第2話

「不問だと言ったのに.

たぬき親父が.」

呟いた所をチビが聞き逃さなかった.


「狼だよ.」

「あぁ…

そうだなー.」

ぼんやり同意を示す.

「そういうお前だって,妙な事言い始めやがって…

結局,お前は人狼の眷属になり」

下がって

身分に上下はない.

「やがって.」


「半分,龍族.

半分,蝙蝠族.

人狼族の眷属.」

「あぁ…それ…

なんかいいんか分からんな.

資格ばっかり増やしても実益が伴わないと無駄だ.」

「じつ…」

「いいよ,こっちの話だ.」

確かに,あのまま話を続けても,折れ処が難しかった.

結局,じりじり同じ話を続けてると,

いつ俺が,もういいっ真剣勝負だとか.

言いかね…

いや,頭下げに行って,最終,そんな結論とか有り得ねー.

「大体な.

お前のために,お前が自分の口で話すべきだと思ったから,

チビでも連れてったんだ.

俺は俺で話は着いてたんだよ.」

「話したじゃん.」

「あぁちょっとびっくりした.

小さいのに,一丁前に生きてんね.」

「お土産なんだろうねー.」

「ちょっとは遠慮しろよ.

辞退しますって,こっちが言ってんだから.

謝りに行って土産とか,まじ訳分かんない.」

「僕にくれるって言ってたんだから.」

「向こうの口実を丸呑みすんじゃないよ.

そう言わんと場が収まんないからって

軽く考えても分かるだろ.」

「分かりませんっ!

子どもだからっ!」

「あほか.」

変なとこで悪知恵使いやがって.


「いい匂いするー.」

「こらこらっ.

道中で開けないぞ.

まだ,管轄内だ.」

「タツだって,管轄内なのに悪口.」

「何っ!

そんな事言ってないぞ!」

悪口と分かったのか.

確かに旨っそうな匂いする.

「お揚げがって言ってた.」

「そう?」

もうどう出たらいいのか分かんなかったから,

焦ってて,あんまり話入って来てない.

顔ちらっと見て,

目が期待してる所を見る.

「一仕事終えたし」

「開けてみるっ」

言い終わらないうちに声が被る.

木の根に腰を下ろすと

同じようにチビが据わった.

「お揚げに御飯が詰まってる.」

「お稲荷さんだなー.」

きっちり詰まってる.

「きつねだったか.」

面白くないなと思って笑ったら,

「食べていい?」

と言った.

「お前が貰ったんだろう.

自由にやれ.」

「沢山ある.

一緒に.」

ん?

あぁ…

一緒にと言う.

何故ここで小さき物と.


謝りたくなかった.

謝る事なんてしたくなかった.

誰に対しても頭なんて下げたくなかった.

そうやって強がって生きて来た.

強く生きて来た.

間違わないように

間違ってないと信じて

正しいと思う事を突き進んで.

口を封じてしまえば

露呈しないと問題ではない.

自分の世界を守ってきた.

少しづつ歯車が狂ってきて,

自分の世界が滲んで誰かの世界と重なって,

誰かのために頭を下げる.

あぁ…

ははっ.

扉破壊して,父と謝りに行った事思い出した.


「食べたい.」

ん?

あぁ

「どうぞ,食べたら?

それは動かないよ.」

ブラックジョークだったか.

「僕は食べた事に後悔は無い.

後悔する事は命に対して失礼だ.」

「何処で覚えたの?」

濁すような姿に追求するのはやめた.

あぁもしかしたら,

コウか.

入れ知恵…

俺はしていない.

もしや,ここまで見越して対策を立てていたのか.

良かったのか悪かったのか.

もう俺じゃ判断できない.

事が動き,息子は眷属扱い.

まさか本当に,そう扱われる訳ではあるまいや.

逃げ道を作った.

そう考えるべきか.


「はいはい.じゃあ食べましょっか.

どれがお勧めですか.」

「こちらが美味しそうです.」

何ごっこ?

「では,その隣の,こちらを頂きましょう.」

「では,僕は.」

「え?食べたらいいのに.

これ.これが食べたいんでしょ?」

「いや,僕こっち食べたい.」

「…もうどれでもいいや.

どれも同じに見える.」

「違う…

これが美味しそうに見える.」

「なら,それを食べろよ.」

「美味しそうだから食べて欲しい.」

「美味しそうに見えんなら譲んな.

皆美味しそうに見えるもんを食べる.」

小さい生き物が譲るという行為が…

好きになれなかった.

「それは誰に教わったの?」

「教わったりしてない.」

「そうか.

一番好きな物を食べて欲しいと思ってる.

本当に食べようと思ったら奪い取ってでも食べるから.

遠慮すんな.

好きなようにやったらいい.」

自分の意見を押し付ける.

何をやってんのか分かんなくなる.

自分の価値観は合ってんのか.

次は美味しいねと笑いあったらいいのか.

ふぅ.

謝りに行った里近くで貰ったものを

息子と一緒に食べる.

そんな事予想だにしなかった現実だ.






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