第6話 エリー
「……ごめんなさい、ロア。私、ロアにしちゃいけないこと沢山……した。ごめん、なさい。本当にごめんなさい」
「……エリー」
いつも深くかぶっていた鍔の広い三角帽子を取って、いつも無表情だった顔をぐしゃぐしゃにして、エリーは泣いて謝ってきた。
エリー。
貴族であり魔法の天才と言われ学校、そして国からも多くの期待が寄せられており学校には彼女だけの大きな研究室がある。長い若干癖のある茶髪にそして大きなクリクリとした目。そして背丈が同学年の女生徒よりも小さい。無表情なことも相まって精巧な、とても綺麗な人形に見えてしまうほどである。
いつも物静かで普通の彼女と深く関わり合いが無い人が彼女を見るといつも無表情だなと思われてしまうくらいに感情を表に出すのが苦手であり、そもそも人付き合いが苦手だし面倒臭いと僕に言っていた。だが、彼女は笑うときはちゃんと笑っているし、怒っているし、嬉しそうにしてくれているのは、見る人が見ればわかる。
そんな彼女が今は誰が見ても泣いていると分かるくらいに綺麗で可愛らしい顔をぐしゃぐしゃに歪めて泣いていている。
「ごめん、なさい。エリー、ロアを傷つけるつもりなんて全くなかったのに。あの時は本当にどうかしてた。ごめん、なさい」
彼女の大きな瞳から止めどなく涙が零れ落ちる。
「これからは、ロアのために生きてく。私が出した研究成果全部ロアに全部あげる。富も名声なんてそんなの、いらない。ロアだけ、いればいい」
「........」
「ロアしかいらない。ほかのもの全部いらない。私の全部をあげる。ロアのためなら何でもする。死ねって言うなら死ぬ。誰かを殺してほしいのなら殺す。本当に何でもする。それくらいしか私にはロアに償えない。ごめん、なさい」
エリーはいつもより声を大きくしそしていつものように片言だが、はっきりとした口調でそう言った。
なんて返せばいいのか、なんてわからない。ミアにもアリアにも返事は返したもののあれが正解だったかなんて知っているのは神様くらいだろう。
だけれど、今は己を信じるしかない。
「.....アリアにも言ったけれど、僕はみんなに傷ついて欲しくない。自分で自分を傷つけることなんてもっとして欲しくない」
「……う、ん」
「だけれど、正直、エリー達と元通りに戻れるかは……わからない。怖いんだ。頭では多分、もう大丈夫だって理解してるんだけれど、体と心が…深層意識がエリー達を拒絶してるんだ」
「……」
「だから、そうだな。バツとして週一回まとめてエリーには僕が学校を休んでいる間の授業内容を教えてもらおうかな」
「……い、いの?」
「うん」
「.....ほんとに?」
「うん」
エリーがこちらを心配しつつ窺ってくる。多分、大丈夫。また迷惑をかけてしまうことになるが、その場にはきっとクロエがいるだろうから、何かあってもきっと大丈夫。
その後、エリーから何度も「ほんとに?」と確認を取られたのでぎこちないかもしれないが笑顔で返すと一応は納得してくれたようで、三角帽子を深くかぶり直しドアへと向かっていく。
「.....じゃあ、来週から教えに来るね」
「うん、待ってる」
「……ロア、ありがとう。本当に。.....じゃあ、またね」
「うん、また」
「また、ね」
エリーが最後に見せたのは、無表情ながらもわずかに口角を上げていたのが分かった。
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