1-9【女神が囁くキッカケの事象】
◇女神が
ゾクリ――と、背筋が震えた。
「――あら?その子が弟?」
肌を焼くような恐怖。
俺は聞こえないふりをして、
しかし、クラウお姉ちゃんはその声に答えたのだ。
「……そうよ」と返答。まるで、この声の主が来るのを分かっていたみたいに。
いや、分かっていて当然なのだ――
「それにしても意外ね?」
「……なにが?」
「だってそうじゃない?こっちに来てから、あなたは誰にも心を開かなかったんでしょ?まさかこんな小さな弟くんをここに連れてくるなんて……意外でねぇ」
その女の声は、クラウお姉ちゃんをからかっているような
「
この子――って、俺の事だよな?それに……
「確かにそうねぇ、でもいいのかしら?この子をここに連れて来て……」
「――最初に大丈夫って言ったのは、
バッチリ聞こえてんだよな……姿は、昨日チラッと見ただけだし、今は気付かれない様にするので
「そうねぇ……確かに言ったわ。でも、その条件は――」
「――分かってるわよ。
――は?今……なんて言った?
転生者!?女神!?お、おいおいおいっ!心当たりがありすぎなんだが!?
それに――って事は、クラウお姉ちゃんは……俺と、同じって事だよな!?
「うふふ……そう。この私、【女神イエシアス】の声は、本来この世界の住人ではない人間、つまり転生者にしか聞こえない……あなた、
せ、せいな?まさか日本人……か?
で、でもそうか、前世の記憶もあるのなら……あれだけませてた理由も納得できる。
俺と同じで、色々と知っていたからだ。その
「――前世の名前で呼ばないでって言ってるでしょ?それに、
目的?女神の?……なんだ、それ。
「うふふ……それが、ぜ~んぜん
やけに簡単に言うじゃないか。
まるで……決まっていたセリフの使いまわしだ。
「――ムカつくわね、その言い方」
あ、なるほどな……クラウお姉ちゃんを怒らせる言い方なのか。
俺は
そしてそれを、女神に気付かれた。
「ねぇ、弟くん……動かないわね?」
「ん?……あ、本当だ」
やっべぇ!……ど、どうする!?クラウがこっちに来てしまうっ!!
(やべぇやべぇ!!どうすんだよ!!)
二人の話に身を入れ過ぎて、身体と心がバラバラになってた!
これじゃあ、まるで聞こえていたみたいじゃないか!!
土を
――だぁぁぁぁ!女神?もだ!
聞こえた二つの足音に、俺は背筋に汗を流した。
しかし。
「待ってイエシアス、ミオは疲れてるはずだから……寝かせてあげて」
「うん?寝てるの?あれ……」
そーだ!寝ればいいんだ!!
クラウお姉ちゃんのありがたい助言に、俺は一瞬で
……。……。……。
寝れる訳ねぇだろ!の○太じゃないんだから!!
しかし、クラウお姉ちゃんは言う。
「大丈夫よ、寝てる。昨日もあんな感じで……テーブルに頭ぶつけてたから」
あの時のガタン――!って、俺がデコぶつけた音だったのかぁ!!
い、いや、しかしチャンスだ……!これなら寝てられる、
「ミオ、ミオ……?ほらね、かわいいでしょ」
「……本当だわぁ。食べたくなるわねぇ~」
「……(ぎろり)」
「あらやだ怖い、冗談じゃないのよ……」
え?何が起きたんだよ、目を
「もういいでしょう。ミオもいるし、今日は帰るわ……話はまた後で聞く。今日はそれだけを言いに来ただけだから。それに、もう直ぐここにも入れなくなるし……
「確かにねぇ、大きくなるのは早いものね、人間って。まぁ私には他にも情報を聞き出したい転生者もいるし、別にいいけれどねぇ」
やっぱり……転生者は結構いるのか。
この女神……名前なんだっけ、ああそうイエシアスだ。
イエシアスの言葉を考えるに、クラウお姉ちゃん以外にも転生者がいるって事だ。
そして、イエシアスが
「よっと……お、重い……」
クラウお姉ちゃんは、俺を抱えてくれる。
ごめん、重いよな。六歳児に三歳児を背負わせるのは。
でも、ここはなんとか頼む。
クラウお姉ちゃんは歩み出した。またあの
あれ?そう言えば、この女神はどうやってここを通って来たんだ?
「……あ、そうだイエシアス」
「なにかしら?……クラウちゃん」
「ちっ……
クラウお姉ちゃんは子供らしくない舌打ちをして、それでも女神に言葉を送る。
「うふふ……ありがとう。なぁんだ、優しい所も――」
俺も思った……でも。
「――そんでもって、早く私の前から居なくなって。顔……見たくないから、出来れば二度と見たくないっ」
「……あーこわっ」
こわっ……!こ、これがクラウの本性?
いつもの
――ん?あ~っと……そうだな。
うん……あれだわ、俺と同じだわ……やってる事。
いずれにしても、俺もどこかのタイミングで行動しないといけないな。
クラウの事も、この女神の事も――
『――聞こえているんでしょう?』
――!!……な、なんだ……急に。声?
この女神の声だ。な、なんで……
『安心なさぁい。お姉ちゃんには聞こえないわよ……』
お、俺に直接語りかけてるのか?
『そう言う事。女神に分からない訳ないでしょう?
気付いてたのかよ……
『そう言わないの。お姉ちゃんにバレない様にしてあげたでしょう?』
それは、まぁありがてぇけど。
でも、なんで声をかけて来たんだ?――ってか、俺はこんな感じに心の中で返事するだけでいいのか?
『いいわよぉ。でね、私は人を探しているのよぉ。知らない?』
さっき言ってた、チート全持ちってやつか?
あいにくだけど知らないな。
俺は転生して三年、この村から一度も出てない。
転生者が他にもいるって、今知ったし。
『――あなたでは無いの?』
俺?いやいや、違うだろ。
チートって、転生する前に貰った能力の事だろ?
『そうよ』
だろ?なら、俺には一個しかないよ。それに、子供の身体じゃ何も出来なくてな。
まだどんな能力か、確かめてすらいないんだから。
『ふぅん……そう、分かったわ』
【女神イエシアス】は
だが、それがなんとも不安を
【女神イエシアス】は、俺の言葉に
当然だろう。存在が神だったとしても、信用できないものは信用できない。
俺は
『それにしても、姉弟で転生者って……凄い
まぁ、それは俺も思うよ。
クラウお姉ちゃんが俺と同じ転生者……しかもどうやら、名前的に日本人っぽいんだよな。せいな……だっけ?
『――さぁ、どうでしょうね、ノーコメントよ』
なぁ、女神さまさぁ……あんたはこの世界の神なのか?
それとも、俺を転生させたあの女神……え~っと、名前忘れたけど、あいつと同じなのか?
『さぁ~。どうでしょうね~』
答えるつもりないな……まぁでも、チートがどうのこうのって言ってる時点で「あ、
うぉわっ――!!な、なんかどこかの女神が『アイズレーンだって言ってんでしょ!!』って、怒ってる気がしたわ。
『――私の探す転生者が見つかれば、別にお姉ちゃんにも迷惑はかけないわよ?』
う、やっぱり俺が心配してる事も分かってたか……あ、もしや昨日から気付いてやがったな?
『うふふ、正~解♪』
性格悪ぃ……あのポン女神もそんな感じだし、神って大体そうなんだな。
それにしても、チート全盛りってすげぇな……どんな能力を持ってんだろう。
『転生者は数多くいるわ。でも、どこぞの誰かがミスをして、その尻拭いをさせられた女神までミスしてしまってねぇ……』
へぇ……大変だな。
二重でミスってんじゃん。
『転生の術式は、誰が誰に転生したとかが記録させないのよ。しかも、書類とかが勝手に破棄されちゃうのよね』
不便かよ。バックアップは基本だろ?
しかしそれだと、わざわざこっちの世界で探さないといけないのか。
ああ、だからこの女神さまは探してんのか。
――って、その時点であっちの世界の神さまじゃねーか!
『私の目的は、その転生者を見つけて……殺す事よ。そうすれば、持っていかれた全ての能力を回収できるわ』
もしかして、残ってたチートを全部
『そうよ。今、神界はごちゃごちゃしているわ。女神もこの世界に降りてきているわよ?』
マジ?他にも女神さまがこの世界にいるのかよ。
『ええ』
あの〜ところで女神さま……もしかして、家までついて行く気ですか?
俺は目を
そんで女神さまは俺に話しかけ続けている……一緒にいるよね?今。
『いるわねぇ。存在は魔法で消しているから、クラウには見えなくなってるけど……隣で君の顔を見てるわよぉ?』
マ、マジかよ。もしかしてこのまま居座る気?
『――それはないわぁ。私も暇じゃないし、チート転生者を探さないとねぇ』
そ、そっか。ちょっと安心した。
存在消して話しかけてくるとか……プライベートが無くなっちまうよ。
しかし家に着くころには、【女神イエシアス】の声が聞こえなくなっていた。
気付いたらいなくなるとかさ……自由過ぎない?
そんな女神に関りがあるらしいクラウお姉ちゃんも、帰る頃には普段の
ま、それは俺も同じだが。
でも、今後は注意も要るな……スクルーズ家、次女クラウが俺と同じ転生者……って事は、身バレしちゃいかんという事だ。
だって、ミオの中身は三十過ぎの魔法使いのおっさんだぜ?ただ生まれ変わって人生やり直してるだけじゃないんだ。
俺は俺の……
家に着いたのは夕方だった。
もう
「あらあら……クラウお姉ちゃんに甘えちゃって、仲いいわね~」
「……うん」
そんな事あまり言うなってママン。
恥ずかしいだろ?あと、
「え~クラウずるい。ほら、こっちにおいで?」
レインお姉ちゃんが何かに対抗して、俺を抱っこしようと手を伸ばす。
が、しかし、クラウお姉ちゃんは離さなかった。
「……だめ」
「え、なんでぇ?」
そりゃあレインお姉ちゃんもそんな顔にもなるよな。
何て言うか、よく見る絵文字のキョトンとした顔だよ。
「……」
クラウお姉ちゃんは俺をギュッと抱きかかえて、意地でも離さんと結界を張るのだった。
「――あ、クラウ~!!」
こうして、本日は終了だ。
後は家族みんなで飯を食って、姉弟仲良く眠るだけだ。
◇
眠っている。
でも、意識ははっきりしてる。いろいろ考えてるよ、考えさせられてる。
昨日、今日はいろいろあったからな。
クラウお姉ちゃんの事、女神の事。
そして自分の事……考えは
特に、転生者の事を考えてた。
転生者は数多くいる。その言葉が、俺の心を強く揺さぶっているんだ。
こんなド田舎に転生してさ、赤ちゃんからやり直し中の俺だけど、もう三年だ。
やる事なんか、何一つない三年だった。
だって赤ちゃんだぜ?誰かがいないと生きてけねぇよ。
いくら転生者だからって、万能じゃないんだな。
でもって、転生者……チート全持ちの人物って言われて、更に考えた。
俺も能力を貰っているではないですか、と。
能力と武器、どちらがいいって言われたんだから、貰ったのは一つのはずだ。
そしてその能力は――【
赤ちゃんのうちは使えないし、一人の機会がないから試すことも出来なかった。
だから、俺も行動する事にするよ。
今日の出来事、これはただのキッカケだ。
死んで、転生して……赤ちゃんから始まった俺の異世界転生は……少年から始まるんだ……
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