【少年】編・上

1-10【少年期の始まり】



◇少年期の始まり◇


 ふっふっふ……どうもこんにちは。

 俺の名前は、ミオ・スクルーズって言うんだ。


 サラサラの金髪、エメラルドのような綺麗なひとみ

 身長は……142㎝にもなった。

 そうとも、俺はもう十歳だ。


 この世界に転生し、赤ちゃんからやり直していた俺も、とうとう十歳なんだよ!!

 あぁそうだよ!精神年齢は四十歳だよ!でもそれは言ってやるなよ!!

 俺が可哀かわいそうでしょうが!!


 三歳の頃、あの【女神イエシアス】との出会いによって、俺の考えは異世界でどう過ごすかにシフトした。

 勿論もちろん初めは、剣と魔法の世界だって言われてワクドキの転生だったよ。でもな、結果はド田舎スタート、しかも本当に何もないような、子供が野原でかけっこしているような場所だったんだ。


 剣も無ければ、魔法なんて誰も使わないから見たこともない。

 魔物なんて現れなければ、騎士や傭兵なんて存在しているかも怪しい場所だ。

 あの女神……えっと、なんだっけな。

 俺をこの世界に転生させた……うん、まぁいいか。


 今、十歳になった俺は学校にいる。

 一昨年から通い始めて、もう二年。

 人口の少ないこの村ならではだが、日本で言えば、小中高が統一された感じで、十三歳のクラウお姉ちゃんも、十五歳のレインお姉ちゃんも一緒に通っているんだ。


 そんで俺は今日、当番を任された掃除係を遂行すいこうするため、掃除用具を持って必死に優等生をしている。

 毛先がボロボロの、スカスカのほうきだけどさ。


「――ミオ」


 おっと、掃除をしていたら俺に声が掛かった。

 しっかり応えないとな。


「――って、なんだ……アイシアか」


「な、なんだって何よぉ」


 入口から声をかけて来たのは、同級生のアイシア・ロクッサ。

 そう……ロクッサ。オヤジ殿の元カノ、リュナさんの娘だ。

 四歳の時に初めて会って、何故なぜかそこから凄いなつかれた。


 オヤジ殿とリュナさんは「これは運命!」と言っていたが、何の事かはさっぱりだったが……そしてそれから六年だ。

 付き合いも長いと言えば長いんではないか?


「いや……だって先生かと思ったし?」


 先生は、レインお姉ちゃんの時から変わらない。

 ポロッサ先生だ。


「ミオって、先生には素直よね~」


 うん、素直って言うより、優等生の皮を被ってるからな。

 印象いんしょう良く思われたいじゃん?この村には推薦すいせんも何もないけどさ。


「……顔はいいのにね」


「……ふっふっふ」


 そう、聞いてくれよ。アイシアが言うように、顔が良いんだよこれがさぁ!

 前に言ったよな、両親が美形で俺がブ男だったら、もう一度転生するって!

 よかった、リセマラはなかったよ。


 遺伝子いでんしに感謝だな。

 お見事だよ、ルドルフとレギンの美男美女の遺伝子いでんし!!




「ふ~。終わったなぁ」


 放課後。いや……何限目とかそう言う決まりがないから放課後って言っていいのかなぞだけど、とにかく授業終わりだ。

 俺はポロッサ先生に真面目な挨拶あいさつをして、教室を出た。


 今の学校、実は三校舎目さんこうしゃめだったりする。

 初代のボロ小屋のような校舎こうしゃは、出来た翌年にハリケーンでぶっ飛んだ。二代目は去年、大量発生した虫が校舎こうしゃに巣を作ってしまい、毒を持っていた事から、苦肉くにくさくとして、焼き払ったよ。

 虫が出てくることは無くなって、村も無事だったからいいものの、もっと何かあったんじゃないかと思ったけどな。


 俺は、学校を出て一人で裏山に向かう。

 言っただろ?俺は考えることがいろいろできたってさ。


 でも、そのタイミングがなぁ。

 俺は不意に振り返り、後ろから来た少女に声をかける。


「――なに?アイシア、またついてくんの?」


「……だ、だってぇ!ミオ、またこそこそしてるから!」


 “また”とは失礼な。これでも慎重しんちょうかつ大胆に行動をしているんだ。ちなみに、その大胆な時に限って、このアイシアがついてくるんだよなぁ。


「僕だって一人の時間は欲しいんだよ……家に帰れば、お姉ちゃんが二人にまでいるんだからさ」


 そうだよな。全くと言って良いほどプライベートがないんだ。


 ――え?妹……?そうだよ。ご想像の通りだ。

 産まれたのはあの後……夫婦の情事に巻き込まれた俺が寝ている時の子だよ。多分な。


 後で紹介するけど、転生者ではないらしいぞ。

 たま~にやって来る【女神イエシアス】が調べて行ったからな。


 【女神イエシアス】とクラウお姉ちゃんは、今でもたまに会っているっぽいよ。

 俺は気付かれなかったフリを続けているから、あれ以降、イエシアスとは話してないけどさ。


 そんなクラウお姉ちゃんとも、関係は良好だよ。

 別に転生者って勘付かんづかれている訳でもなければ、何かをうたぐっている素振そぶりもない。

 俺だけが知っているって言うのも、なんか気が引けるけどさ……


「……で、いつまでついてくんの?」


「――え?か、帰るまでに決まっているじゃない!」


 はぁ……そうなんだよ。

 この子、アイシア・ロクッサは、依存体質いぞんたいしつって言うか。

 もう一人、俺とアイシアの同級生がいるんだけど、その男友達はすんげぇ自由人で、直ぐいなくなったりするんだけどな。

 アイシアは、常に俺につきまとってくるんだ。


 正直言って、悪い気はしないよ。

 前世の俺は女っ気のおの字もなかったけど、今世では女系家族と言ってもいい構成であり、こんな女の子の幼馴染まで出来てるんだ。

 普通は言うこと無いよな、普通は。


「――悪いけどさ、先に帰ってよ」


「え、やだ……」


 くっそ……可愛い、そんな困った顔しないでくれ。

 困ってるのは俺の方なんだ。


 俺は――自分の能力が知りたいだけなんだよ。


 今まではさ、こんなに自由な時間は無かった。持てなかったんだ。

 十歳になって、こうして自由時間が出来て、ようやく異世界が始まったと思っていたのに。

 何だろう、ミオ・スクルーズの人生には……常に誰かが付いて回るのだろうか?


 現在、学校の裏山へ向かう最中さいちゅうだ。

 静かで誰もいない、家族に監視かんしされない場所。

 十歳の俺のお気に入りの場所だ。


 だがしかし、隣には幼馴染が。


「……」


「えへへっ」


 はぁ……めっちゃいい笑顔すんじゃん。

 俺とは真逆だよ。


「帰んない?」


「え?ミオが帰るなら帰るよ?」


 そうじゃなくてさ……一人で帰ってほしい訳よ。

 どうにか分かってくれないかなぁ。


「やだっ!」


 ――ま、まだ言ってねぇよ!先読みすんな!!


「は、ははは……」


「えへへ……」


 心底楽しそうだね?俺は辛いけど。

 は?……我儘わがままだって?だってそうでしょうが!

 異世界だぞっ!?ようやく一人になれる時間が持てたんだ、色々試したいだろ!!

 十年我慢したんだ、こんなド田舎で十年過ごして、転生の醍醐味だいごみも何も感じないまま十年だぞ!?


「あー!!」


 俺は突然、どーでもいい方向に指をさし、アイシアの視線を誘導しようとした。


「――効かないよーだ。そんなの」


 ぐっ……見向きもしねぇ!そこまで俺といたいの!?

 男冥利おとこみょうりに尽きるけど、今は勘弁かんべんしないか?


「やーだよ♪」


 だからまだ言ってねぇって!!もうなんなんだよ!!くそ、子供ながらにむずかしい人生だ!

 こうなったら、振り払ってでも逃げ出して――


「――ミオ」


「「……――!!」」


 背後からクールな声がかけられる。

 小さい声だけど、芯のある透き通った声音。

 俺とアイシア、二人が肩をビクつかせる相手……それは。


「……ク、クラウ姉さん……」

「ク、クラウさん……」


 十三歳になった俺の次姉……クラウ・スクルーズだ。

 クラウ姉さんは、長い金髪を後ろで束ねている。

 ロングポニーテールだ。多分、六年は切ってないんじゃないか?


「こんな所で何をしてるの?もしかして……エッチなこと?」


「え~!?」


「し、してない!!してないよクラウ姉さん!!アイシアも赤くならないでよ!」


 十歳の少年少女に何を言うんだよマセガキ。

 いや……転生者だったわ……俺と一緒だ。


 それでも、今世は俺の大切な家族だ。前世でどこの誰だったかなんて関係ない。

 この人は――クラウ・スクルーズ。俺の大切なお姉ちゃんだ。


「そう?なら帰るよ。レインお姉ちゃんが……友達・・連れてくるってさ」


「――は?」


 なんだと……?また・・

 そうか……またあの男か。ははは……冗談キツイぜクラウ姉さん。


 悪いね、俺はそれどころじゃないんだ――とでも言うと思ったか!!


「――アイシア、今すぐ帰ろう。今すぐだ!」


 絶ってぇ邪魔したるかんなぁ……許さんかんなぁぁ!!

 どこぞの男になんぞ、レイン姉さんは渡さんかんなぁぁぁぁぁ!!


 という事で速攻帰宅した。

 何故なぜかアイシアも一緒だったけど。

 帰ってすぐ、俺はママン……レギン母さんに挨拶あいさつをする。

 レギン・スクルーズ、今年で三十五歳。いや全く見えない。

 七年前から変わってないよ、この人。


「ただいま。母さん……コハク・・・はいい子だった?」


「おかえりミオ……ええ、もう元気で大変よ~」


 俺の母、レギンが抱える女の子。

 名はコハク……コハク・スクルーズだ。


 命名はクラウ姉さんだ。多分、意味は分かんないと思ったんだろうな。

 俺は分かっちゃうんだな、琥珀コハクだろ?


「そっか、コハク……元気でいい子だね~」


「うん!ミオにいちゃん!」


 我が家のいやしだよ……同じ六歳の時のクラウ姉さんと比べてしまうわ。


 さてと、俺も部屋に行って準備をしないとだな。

 なんの?決まってんだろ……レイン姉さんの自称友達をぶっこ……大人しくさせる為のさ。


「あ、ミオ?」


「――え。なに?」


 おっと、考えすぎていた。

 危うく顔に出すところだったぜ、なんでしょうかねレギン母さんよ。


「もうすぐレインお姉ちゃん来るだろうけど、大人しくしてるのよ?」


 はっは~ん。レギン母さんは好意的な訳ね……勿論もちろん分かっているさ、邪魔じゃまはしないよ、邪魔じゃまはね。


「うん。部屋で大人しくしてるよ」


 名目上めいもくじょうはね。俺はいい子だからさ。





 少しして、今度はオヤジ殿が帰って来た。

 あ~あ~……そわそわしちゃって、見てるこっちが不安になるよ。

 ルドルフ・スクルーズ、スクルーズ家の大黒柱だ。

 今年で四十歳、最近は口髭くちひげを生やし始めたけど、全然似合ってねぇよ?


 そして俺は今、クラウ姉さんとアイシアと共に、いまだに三人部屋の俺の部屋で様子見だ。

 ルドルフ父さんが帰って来たって事は、そう時間もかからずにレイン姉さんも来るだろう。ターゲットを連れて……なぁ?


「……来たよ。レインお姉ちゃん」

「どれどれ……」

「わたしも見たいっ!」


 俺たちは重なりながら、ドアの隙間からのぞく。

 上からクラウ姉さん、俺、アイシアだ。何とも得なサンドだな。


「……やっぱりあのひとか」


「だね。情報通り」


 お?もしかしてクラウ姉さんも調べてたのか……?


 リビングでは、食卓にもなるテーブルにつく。

 行儀よく椅子いすを引いて、背筋もよく伸びた金髪の美女。レイン姉さん。

 レイン・スクルーズ、十五歳だ。

 十五とは思えないルックスは母譲りで、信じられないほどふくよかなモノをお持ちだ。

 うん。あれは誰かに渡したくないよな。いくら弟でもさ?


「……」


 俺がにらむあのひとは、レイン姉さんの隣にガチガチで座り、まるで結婚の挨拶あいさつかのように汗をいていた。

 さぁオヤジ殿……抗争の口火は、あんたが切るんだぞ!!抗争こうそうの開始だ。

 あの男と、俺たちスクルーズ家のな!!


 行けっ!オヤジ殿!!やってやるんだよぉぉぉ!!


「……よく来てくれたね。アドル君」


 そうだ!よくき……て――はぁ!?開幕歓迎かんげいすんの?なんでだよ!!


「い、いえ……その……手土産てみやげもなく、すみません」


 そうだぞ、挨拶あいさつなら手土産てみやげは持ってこいよ!!

 この村に土産屋みやげやなんてないけどなぁ!!


「ははは、いいのよそんな事を気にしなくても、ねぇあなた?」


「ああ、勿論もちろんだとも、これから――家族・・になるんだからなっ」


「――はあっ!?」


「こらミオ」

「ミオ~!」


 そりゃあ声も出るって!だって家族……家族って言ったぞ!あのオッサン!

 今、言ったよな!?なぁ!?


「いいから静かにして」


「――むぐっ……」


 ク、クラウ姉さんに口をふさがれたぁぁぁぁ!


「あの……今何か……?」


「ははは、気のせいだよ」


 気のせいじゃねぇよ!!オヤジ殿も何でそんな冷静なんだよ。

 レイン姉さんを嫁に出すって事だろ!?怒れよぉぉぉぉ!!


「俺なんかを一員にしていただけて、本当にありがとうございます!」


 誰が一員じゃボケェェェェ!!

 俺はふさがれた口をモガモガとさせて、飛び出していこうとしたが。


「――ミオ。だまらないと口で・・ふさぐよ」


「……」


 ――シュン。


 はい。すみません。

 そうなんだよ……あのおませなクラウ姉さんだったけど、クールになったと思ったら、中身はもっと過激かげきになっちゃって……性的なスキンシップをかわすのに、俺が毎日どれだけ頭を使ってるか。


 ――って、今はそうじゃない。それどころじゃない!


「それよりも、お父様は大丈夫なの?」


 レ、レイン姉さん……お父様って……相手の親をそんな風に呼ぶのか?

 俺はショックで泣きそうになる。これは夢なんだよって誰かに言って欲しかった。

 今だけなら、転生が夢オチでも許せてしまいそうだ。


「ああ、悪いなレイン……心配かけて」


「ううん。いいのよ」


 悪いってなんだよ。これじゃあレイン姉さんがお前にゾッコンみたいじゃないか!

 レイン姉さんも、そんな男は止めておこうぜ……そいつ、昔レイン姉さんを泣かせた男だよな?


 そうだ。この男は、俺がレイン姉さんに連れられて学校に行った日、レイン姉さんをからかった男の一人だ。

 うちの野菜をからかった奴だろ、あの時からレイン姉さんに気があるんじゃと思っていたが……まさかここまで来るとは。


「俺も、本当にここに来れてよかったと思ってる……本当にありがとう!」


「……ぐぅぅぅぅ!」

「ミオ」

「ミオ~」


 男、アドルはレイン姉さんの手を取って、涙ながらに礼を言っている。

 絶対演技だね。俺には分かるんだ。

 つーかオヤジ殿も……もらい泣きしてねーでなんか言えよ!!あんた大黒柱だいこくばしらだろ!?

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