第3話

「クロエ、一体どうしたんだ?」

「あー..........そうだな、きっと隠していてもいずればれることだろうから話してしまった方がいいか」


 クロエが言いづらそうな顔で言葉を紡ぐ。


「ロア、君を傷つけていた彼女たちが毎日のようにこの家にきて君に一言だけでもいいから謝らせてほしい、看病させてほしい、償わせてほしいと言っているんだ。それも土下座でその場から一歩も動かないし、急に殺し合いしだすし正直困っているんだ」


 .......もしかしてやはり彼女たちは元に戻った.....のか?


 .....いや、待て。まだ結論を出すのは早い。彼女たちの巧妙な罠で僕の絶望した顔を見るための罠の可能性も捨てきれないし、僕が彼女たちが元に戻ったとそう思いたいだけかもしれないから。


「追い払うにも彼女たちは並みの騎士なんかじゃ話にならないからどうしようもなくてね」

「.....なるほど」

「彼女たちは会いたいかもしれないが、ロアは彼女たちに会うのも辛いだろう?」

「……まぁ、うん。そうだね。正直会うのは怖いし辛いよ」


 仮に彼女たちが戻ったとしても、僕は彼女たちにされた仕打ちを許せるほど心が広いわけでもない。殺されるくらいのことをされて「はい、もう謝ったから許します」なんて言える人間なんているのだろうか?


「だろう?だから、ごめん、彼女たちを説得して帰ってもらうから少々ここを離れるよ」


 クロエがそう言ってドアを開けて出ていこうとする。


 正直彼女たちを許そうなんて思えないし怖いし会ったら震えあがってしまうかもし泣いてしまうかもしれない。それでも.....


「待って、クロエ」

「?」

「彼女たちと話し合いをしたい」


 彼女たちとの楽しかった、幸せだった日の思い出が僕の中には未だに残っているから。それにクロエにこれ以上迷惑はかけられないという思いもある。


「大丈夫なのかい?」

「だい、じょうぶ」

「……ロアがそういうなら、何も言わないけれど。あぁ、でもその場に私も同席させてもらうよ?」


 クロエが明らかに心配した様子で僕に言葉をかけてくれる。その眼には不安がこれでもないくらい滲み出ていた。


「本当にありがとうクロエ。クロエには迷惑ばかりかけて本当にごめん」

「だから、いいよ。これくらい親友なら当然だろう」


 そう笑って言ってくれる人がこの世の中にどれだけいるだろうか。そんな親友を持てて僕はすごく恵まれている。


「じゃあ、彼女たちを連れてくる。だが、辛くなったらすぐに言うんだよ?彼女達には悪いけれどその場合は追い出させてもらう」

「うん」


 クロエは扉を開けて出ていくまで心配そうな顔をしていた。きっと傍からみればダメな弟を世話する優秀な兄にしか見えないだろう。


 自分の情けなさとクロエに対する申し訳なさで胸が苦しくなるが、今は彼女たちと顔を合わせることに集中させてもらおう。


 心の準備なんてそうそう整えられる訳はないけれど、不安、緊張、恐怖、もろもろの感情を何とか無理やり押さえつけて心を落ち着かせる。


 数十分後、ドアがノックされ「ロア、入ってもいいかい?」とクロエがそういったので返事をする。ゆっくりとドアが開けられ彼女たちが中に入ってくる。


 彼女たちの顔は以前のような張りのある艶やかな頬や、綺麗な髪ではなくなっておりどこか幽鬼じみたこの世とあの世を彷徨っているようなそんな生気のない顔をしていた。


 僕が彼女たちと目を合わせると途端にぶわっと涙を溢れさせて、僕の方へと近づいてきたので思わず体がビクッとなってしまい体を無理にでも動かしてクロエ家の大きなベッドで身を引くようにしてしまった。


 頭では、彼女たちときちんと話し合いをするのだから向き合わなければいけないと分かってはいるのだけれど深く傷ついた心と体は無意識に彼女たちを拒絶してしまっていた。


 僕のその反応を見ると、彼女たちはさらに顔を絶望に染めて顔をクシャクシャにして涙を流してしまい顔を手で覆うように隠す。


 だがその動作さえも僕はダメなようで彼女たちが動くたびに体の奥底から恐怖が這ってきてしまい体が痛いにも拘らず恐怖が勝ってしまい体をビクビクとさせてしまうのだから仕方がない。


数十分の時間を要してからやっと話し合いが始まった。

 




 




 




 





 

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