1-7【これが村の学校】
◇これが村の学校◇
俺はクラウお姉ちゃんの両手を振り
「ミラージュおねーちゃん!」
「――んぉ?おおー、レインちゃんの弟くんじゃ~ん!」
ミラージュもこちらに気付いて、元気よく俺を受け止めてくれた。
そうだとも。必死に飛び込んだよ。
「どうしたのかな?そんなに急いで、転んじゃうよ?」
「えへへ……」
「……う、うわぁ」
え!?俺の笑顔が効かない!?――って違うな、ミラージュは俺の後ろを見てる。
クラウお姉ちゃんを見たんだ。
「どーしたのクラウちゃん。そんなに怖い顔してさっ」
「……別に。行くよ、ミオ」
俺は聞こえないフリをして、ミラージュにじゃれつく。
セクハラって言うなよ。頼むから。
「なんだよ~クラウちゃん、どうしていっつもあたしにツンケンするのさ?」
そうなのか?クラウお姉ちゃん、もしかしてミラージュのような子が苦手なのか?
それとも……俺がじゃれているから?
「……ふん」
「あ……」
「……」
行っちゃったよ。俺を置いて。
そこまで嫌なのか?レインお姉ちゃんの友達だぞ?
「どーしよっか?ミオくん」
「どーしよ?」
「あはは、可愛いな~」
ナデナデしてくれるミラージュ。
あれ、何か今までで一番子供らしくないか?
と、そんな事を考えていたら……
「――ミラージュちゃん、お待たせ……ってミオ!?」
レインお姉ちゃんだ。そうか、今日は待ち合わせだったのか。
それにしても、クラウお姉ちゃんは家に帰ったんじゃないのか?
すれ違うと思ったんだがな……レインお姉ちゃんと。
レインお姉ちゃんの様子を見ている限り、そんな事はなさそうだった。
「おはよ」
「うん、おはよ――じゃないよミオ!どうして一人でここに居るの?ダメでしょ!?ミラージュちゃんがいてくれたからいいけど……」
おお、ノリツッコミした。
レインお姉ちゃんは俺の肩を
やっぱりいい子だなぁ。優等生タイプなんだろう。
つーか、二人の姉妹全然性格違うな……顔は似てるけど、ルドルフにもレギンにも性格は似て……いや、クラウのむっつり感は母親似だったわ。
レインお姉ちゃんが特別
ん~っと。と、とりあえず
「ごめんなさい、おねえちゃんっ」
上目遣いで~。見上げる!
ほら見ろ、キュンとしただろ?
「も、もう……どうしよう、もう学校行かなきゃなのに」
「二日目から
「ど、どうしようか、ミラージュちゃん……?」
なんか……すまん。
せっかく優等生路線で行けそうなのに、
そんな俺の心の中の謝罪など聞こえるまでも無く、ミラージュが言う。
「あ、そうだ!ならさ……一緒に行く?学校に」
「「……え?」」
俺とレインお姉ちゃんが、綺麗にハモって……一緒に学校へ行くことが決まった。
八歳児二人の苦肉の策は、俺を一緒に学校へ連れていく事。
だ、大丈夫か?レギンママンあたり、必死になって
「……連れて行くっていっても、お母さんとお父さんに言わないと」
だよなぁ。ルドルフはともかく、ママンは絶対心配するぞ?
あ、いや……今はルドルフもちゃんと心配するだろうな。
「じゃあさ、ほら……あそこにいるのは誰でしょう?」
「え?」
え?誰?普通に
「……そっか!おばあちゃ~ん!」
レインお姉ちゃんも心当たりがあるのか、散歩中のおばあちゃんに声をかける。
「お~お~、レギンじゃないか……」
「もうっ、私はレインだよ!孫と
なるほどね。
……。……。……。――は?
「……」
多分、同じ顔してるよ。今のミオと心の中の俺。
レギンが孫で、レインが
つまり俺のひいばあちゃんじゃん!!え?なんで?初顔合わせなんだけど!!
思い返せば、産まれてから一度もじいちゃんばあちゃんに会ってないな……ルドルフにもレギンにも。両親はいるはずだよな?
家でもそう言った会話はしてないな、そういえば。
にしても、こんな近くに親戚いたんだな……普通に
近くに住んでたのか……ひいばあちゃん。なんで今まで……ん~。あ、そういうことか?
人の名前を間違える、一人でウロチョロしている。
それを考えれば……きっとこのばあちゃん……
でもこの世界……正確にはこの村には呼び方がないんだ、
「おばあちゃん、この子……ミオって言うの。
「……」
俺はレインお姉ちゃんの後ろに隠れて、ぺこりと
恥ずかしそうに、少し怖がりながら。
「お~そうかい、それで、なんだい?」
「私、今から学校に行くのね。でも、この子を家に連れて行く時間も無くて……だから、連れて行こうと思うんだけど……おばあちゃん、お母さんに伝えてくれる?」
だ、大丈夫か?このばあちゃん。
「あ~はいはい……レギンにね。わかったよ」
笑顔で言うけど、どこ見てんだ?
ほ、本当に大丈夫か?不安なんだが。
「うん!お願いね?……それじゃ行こう、ミラージュちゃん!」
足早に、レインお姉ちゃんは俺をおんぶして走り出した。
俺はそんなレインお姉ちゃんの肩越しから、ひいばあちゃんを見ていたけど、やっぱり不安だらけだった。
ひいばあちゃんがボケてるって、きっとレインお姉ちゃんの中でもあるんだろう。
本当は、俺を預けるのが手っ取り早いんだ。
でも、素直にそれをしなかったのは、ひいばあちゃんの現状が、家族間でしっかりと共有されているからだろう。
俺は知らなかったけどな……ひいばあちゃんがいる事すら、この時初めて知ったんだから。
あっと言う間に着いたよ。学校だってさ。
意外と早く着いたな、総勢数名の学校――学校?
ん?学校?これが学校?
「良かった、間に合ったね!」
「そーだね、早くすわろっか」
しかし当然……このようなお子様は注目は浴びる訳で、視線は全部俺が独り占めをして、授業が始まるのだった。
レインお姉ちゃんに連れられてやって来た
十人は入れれば
初めは怒られるかとも思ったが、レインお姉ちゃんは怒られるどころか、弟の面倒を見てて偉いねと
その時のレインお姉ちゃんの蒼白振りと言ったら、想像も
普段は大人しく、将来はおっとり系の
実は登校に遅れそうで、家に帰してる
でもって、今は日本で言う国語?の授業中だ。
これはに俺も
オヤジ殿やママンが文字を書いている所を見た事が無かったから、この世界の言語が何なのか知りたかったんだ。
聞こえる限りは日本語だし、イントネーションもほとんど通用する。
一部現代語とかが怪しいが、和製英語とかも行けるあたり、この世界は転生者に
レインお姉ちゃんが机に向かい、今の俺はおんぶをされて肩越しに勉強を見る。
周りからクスクスと小さな笑い声が聞こえるが、俺か?笑われてんの。
それともレインお姉ちゃんか?ならぶっとばすぞ。出来ねぇけど。
お。文字を書くな……どれどれ――って、
どう見ても「あ」だ。マジで?
先生と見られる方、ポロッサさんと言うらしい女性は、少し前にこの村に越してきたのだと言う。
こんな村に良く来ましたね。でもそのおかげでレインお姉ちゃんが学校に通えると思えば、あざす!!と声を大にして言いたい。
お……?また笑い声が聞こえるな。
どれどれ……男じゃねぇか。しかも二人。
「……はぁ~」
お疲れ様、レインお姉ちゃん。今日からが初授業だろ?
ごめんな、
「レインちゃん、お昼どうするの?」
ミラージュもお疲れさまだよ。今日は迷惑をかけた。
「う~ん……どうしよ――」
レインがミラージュに応えようとした瞬間。
「――スクルーズんとこは
「ぎゃははは!そーだよなぁ!?昨日もみっともない野菜だけだったしっ!」
「……あ?」
ごめん。素で声出たわ。
おいこらクソガキが、うちの野菜はともかく、レインお姉ちゃんが悪いみたいに言うなや!バカにしてんじゃねぇぞ!!
悪ガキの一言に俺が一番カチンと来ていたが、大人げない
昼休みなんだろう、飯を食おうが遊びに行こうが自由だ。
だがな、人を馬鹿にしていい訳じゃねぇ。
俺が
どうせ?お前、その野菜食ってんだろ?この村の野菜の
しかも
売りもん以外の質の悪い物は
それに、この三年で……どれだけオヤジが努力してきたと思ってんだゴラァァァァ!!
――おっといけない。と、とにかくだ……どうせ野菜だなんて
きっとレインお姉ちゃんは、押し黙ってしまうと思うんだ。
だから、俺が大泣きでもして場を
レインお姉ちゃんは、机に掛けてあった布の
お!?まさか、何かしだすのか?温厚なレインお姉ちゃんが、いったい何を……!?
「……ふんっ」
ドスン――!と、机に置かれたのは、商人から買った小さなバスケット。
食品を入れるものだ。詰まる所の弁当箱だな。
「な、なんだよ……」
あ~、レインお姉ちゃん怒ってるよ。
悪ガキもさ、多分そこまで本気で言ってないんだよな、きっと。
分かるよ。最初に言ったお前……レインお姉ちゃんに気があるんだろ?
好きな子をいじりたくなっちゃうアレだろ?分かる、分かるよ。
まぁ、俺は――
ゴホンッ――そ、それで?レインお姉ちゃんは何で弁当をこれ見よがしに出したんだい?
まさか、うちの野菜は美味しいんだぞって、高らかに
「……うちは……うちは……」
よし、レインお姉ちゃんがその気なら、俺だって応援するさ!
言ってやればいい!!
「うちだって……――お肉あるもん!!」
そうだ!!肉あんだよ!!肉が……え?肉?
レインお姉ちゃん?なんでそこで肉なのよ……?
え、なに?もしかして昨日の
ミオくんもきょとんよ。
ねぇ、しかもこのドヤ顔よ……そうじゃないんだよなぁ。
「――うわぁ、くっせぇ!くっっせぇぇぇ!」
「ぎゃははは、くっせーのー!」
「……レインおねぇちゃん……」
「――む、むぅぅぅぅぅ!!」
うわっ――なにその顔、めっちゃ可愛いんですけど!!
顔を真っ赤にして
「――あんたら!!レインちゃんいじめたらただじゃ置かないからね!!」
お、ミラージュ……いい子だ。
友達を守る優しい子なんだな。
「うっわー男女がおこったぞー」
「おこったおこったーー!」
「……こ、のぉぉぉぉ!!」
やばい!!ミラージュがキレた!!
どこの世界でもあるんだな、こう言う子供のトラブル!
俺は見る事しか出来ないまま、
――唐突だけど、帰り道だ。
学校からの帰り、俺は相も変わらずレインお姉ちゃんにおぶられている。
そのレインお姉ちゃんは、目元を真っ赤にしてとぼとぼと歩いている。
レインお姉ちゃんの前には、ミラージュがいる。
が……ミラージュは
あの後さ、ミラージュは
めっちゃ勝気だった。でも、分かるだろ?ケガしてるんだからさ。
返り
レインお姉ちゃんは、何も出来ずにずっとオロオロしてて、泣いているだけだった。多分それを気にして、ミラージュに声をかけられないんだ。
「じゃ、あたしはここで」
「あ、ミラージュちゃん……」
「ん?」
真っ赤な
「えっと、その……ま、またね」
「……うん。また……ね」
ミラージュは一度も振り返らず、帰って行った。
言えなかったか。
なら、俺が言ってもいいものか?いや、
これは友情の問題だもんな、俺が言っちゃいけない。
「……う……うぅ……」
いいよ。レインお姉ちゃん、泣こう。
辛いんだよな。俺しかいないから、泣いていいよ。
レインは両手で顔を
その反動で俺は足を打った。痛てぇけど、絶対に言わない。
「ぅぅぅ……ひっ……うぇぇぇぇん……わぁぁぁん……」
自分が情けないとかさ、腹立たしいとかさ。
子供の時は自制も利かないし、感情の波が一気に押し寄せてくる時だってある。
そんな時は、泣くに限るよ。
こんな
本当はミラージュを助けたかったよな……オロオロするだけの自分が、嫌になるよな。
自分のせいで
でもさ、それは違うんだよ。
ミラージュはさ、レインお姉ちゃんを助けたくて助けたんだ。
友達だから、友達が困ってたから手を差し伸べたんだ。
それに加えて、更に自分に対しても嫌な事を言われて、自分も腹が立っちゃって、あの男の子たちにかかって行っちゃったんだよ。
だから、本当にかけるべき言葉は「ありがとう」だったんだけど……それも言えなかったんだ。分かってても言えなかったから、泣くしかないんだ。
「お姉ちゃん」
俺は、せめてもの思いでレインお姉ちゃんの頭を
よしよしと、おぶられながら優しく
ホントはさ。ぶつけた足の甲がめっちゃ痛いんだけどな。
「あり、あり……がと……ありがと~……ミオ~」
うん。今度はさ、それをミラージュにも言おう。
泣き止んだレインお姉ちゃんは、恥ずかしそうにしながら
「ありがとね、ミオ」
「……ぅん」
ん?何か言ったか?眠すぎて聞こえなかったよ、もう一度……と、そう思ったのも一瞬だった。
「……!」
「わっ……ミオ?どうしたの~?」
俺は一気に上体を起こして、レインお姉ちゃんごと倒れて行きそうになってしまう。そこはお姉ちゃんが耐えてくれたが、それどころではなかった。
「……」
「ミオ?」
今の……クラウだったんじゃないか?
俺より少し暗めの長い金髪、俺たちと同じグリーンの
どこに行ったんだ!?何でこんな時間に一人でいたんだ!?
まさか、俺を探して?ひいばあちゃん、ちゃんと
いや……それならとっくに学校に誰かが来ている筈だ。
別れ際はミラージュもいたし、色々と不自然だ。
なら、探すしかねぇ。
「レインおねぇちゃん。おりる」
「え、だめよ……もう暗いし、遊べないよ?」
違うんだよレインお姉ちゃん、違うんだ。
でも、説明できる言葉が見つからない……どうすりゃいい!
「――やだぁっ!」
「やだじゃないよ~、だめなものはだめ、帰るの!」
「やだぁ!!やだやだやだやだやだぁ~!!」
「えぇぇぇっ!?ど、どうしちゃったの急に~」
そりゃそうだろうけどさ、見えた気がしたんだよ!
クラウの他にもう一人……誰かが!
「だ~め!!ほら、帰るよっ!」
くっ!レインお姉ちゃん意外と力強ぇぇ!
――いや、子供の俺が弱ぇんだ……
「うわぁぁぁん!やだやだぁ~、かえりたくないよぉぉぉぉ!」
ごめんレインお姉ちゃん!この世界ではいい子でいるって決めてたけど、今は無理だ!クラウを探さないと!
だけど……俺の想いは届かない。
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