第2話 入学

4月になって「県立海南校 中等部」での生活が始まった。

新しい定期での通学、新しいクラス、すぐに友達を作るのは難しいけど、青樹と同じクラスだから心強い。

それに、学校が風が強い高台にあるからなのかな、霊にも出会わない。アレが視えない限り私は普通の中学生でいられる。万歳!普通の学校生活。なんて浮かれていた私はすっかり忘れていた、普通の中学生は部活見学&部活仮入部をしなくてはいけないことを……



「みんな そろったかな? 好きなところに座って!」


ここ、中学部生徒会準備室で中学の生徒会長である女生徒が教壇から声を飛ばしている。なるべく教壇から離れたところに座りたい習性がある私は一番後ろのドア側に座った。


カラカラと私の後ろのドアの開く音と人が入ってくる気配がした。遅刻してきた割に落ち着いた気配に「おぬし、やるのお」と心の中で称賛を送る


「あ!副会長 ありがとうございます」

「俺には構わないで 続けていいよ」


あれ?遅刻者じゃなかった。

生徒会長が敬語を使う副会長ってことは、高校生徒会の副会長なんだろうなっと思いつつ、ちらりと振り返り、そのまま固まった。


だってさ、その人、頭の上に何かを乗せているんだよ。

ボンヤリと光るソレはクマのマスコットのように見える、けど男子高校生が頭にマスコットを乗せているはずがない。ってことはアレはアレだよね?

見なかったことにしよう。私はなーんにも見てませんよ。目をそらそうとした私とそのクマの視線がばっちり合った。


「ひいいいいい」心の中で盛大に悲鳴を上げる。おそらくあれは何かの霊だ。そして、今まで霊を視て良い事なんてあっただろうか(いやない)。


「はあああああ」


実際には、悲鳴の代わりにため息をついて青樹を見ると青樹は何やら目くばせをしてくる「なに?」と言おうとして、私以外の全員(青樹はまだ私の方を見ているけど)がすでに前を向いることに気がついて、慌てて前を向く。


「すでにお話してありますが、わが校では全生徒の部活動の参加を必須としています。5月の末までに見学、仮入部を経て入学届を提出して下さい。どうしても決まらない場合は生徒会のアシスタントとして活動してもらう事になります。」


中学生徒会会長はそう言いながら、入部届を配った。



***


5月最終日の放課後、私と青樹はまた生徒会準備室に居る


「アオは、私に付き合わなくてもいいのに」

「中学ではイツと同じ部活に入るって決めてたからさ 別にイツに付き合ってるんじゃなくて ぼくが好きで部活決めてないだけ」


小学生の時にあった事を青樹は気にしているのかな?もう私は気にしてないし、中学はまだ始まったばかりだけど挨拶をかわす友達もいるし、移動教室の時に声をかけてくれる友達もいるから大丈夫だよ。まあ、お弁当は青樹と食べるんだけど、あれ?


「アオは友達いないの?一緒に部活に入ろうって友達いないの?」

「イツ まずは自分の心配しようぜ」


青樹にいたわるような眼を向けられた。


「あのね アオ――」

「ごめん 遅れた!」


ガラガラガラと乱暴に教室の扉が開かれて入ってきたのは副会長さん。今日も頭の上にクマを乗せている。


あれってクマなのかな?私が視えるといっても、はっきり見えないことの方が多い。

今も副会長が頭の上に何やら光る人型のようなモノを乗せているなあってのが見えるだけ。人型で手が二本あって、頭の上に耳が二つ出ている。やっぱりクマだね。

悪いモノじゃなさそうだけど、気にはなるなあ


「イツ、イツってば!」


アオにブレザーの裾を引っ張られてハッと気づけば私は立ち上がっていた


「すいません」


謝りながら慌てて座る


「今年の生徒会アシスタント部の活動説明をします」


副会長が話し始める。けど、クマが気になってしょうがない


「皆さんも知っているように、春鉄岬線は再来年の春で廃線となります。生徒会ではそれに関しての活動を行う予定です。今年のアシ部は忙しくなると思うので、帰宅部変わりにアシ部に入ろうという甘い考えは通じません。よく考えてから決めて下さい」

「廃線って知ってた?」


青樹にささやくと青樹は首を横に振った。


「アシ部か他の部活にするか、週明けまでに考えて担任に提出して下さい 以上」


教室を出ていこうとする副会長を追いかけようと私は立ち上がった


「イツ?」

「ちょっとあの人に聞きたいことがあるの」


気になって仕方がないあのクマ、副会長はどのくらい感じているんだろう?


「廃線の事な――」


何か言いかけている青樹に構わず副会長に声をかける


「すいません」

「何か質問?」

「はい。 副会長は霊の存在って信じますか?」

「レイ?」

「あの幽霊とか精霊とかの霊です」

「へ?幽霊?俺は全く信じてないんだけど?あーオカルト部とかを探しているのかな?」


あー信じてない人なんだ、それならむしろ安心かな?


「はい」

「ごめん、俺自身が興味ないから思い当たらないな。でも体育会系より文科系の見学に行ってみたらどうかな?」

「はい、ありがとうございます」


頭を下げて副会長と別れた


「イツ 副会長に何か視えた?」

「なんかさクマのマスコットみたいのが憑いてる。アオは何も聴こえない?」

「マスコット?元カノの生霊かな?とりあえずぼくにはなんも聴こえないな」


青樹に聴こえないならたいしたことない霊なのかな?つい確認しちゃったけど

触らぬ神にたたりなしって言うもんね。関わり合いにならない事にしようっと


「そっか彼女さんかあ。あ、アオは彼女とかできた?」

「あのね、イツとぼく、いつも一緒にいるんだから彼女いないのわかるでしょ?それにイツの面倒も見たいし」

「シスコンか?」

「シスコンです」


ははは……見事にボケで返された


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