんて物はきっとないのだろう。だから今日、彼女たちへと提示したアンサーがどのような風になって帰ってくるのかも分からない。あれが正解ではなかったのかもしれない。


 だけれど、自己満足だとしても勘違いだったとしても僕は彼女たちと今日ここで話せて良かった、とそう思っている。


 



 

 

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