第3話 呼出し
「一ノ瀬樹姫さん、青樹さん、君たちだけだよ。見学も仮入部もしないで5月が終わるのは」
ため息をつく副会長の頭には今日もクマがいる。金曜日だもん、副会長だって早く帰りたいよね、私達のためにすいません。と心の中で謝る。
青樹をちらりと見ると青樹はこちらを見て困ったねという顔をしたけれど、何かの声が聞こえている気配はない。
副部長のクマは黙ったままなんだなあっとぼんやりとクマを視ていると、クマが立ち上がった。あれ 思っていたより足が長いよ。クマっぽく無い。
「ねえ 俺の顔に何かついてる?」
「あ、顔じゃなくて頭――」
「イツ!」
青樹に遮られて口を閉じる
青樹は片手で私を引っ張りつつ 空いている方の手を副会長に伸ばす
「あの、髪にほら」
「サワルナ」
甲高い声が響いて、私と青樹だけじゃなくて副会長までが驚いたような顔をしている
「今、何か聞こえた?」
「「いいえ」」
ピタリと私達の声がそろった 不自然なほどに
「トコ キコエタノカ」
「何か隠してる?」
副部長からの厳しい視線に青樹と私は身を寄せ合って後ずさりした。
「中学生は校内でのスマホは使用禁止だよ」
どうやら、副会長は今の声はスマホか何かから出た声だと思ったようだ。
「私、なにも使ってませんけど?」
「そんな事ないだろ?取り上げたりはしないから見せて」
やだなあ、私が持ってるのって子供スマホなんだよね。
のろのろとリュックからスマホの入ったポーチを取り出そうとする私の手を青樹が抑えた
「トコ、ワレヲミロ」
副会長の頭の上から飛び降りた人型は私達の方に伸ばされた副会長の腕にぶら下がる。ぼんやりとした形なのに意外にすばしこいんだね
「トコ先輩にそんな権利あるんですか?」
「トコ先輩?誰だそれ?」
青樹、そんな生意気なこと言っちゃダメだよ。私がフォローせねば!
「先輩に憑い――」
「イツ!」
青樹が私の方を見て顔を顰める。私、余計な事を言ったらしい。
「ついてる?」
「あ~もう!イツってば……」
アオが小さくため息をついてから、副会長に向かって何か言おうとする。でも私と青樹が接触しているから霊の存在感が凄い
「オイ トコ ワレヲミロ」
「一ノ瀬さん?」
「トコ トコ!」
「お前、ちょっと黙ってろ!」
「一ノ瀬!?」
「トコ トコ コッチダ トコ」
「お前 邪魔」
「邪魔だと?」
不味いよ 青樹は霊に向かって言っているのに、その霊が青樹と先輩の間にいるから青樹が先輩に無礼な口をきいているって事になってる。
先輩は南海生徒会全体の副会長で私達は一年坊主ですよお
「アオ!アオ!やめなって!」
私が青樹の肩を引っ張った時に 同時に先輩も青樹の肩に手をかけた
「トコ コッチミロ!」
「うわ!!」
突然、目の前に現れた霊に先輩が大声を出した。
それは、クマのマスコットじゃなかった。
薄い緑がかった肌に濃い緑の髪、耳はとがって輪郭から少しはみ出している。これが、クマの耳に見えたのね……
いつか妖精展で見た繊細に描かれた木の精に生き写しの あれ?つまり?
「妖精なの?」
どうせ聞こえやしない。私は視るだけ、青樹は聞くだけ、二人そろってもこちらからの声は聞こえない。
青樹が私の肩をちょんちょんってして目くばせる先は固まり気味なトコ先輩
そりゃそうだ、視なれているはずの私でさえ状況がよくわからないもの。
「君たち、何か企んでる?こんな事してもオカルト部は作れないよ?」
正気を取り戻したらしいトコ先輩が妖精に手を伸ばすと、妖精は嬉しそうにトコ先輩のその手の上に乗った。乗ったところでトコ先輩が後ずさり、妖精の姿はまたぼんやりとした人型になった。
「「消えた」」
トコ先輩と青樹の声が重なる
青樹が視えなくなったのは、私から離れたからだろうけど、そもそもどうしてトコ先輩に視えたんだろう?
「どういう仕組みなんだ?二人のほかにも協力者がいるのか?」
トコ先輩が私達に詰め寄ってきた。
「トコ先輩にも視えるんですか?」
言いながら、片手で青樹の手を握り、もう片手でトコ先輩の腕をつかんだ。
霊が現れたのと同時に、トコ先輩に手を振り払われて、目の前が真っ暗になった。
あれ暗転?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます