1-14【チュートリアルイベントステージ】



◇チュートリアルイベントステージ◇


 私は、悪い子なのかもしれません。

 クラウミオが……危険な場所に向かってしまいました……姉として止めるべきだった、そうも思います。

 ですが、二人は本気だった。その意思を何と呼ぶのか、馬鹿な私には分かりません……ただ、その思いを邪魔じゃましてはいけないと思ったんです。


 大切な家族が、危険にさらされる。

 恐怖と混乱……その最中さなかでも、クラウとミオは前を向いていた。

 大事な友達、大事な家族。

 みんなを守るため、何も出来ない私を置いて、行ってしまった……


 でも、私には私の出来る事がある。

 ミオが言った通り……――来たっ!!


「……レイン。起きているか?」


 窓をコンコン――とノックして、お父さんが外から声をかけてくる。


「う、うん、起きてるよ……」


 お父さんは疑問ぎもんに思うはず。ミオはそう言ってた。


「……どうして、窓をふさいでるんだい?」


 ほ、本当に言った。ミオの言ったその通りに。


「……ふ、二人が逃げ出さない様によ。二人はふて寝しちゃってるけど、お父さんは……どうかしたの?それとも……二人を、起こす?」


 ふて寝をしていると。会話をするつもりなど無いと先手を打つ。

 そして念の為、布団をグルグル巻いた物を二つ置いてある。

 もしお父さんが無理矢理窓を開けても、ここに居るという事だけは見せれるという訳だ。


「……いや……寝ているならいいんだ。お父さんは」


「分かってるよ……お父さん。二人は私が見てるから、安心して?」


 ごめんなさい、お父さん……私はうそきました。

 二人は……もういません・・・・・・……盗賊の場所に、行ってしまったの。


「そうか。じゃあ、頼んだよ……レイン」


「……はい」


 ごめんなさい。でも、二人はきっと、無事に帰ってくるから……そう約束したから。きっと……絶対。





「――ミオっ!急いで!」


 わ、分かってるよ……って、お前がはえぇんだよ!!

 俺はぜぇぜぇと息を荒くして、クラウ姉さんの後ろをついて行く。

 くそ、これじゃあ金魚のフンだ。


 だが決して……「待って」とは言わない。

 言ってはいけないんだ。


「すぐ……追いづぐがらぁ……」


 あ~、きそうだ、畜生ちくしょう


「気合い入れて。ガルスくんを助けるんでしょ?」


 入れてるって。気持ちは充分に入れてるんだ……でも、その気持ちに身体がついて行かないんだよ!子供の身体、体力無さすぎだっ!!


「わ、わかってるよ……」


 俺とクラウ姉さんは、すでに村を出ている。

 街灯がいとうなど当たり前にない暗い村の中は、静かすぎて怖かったけど、月明りが異常に綺麗だった。日本の都会じゃ見れないよ。

 村を出て、舗装ほそうなどされていない道を全力で走って、一キロメートル近く走ったんじゃないか?

 そしてそこに、明かりを見つけた。小さな小屋?納屋なやだったかな。

 日本で言えば、農作業の機械を数台入れておけるような、少し大きなものだ。


「あれが……アジト・・・ね」


 チャンス。


「アジト?」


 小さなチャンスを、有効活用する。

 クラウ姉さんが言った言葉は、この世界には無い筈の言葉だ。

 確か英語でもないはず……何処どこのだっけ、ロシア?


「……あ、えっと……」


 ほらな。思った通りあせっただろ。

 これで、俺がその言葉を知らないと言う事を、印象付けておこうって思ったんだよ。





 私の弟は、とてもかしこく、とても可愛い。

 異世界に転生した私の、最愛の存在だ。


 今、私はその弟と二人、村の外に出ている。

 盗賊を退治たいじするためだ。

 「子供に何が出来る」って、村の皆はそう言うだろうけど。


 この村では大人だって何も出来ない筈だ。

 そう言う場所だもの……何もない、退屈な場所。

 だけど、弟……ミオは違う。そんな気がするの。


「姉さん……今、何て言ったの?」


 好奇心こうきしんひとみがこちらを見ている。

 今さっき私が口にした、“アジト”と言う言葉……多少の英語が浸透しんとうしている程度のこの村では聞き慣れない筈だ。

 ミスっちゃった……アジトは、ロシアから来た外来語であって、英語でも、勿論もちろん日本語でもない。


「……えっとね……」


 どうしよう。この子は頭がいい。

 私が聞きなれない言葉を使った事に、興味きょうみを示しちゃったんだ。


 転生して今まで、十三年間。

 前世の記憶が戻ったのは……三歳の時。


 弟……ミオが産まれた年だ。

 その時から、何度も何度も試行錯誤しこうさくごをして、女神に与えられた能力を顕現けんげんさせる事が出来るようにまでなった。


 それでも変なボロを出さないように、寡黙かもくでクールな子を演じて来たけれど、やっぱり所々で素が出てしまう。


 私が説明に戸惑い、焦っているとミオが。


「あ、そうか……クラウ姉さんは商人から買った本をよく読んでいるもんね。僕の知らない言葉をしっている筈だよ……」


 と、自慢のお姉ちゃんを見るように笑いかけてくれた。

 ありがたい。寡黙かもく美少女を演じた甲斐かいもあるって言うものね。


「そ、そうね……だから色々しってるの。何でも聞いて」


 自信ありげに胸を張る私。

 よかった……ミオが私たち家族を大好きでいてくれて。

 変に疑われるより、よそおってでも上辺をつくろっておいた方が便利だしね。


「ミオ。あれが……あの納屋なやが、盗賊の居るアジト……拠点きょてんよ」


「う、うん」


 ミオが生唾なまつばを飲んだ。ごくりと音を鳴らして。

 やはり、怖いんでしょうね……それはそうよ。私だって、異世界転生者じゃなければ、盗賊なんて関わりたくないわ。


 だけど、これはミオの為……ミオの友達を助ける為、私は力を振るう覚悟を決めた。

 私が女神……名前は忘れたけど、何とかっていう女神からさずかった力。

 それを使えば、きっと簡単に決着がつく。

 例え家族に変に思われても、村で居づらくなったとしても。

 この子に辛い思いはさせたくないから。


「大丈夫?ここで……」


 「待っているか」と、聞こうとしたけど……ミオは私の手を取って、かぶりを振るった。

 口は開かない……それでもつたわる、ミオの思い。


「分かった……お姉ちゃんの言う事をよく聞いて……そうすれば、皆で帰れる。ガルスくんを連れて、帰ろう……そしてパパに怒られようね?」


 さぁ、私にとっても……転生して、異世界らしい初のイベントだ。





 今、俺が考えている事をさ、当てて見てくれよ……何人の人が俺と同じだろうな。

 異世界のような展開にワクワクドキドキ?

 自分の能力を知るチャンスの時だってソワソワ?


 違げぇよ……ドキドキもソワソワを両方さ、でも……ワクワクなんて一個もない。

 怖いんだ。怖ぇんだよ俺は……この土壇場どたんばで、足がすくんで来たんだ。


 命が失われるかもしれないという事実を目の前にして、ようやく気付いた。

 俺は、そもそもクソザコ一般人だった……ってことにさ。


 転生者?異世界人?なにそれおいしいの?

 心情的には、まさしくそんな感じだよ。


 俺は何も知らないまま、何の準備もしないまま飛び出したんだ。

 友達が危ない?家族が危ない?村が危ない?

 そんな事よりも、自分が危ないって事を考えていなかったんだよ。

 失敗したら完全終了……リトライなしの一発勝負。

 前世でも、そんな経験一度も無かった。

 受験じゅけんも緊張しなかったし、就職しゅうしょくだって楽々だった。


 だってさ、それほど興味きょうみがなかったんだよ。

 高校だって、別にそれほど偏差値の高くない普通の学校だった。

 会社だって、在宅ワークが中心の人と関わらなくていいものだった。

 だが、今は違う。

 俺は幼馴染を……ガルスを助けたいから、ここに居るんだ。


 隣にはクラウ姉さんがいる。

 彼女は俺と同じ転生者だ、きっと何とかできる自信があるから、こうしてここに居てくれるんだろう。

 しかし俺はどうだ?俺に何が出来る?


 いさんで出てきたはいいものの、俺にはまだ何の能力もない。

 あるんだろうけど、正直言って使い方が分からないんだよ。

 あのポンコツ女神が俺にくれた能力……【無限むげん】。


 無限。つまりは無限大……だろ?

 名前だけを聞けば、何かに影響えいきょうのある能力だって想像できる。

 でも、そのもとになる何か・・とは?

 体力?魔力?攻撃力や防御力?、速さに運?

 まさか際限なく生きれるとかか?


 思い当たるゲームのステータスやありえそうな事を考えても、今の俺には何もない。

 盗賊の根城なんて、まだ十歳の少年が来ていい場所じゃない。

 そんな事は百も承知しょうちだ。


 だけどさ、俺は転生者だ。

 前世の記憶がある分、村人の誰より知恵はあると思うし、知らない未知の知識だってある。

 それを駆使くしすれば、何とかなるだなんて……思い上がっていたんだ。

 実際、村の外を目の前にして、ここまで恐怖が身をふるわすことになるだなんて、誰が想像したよ、クソ……


 一方で、クラウ姉さんはもう準備万端だ。

 俺の覚悟を待っているんだろう。いいよな、能力の把握はあくできてる転生者は。


 クラウ姉さんを存分に利用?

 俺も考えたよ。最初はそうできたらいいって考えたさ――クズいよな、俺。

 でも、思ったんだよ……いくら転生者であろうと、能力が何であろうと、クラウ姉さんはクラウ姉さんだ。俺の家族のクラウ姉さんなんだ。


 だから、俺がやるんだ。

 恐怖にふるえてはいけない……ふるい立てっ!!

 俺は男だ。女の子を守る――男なんだっ!!


「いい?行くよ?……私の言った通りにするのよ?」


「うん……分かった」


 俺とクラウ姉さんは納屋なやの裏まで到着していた。

 声が聞こえる。二、三……四人だな。

 ガルスの声は聞こえないけど……だ、大丈夫だよな?


「――いた。ガルスくん……無事だよ」


 今はまだ俺よりも身長のあるクラウ姉さんが、窓からこっそりと確認してくれた。

 そうか……無事か、これでひとまずは安心だな。


「ミオ。これを……」


 クラウ姉さんは、俺に何かを渡してきた。


「――え」


 ――は?ナ、ナイフ……!?


 ぐっ……痛ってぇ……なんだ急に。

 急に襲って来た胸の痛み……しかし、今更無理だなんて言えるわけはない。


「盗賊のだと思う、拾ったの」


 俺の顔は、どう見てもおどろいているだろうな。

 だってさ、さっきまでなかったよな?コレ。

 あ、クラウ姉さんが視線をらした……って事は、何も聞かない方がいいんだろうな、そうだろ?クラウ姉さん。


「あ、ありがとう……クラウ姉さん」


 受け取ったナイフは……うん。どう見ても新品だ。

 拾っては無いよ、絶対に。

 よく見る果物くだものナイフではない、どう見ても戦闘用のダガーだ。

 もしかして、これがクラウ姉さんの能力?まさか、武器を創り出せるのか?


 それにしても、なんでナイフを見るだけで胸が痛くなったんだ……?

 もしかして……前世で刺されて死んだから、か?

 勝手に身体にトラウマ植え付けられたって事かよ……最悪だ。


「とにかく、もし危なくなったらこれで自衛して……ガルスくんが縛られてるから、切れるでしょ?」


「そ、そっか……」


 俺は納得した振りをしておく、その方が都合もいいんだろうしな。

 それより……俺は上手くできるだろうか、いや……クラウ姉さんがこれを渡して来たって事は、俺も戦力にふくまれているんだ。

 だから、俺は俺の役割を果たさないと。


「よし、行くわよっ」


「――うん!」


 クラウ姉さんに貰った銀色にかがやくナイフを握りしめて……俺は、一歩を踏み出す。





 がはは――っとさわぐ盗賊四人の根城に、ふと訪問者が現れた。

 コンコン――と、丁寧ていねいに扉をノックして。


 その音に、この盗賊たちも慣れたもので、一瞬で馬鹿らしいさわぎを治めて身構えた。


「――誰だっ!!」


 男の一人が、叫んで返答をうながす。


「近くの村のものです……こちらに、幼い子供が一人来ていませんか?」


 声は女だった。綺麗な声音の、まだ若い声だった。

 盗賊四人は固まって、ひそひそと相談をする。


「女だな……」

「まだ幼くないっすか?」

「このガキのダチって可能性も」

「おい、お前が行ってこい」

「……了解っす」


 盗賊の一人が入口に向かい、他の三人は焚火たきび松明たいまつに移し警戒けいかいをする。

 意外としっかりしている。盗賊とは言っても、この手の展開は慣れているのだろうか。


「お、親分っ!ガキっす……でも、将来が期待できるめっちゃくちゃいい女だぜっ!」


「ほう……連れて来い!」


「へいっ!ほら、こっちに来い!!」


 座らされている少年、ガルスもその少女を見た……そしておどろき、声をあげそうになったが、何とか耐える。


「……!?」


 当然だが、気付いたのはガルスだけだ。その少女が幼馴染……ミオの姉、クラウだと。


「おらっ、そっちに行っとけ!」


 中央に連れてこられたクラウは男の一人に突き飛ばされ、ガルスの前にひざを着いた。

 そして……盗賊たちを怖がることもなく、ガルスをみてウインクをしたのだった。





 意外と簡単に入り込めたけど……だ、大丈夫なのか?クラウ姉さん、いきなり乱暴な事とかされないよな……?

 俺は一人、納屋なやの裏手付近に隠れながら、様子をうかがっている。

 納屋なやを多少調べた結果、一か所だけ穴が開いている所を見つけたのだ。

 そこからなら、身体の小さな俺が入れる。

 クラウ姉さんは正面から盗賊を引き付けると言っていたが、俺はそれを信じて行動を開始した。


 中央に連れられたクラウ姉さんは、男に押されて簡単にひざを崩し、ガルスの前で項垂うなだれている。

 顔を見えない様にしてるんだな……その証拠しょうこに、俺の方からはバッチリ見えている――っと……つまりは盗賊たちあいつらにも俺が見えちゃう可能性がある訳だ……気を付けねぇとな。


「おいおい、じょうちゃん一人かぁ?」


「……はい」


「まっさか、バカみてぇに一人で来たのか?」


「……はい」


「こいつは傑作けっさくだな。今までも何度かこの国の村をおそってきたが、ここまで無警戒むけいかい……更には子供を一人で外に出す大人がいるとはな……」


 あああっ~~!!俺も激同はげどうだよぉぉぉぉ!!

 だけどな、一つだけ違うんだ――大人たちは子供を守ろうとした……それだけは確かなんだ!


じょうちゃん。お前は何をしにここへ来た?まさか、村ではもう知られているのか?俺たちの存在をよぉ……」


 リーダーの男なのか、大柄の男は偉そうにクラウ姉さんに迫る。

 クラウ姉さんのあごをゴツゴツした指で持ち上げ、舐めつくすように見下ろす。


「いえ……偶然ぐうぜん、私がこの子が外に出るのを見かけただけで……気になって追いかけて来ただけです」


 しかしクラウ姉さんはまったく動じることなく、予定通りの答えをべる。

 だが、盗賊親分は。


「ふん、そうか。なら丁度ちょうどいいぜ、俺たちの相手――してもらおうかぁぁっ!」


 て、てめぇぇぇぇ!!このロリコン野郎が!!カッコよく決めても顔が笑ってんだよ!鼻の下が伸びてんだよっ!この野蛮人やばんじん共があぁぁぁぁ!!


「おいおい親分、こんな貧相ひんそうなガキは好みじゃねぇなぁ」

「そうだぜ、こんなんじゃたねぇよなぁ……」

「うふぁふぁふぁふぁふぁ!」


 盗賊A・B・C!!言動と行動が違うんだよ!!速攻で脱ごうとすんな!!


「――い、いやっ……!!」


 クラウ姉さんはいきおい良く駆け出す。

 反対方向にだ。つまりは、俺の位置から視線をらす方向という事だ。


「へっへっへぇ……待てって、楽しませてやるからよ~」


 クラウ姉さんは壁際まで追い込まれ、完全に盗賊に囲まれている。

 傍から見ればピンチそのもの……しかし、クラウ姉さんの顔は真剣で、恐怖など感じられない。初めから、どこにも恐怖心などないのだ。

 何故なぜなら……全てはクラウ姉さんの――計算通りだからだ。

 クラウ姉さんが壁際に走り、盗賊親分と盗賊A・B・Cはそれを追うように取り囲む。

 よだれぬぐう盗賊A、股間こかんを押さえる盗賊B、「うふぁふぁ」と笑う盗賊C――おい盗賊B、お前興奮しすぎだろ!


「嬢ちゃん。一人で来た自分と、そこのガキをうらむんだな……せいぜい天国を見せてやるよ……気持ちのいいなぁ」


「……」


 クラウ姉さんは真顔だ、恐怖で表情が固まっている。

 と、盗賊たちはそう思っているかもしれないが……俺には分かる。


 あの顔は怒っている時だ……激怒なんだよ、まったく。


 だから、俺は予定通り・・・・に身構える。

 クラウ姉さんも、行動を移すはずだ。





『――ミオ、私が盗賊に何かされそうになっても、絶対に行動したら駄目だめ、助けるのはガルスくんで、私じゃないからね』


『で、でもそれじゃあクラウ姉さんが』


『大丈夫。私は自衛できるから……いいわね?』


『わ、わかった……信じる』


『そう。いい子ね……ちゅっ』


 そう言って、おでこにキスをしたんだ。

 そんな優しいキス、出来んのかよ……まるで大人だな。

 あ、中身は大人なのか。





「おいおい……なんだよ嬢ちゃん、固まっちまってよぉ」

「硬くすんのは俺等だけでいいんだぜぇ?」

「うへ、ひひひ……」

「うふぁふぁふぁふぁふぁ!!」


 とうとう盗賊Bまで言動が限界になってやがる。

 クラウ姉さん、いったいそこからどうする気なんだよ。


 俺は、納屋なやに開いた穴から半分だけ顔を突っ込んで、いつでも行けるように準備をしていた。そ、外から見たら変な格好だよな。


 盗賊がこちらを向く気配はないな、完全にクラウ姉さんに夢中になっている。

 これはチャンスだ。このままガルスの背後に回って、縄をほどいて一緒に脱出だ。


「……さて、俺は最後でいいぞ。こんな小さな身体には、俺のは入んねぇだろうからなぁ、がっはっは!!」

「へへへ……広げておきますよ、親分」

「うひ……ギンギンだぜぇ」

「うふぁふぁふぁふぁふぁ!!」


 そしてついに、クラウ姉さんがキレた。

 いや、当然だろこれは。


「――ホント……男って最低ね」


「「「あ?」」」

「うふぁ?」


「……下品な事ばかり、言動も馬鹿ばか丸出しで……今時、高校生でもそんなスクールカーストの低い会話はしないわよっ……この、低レベルの発情猿どもっ!!」


 お、おいおいおい……情報を隠す気あんの!?俺、聞いてるぞ!?


 クラウ姉さんは、地球人にしか分からないような事を多々言い出して、盗賊たちをあおりだした。

 盗賊たちも、馬鹿にされている事だけは分かるのか、顔色を変えた。


「……なんだか知らねぇが、生意気な事は言ったよなぁ?」


 マズイ!早くしねぇと……!

 俺は穴に突入し、ガルスのもとに駆けだす。


 盗賊に囲まれるクラウ姉さん。

 そのクラウ姉さんにあおられて怒る盗賊。

 幼馴染を救出しようと、駆ける俺。


 そして、ピンチに見えるだけのクラウ姉さんを、本当にピンチだと思っている、ただ一人の純粋な少年、ガルスが。


 突然もがもがと暴れ出し、まされていた布を自力で外し。

 ――そして、意を決して……叫んだ。


「――ぷはっ!……逃げて!クラウさーーーーん!!」


「「!!」」

「「「「!!」」」」


 俺、クラウ姉さん。

 盗賊親分、盗賊A・B・Cの視線は、自然と叫んだガルスの方に向き。

 そして当然、ガルスの背後にいた俺も……無残にも盗賊たちと、バッチリと目が合うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る