02 元素獣《エレメンタム》







 3人は、巨大タコの攻撃をさけてなんとか外の森に逃げてきた。

 タコは洞窟どうくつのような場所にいて、そこから外に出る気はないようだ。


 ネオンは、まどかの肩にちょこんと座って言う。


「アタシは、《ネオン》。原子げんし番号10の元素げんそ


 理玖りくは目を丸くして、聞き返した。


元素げんそって、?」


 元素とは、原子げんしの種類のこと。

 それぞれに原子番号と、名前がつけられているもの。

 ……と、理科の授業で習った。


 たしかに、《ネオン》は元素の中に存在する。

 周期表しゅうきひょうを覚えるときの呪文、「すいへいリーベ、ぼくのふ」の「」にあたる10番目の元素だ。


「元素っていうか、妖精にしか、見えないけど……」


 理玖りくが言うと、ネオンは人さし指で自分のほほをツンツンしながら言った。


「んーと、ゲンミツには元素じゃなく……

 『元素獣エレメンタム』ってゆーの」


 『元素獣エレメンタム』。

 今度は、聞き覚えのない単語がでてきた。


「それって、物語に出てくる幻獣げんじゅうみたいなもの?」

「姿はそれに近いかなー?

 元素が自我じがをもって、生き物の姿をとりながら生きてる、みたいなカンジ」


 

 常識では考えられない……いや、科学では考えられないネオンの話に、理玖はまゆをひそめた。





 ―――〖安定の世界スタビリシア〗。

 そこが、ネオンたち元素獣エレメンタムのすみかだという。


「〖安定の世界スタビリシア〗では、どんな元素獣エレメンタムも安定してた。

 元素同士くっついたりせずに、ありのまま暮らしてたの」


 話しながらネオンは、ハァ、と息をはく。


「それが突然、

 この地上に振り落とされたアタシたちは、なんとか〖安定の世界スタビリシア〗に戻る方法を考えた」


 そう言ってネオンは、円を小突こづいた。


「そして、〖安定の世界スタビリシア〗につながる周期表盤ペリオディック・ボードを見つけ出して、なんとかボードまでは戻ってきたってワケ」


 円は気まずそうに、折りたたまれたゲームばんのようなものを広げた。


「それ、さっき円が理科室でひっくり返したボードゲーム……!」

「アタシたちはこれを、周期表盤ペリオディック・ボードって呼んでるの」


 円が広げたのは、まさに理科室にあった『ブレイブ・エレメンター』そのものだった。


「理科室でぶちまけたゲームのバッジを片付けてたら、いつのまにかここにいたんだ」


 円はがっくりと肩を落として言う。


「アタシが【召喚しょうかん】したの。

 この地上のヒトたちは、元素にくわしくないみたいだから」

「でも、俺じゃ役に立たないから救世主きゅうせいしゅつれてくるって言って……」

「それでキミに来てもらったってワケ」


 円とネオンは、交互に説明する。


(〖安定の世界スタビリシア〗と周期表盤ペリオディック・ボードはつながっていて……

 理科室にあった『ブレイブ・エレメンター』とも、なんらかのつながりがあるってことか)


 理玖は考えながら、円が手にしている周期表盤ペリオディック・ボードに目をやった。




 元素の周期表しゅうきひょうと、元素のバッジという構成は『ブレイブ・エレメンター』と変わらない。

 バッジはまだ、ほとんどそろっていない。


 そして、【熱分解】や【電気分解】、【化合かごう】などの化学反応を起こすステッキも、同じく付属されている。


(ゲームとちがう点は、このカードだ)


 周期表盤ペリオディック・ボードにはカードポケットがついており、そこには数枚のカードがおさめられている。


 カード1枚1枚にも、元素記号が書かれていた。

 さらにカードには、それぞれ異なる生き物の姿が描かれている。


「無事に周期表盤ペリオディック・ボードに戻ってきたのは、この子たちだけ。

 あとの元素獣エレメンタムは、地上に散りりになっちゃった」 


 どうやらここにあるカードは、元素獣エレメンタム、ということらしい。


「ようするに、ネオンは元素獣エレメンタムのみんなに戻ってきてほしいんだ」

「そーゆーこと」

「無事に戻ってきた元素獣エレメンタムは、カードになるってことだね?」

「そのとーり! さすが救世主、話が早いね~っ」


 理玖とネオンのやりとりを聞いて、円はひとごとのように「おぉ~っ」と声を上げ拍手した。


元素獣エレメンタムは、〖安定の世界スタビリシア〗にいてこそ安定していられるの。

 地上にいたら、どんな影響を与えるかわからないし……どんな影響を受けるかもわからない」


 ネオンは一瞬暗い表情を浮かべたが、くちびるをぎゅっと結んで身をのりだした。


「この地上の人たちのためにも、みんなそろって〖安定の世界スタビリシア〗に戻りたい」


 ネオンの真剣な表情に、理玖の心も動いた。


「わかった。僕にできることなら、協力するよ」

「ありがとうっ!」


 ネオンはパタパタと宙を舞い、理玖のほほに抱きついた。


「それで、まずはなにから始めればいい?」

「あの子をなんとかして、カード化してほしい!」


 ネオンが指さした方向は、なんとあの、巨大タコのいる洞窟どうくつだった―――。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る