魔王様は小さい子がお好き?人狼族里へ詫びに行く巻

食連星

第1話

「今日は非礼を詫びに来ました。」

手をつくと,せがれも同じ格好を取った.

長が物払いをする.

見せてもいいよ.とくとご覧あれ.

お前らの長が俺らに頭を下げさせてる.

俺らは頭を下げる行為をした.

正確に言うと俺じゃない.

だけど至るまでの原因を作ったのは俺だ.


一噛み食らってる。

それなりに、おどおどする必要もない。

堂々と里へ乗り込んだ。

里内を歩いても普通だった.

石を投げられる訳でも嫌悪の目を向けられる訳でも無く.

統制のとれた里.

長の言葉が意が浸透している.

と考えるべきか.

他所の里に入る時,余所物感が自己を非常に認識させる.

違いを確認しては私を同族を想う.

今回は,チビを引き連れているので,

より…

想いが分散する.

確認しては同じ血筋の物で,

何事か有れば,こいつを庇わねばならない.

側近を連れてくるよりも足手纏いを連れて来ている気持ちが大きい.

だが,これをしなければいけない大きな理由がある.


「食べてどうだったか訊いてみよう。」

チビの方に顔を向けた。

「美味しかった。」

うわっまじかっ.

「っ申し訳ない。こやつが分かるようになった際に、

必ずこの口から話させます故。」

焦って言葉を出した所で,耳に入っていないかのように続けた.

「全部食べたのか。」

「全部食べた。」

こちらとは裏腹に落ち着いて聞き言葉を出していた。

「無知と無垢は違う。」

人狼族里の長が、次は此方を見ながら言った。

「はい。百も。」

承知。

「ご子息が無知で居続けるのであらば、

敵を討つ。」

あぁ。

俺は,ここまでだ.

何も言われなかったが,面を上げた.

チビも肩を持って起こす.

「失礼ながら…

黙って受け入れませんが。

受けたのは、それ相応の事あってこそ。

本気で受けて立てば、そちらの総力に負けるとは思えません。」

本気でなくともいけるかもしれない。

耐性は出来ている。一太刀浴びたので。体が覚えている。

「例え破れようとも、その覚悟を持ってぶつかる所存。

眷属を亡くす想いを分からんでもか。」

はーそうですか。

とは、もう言えなかった。

言えなかった私を横目に

「あんなに美味しいのに何で食べないの?」

と半分私の血を引く御子がのたまった…

おぅそれバッドなタイミングだ。

「家族は食べられない。」

そう諭すように言葉を出したが、

「僕が死なないように食べただけ。」

続けた。

或いは正しい。

あらゆるは正しい。

時には正しい。

私は親殺しをした。

自分が生きるためではない。

掟に沿って動いた。

君は食べて生きたかった。

例え誰かにとって大事な物でも自らが生きるために.

そこを咎める事が私にできるのか。

「自由に育った故、魔族らしい振る舞いといえば、

そうでしょうね。」

礼儀正しく言葉を出そうとしたが、

逆撫でしかねない台詞だった。


「連れ添いを見付けたとは聞かなかったが。」

おーそう来るー?

目を瞑り次の台詞を探す。

「ふっ」

不可抗力で。

言いかけたが適切ではない。

「全て私生活をさらけ出さずとも良いでしょう?」

結局は逃げの一手だ。

痛い所をわざわざ披露しなくとも良い。

「子どもは勝手に育たん。」

はぁ。

事をなさなければの話か

生育についての話か、

判断に付きかねた。

が、

「肝に銘じておきますよ。」

半笑いで受けた。

「父の働きかけで、

運命が決まる。」

そう言われる。

運命が…

んな大事…

片手で両目をこすって取り直す。

「正義は立場によりけり。

あなたに盲目的な賛同は出来ない。

役目は果たそうと努力するつもりだ。

だが、どう動くかどう思うかどう考えるか

最終結論は私が出す。

対峙も辞さない。


大事な家族を喰ってしまった、

ここは詫びるべき要点だと思っている。

そのための足運びだ。

悲しい想いをさせてすまなかった。」

これでラストだ.

再び頭を下げると、

せがれも一緒になった。

「だから僕は生きている。」

顔を上げて、こう言う中身に、

だから生きてるんだなと。

食べて生きたんだよなと。

思ってしまった。

思ってしまった訳だ。

特に反応は窺わなかった。

これが出来る最善だったし、

相手がどうであれ曲げられなかったし。

面倒を見ていたら生じなかった話ではあるけれど。

あの頃の俺は程遠い所に程遠い気持ちを持って生きていたから。

そこはもうほんとどうしようもない。

どうしようもない事を思いあぐねたって戻ってやり直せる訳が無い。

悪いな息子。横見て下見る。


「子を喰われても文句はないと。」

声の方を見やる。

後ろ頭を掻いた後、

「弱ければ。

そこはたがわない。

来るのであれば先ず此方へどうぞ。」

笑って見せた。

受けて立つ。死ぬ気で来い。


「僕は一緒に生きてる.」

そう隣で言い始める.

「あの狼と一緒に生きてる.」

補足して同じ事を言った.

「僕が死ぬ時は一緒に死ぬ時だ.

何度も殺される.」

そう言った.

一番幼い生き物が言い放った爆弾に,

心がカウントダウンをする.

俺は…

俺は…

何と言うべきだ.

何か言うべきだ.

何を言うべきだ.


笑い声が聞こえた.

聞こえた方を見ると,

聞こえたまんまの人狼族族長を見た.

「一緒に生きてるか

詭弁だなと思ったんだがな.

思ったんだが…


入れ知恵か.」

俺を見てくる.

首を下に向けて右左振って溜め息を吐いた.

「一緒に生きてるか…」

再度呟いた長に,何も言えなかった.

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