1-5【ノーカウントでよろしく】



◇ノーカウントでよろしく◇


 姉に、初キッスをうばわれました。

 前世の俺でも経験した事のない、くちびるへのダイレクトアタックを、姉であるクラウお姉ちゃんにさらって行かれました。

 そして現在、俺は熱を出して寝ています。

 はい……知恵熱です。異常事態に、身体がついて行きませんでしたとさ。なっさけねぇの。


 なぁ?知ってると思うけどさ、今日は誕生日だったんだぜ?

 甘味の一つもしねぇケーキも食わねぇまま、俺は姉にキスされてぶっ倒れたんだ。

 クソ情けねぇ……泣きてぇ……六歳児にキスされてぶっ倒れたとか……黒歴史もいい所だろ。


 傷心の俺、ママンによしよしされて就寝中しゅうしんちゅう

 ママンは俺を寝せながら。


「今日は疲れちゃったもんね~、ゆっくりねんねしましょうね~」


 そう言ってくれると、多少は心が落ち着くよ……ばぶばぶばぶぅぅぅぅぅ!!

 うん。今更赤さんの真似してもむなしいだけだな。

 しかし……なんでクラウお姉ちゃんはキスなんかしたんだろうか。

 いやあれか?家族愛ってやつ。

 実際オヤジもママンも、微笑ほほえましく見て笑ってたよ。

 でもさ、舌……入れるか普通?


 あれ……なんだ?考えている内に……眠くなってきた、本当に疲れてたんかな……

 あ~ママンの声が心地いい。マジで……眠ぃ……な。





 夜中。ふと目を覚ました。

 流石さすがに寝たのが早かったのか、トイレに行きたくなったんだよ。

 と言っても、この村に下水はない。だから勿論もちろんトイレはザ・かわやって感じの川の近くだ。

 三歳になったとは言え、暗い夜道は怖い。だって子供だもの。


「……ね、レインおねぇちゃん」


 だから俺は、心優しいおっとりお姉ちゃんを起こすことにした。

 逆隣で寝てるクラウお姉ちゃんは……やっぱさっきのあれが尾を引いて、声掛けずれぇよ。


「う~ん……」


 起きてくんないんだけどっ!?

 ど、どうしよう……れそう。一応一人で行けるけど、今までは過保護かほごな家族の誰かが、必ず付いてきてくれてたんだよな……――!!……うおっ!!


「……クラウおねぇちゃん……おきてたの?」


「うん」


 逆隣のクラウお姉ちゃんが、ばっっっちり目を見開いて、俺を見てました。

 ガン見だよ。こ、怖ぇぇぇぇぇ!!


 わおっ!起き上がった!?……え?何?無言でこっち来ないで!!


「ミオ」


「……な、なぁに?」


 まさか……また?いやいや、流石さすがにないだろ。

 あれは誕プレだ、ノーカンだ!!そうだ、そうだよ!ノーカンじゃん。家族なんだから!


 そうだよ、俺は何を気にしてるんだ!そうだそうだ、誕プレでキスしてくれるだなんて、いいお姉ちゃんじゃないか!!ち、違うぞ、決して怖いんじゃない!!


「――ミオ」


「は、はいっ」


 やべ、反応して挙手きょしゅしてしまった。

 ねぇ……俺、この後どうなんだろうね……不安しかない。


 しかし、クラウお姉ちゃんは優しく「ミオ、しーしーでしょ?」と、俺を川まで連れて行ってくれた。

 うん……優しいお姉ちゃんだったよ。ごめんね疑って。


 そして現在……川付近にもうけられたかわやに、俺とクラウお姉ちゃんは二人きりだ。

 せせらぎとは言えない流れの【コレッタ川】をながめながら、俺は下半身丸出しで仁王立ちしている。

 両手で息子を持たされ、肩越しから感じるクラウお姉ちゃんの視線のせいで、出るものも出ないのだよ……


「ミオ、しーしー、しーしー……」


 優しさはつたわるよ。でもさクラウお姉ちゃん。

 見るのはやめないか?あとさ……その、尻と背中の間をさするのやめて、ゾワゾワするんですけど。


「でないの?」


「う、うん……」


「どうする?」


 どうしよう。でもしたいんだよ。れそうなのは本当なんだ。

 見られてると、大人は出来ないんだよ。

 一部の奴は好んでするらしいが……俺は無理だったんだ。


 中学の頃、ちょっとした手術で入院した際、俺はベッドから動けなかった……

 そして用意されたのが、尿瓶しびんさ……出来なかったよ。

 俺は膀胱炎ぼうこうえんになった。そして尿道にょうどうカテーテル、おしっこ管を挿入されたんだ。

 ああ……思い出すと、股間がゾワゾワする。


「……ぅ」


 ち、ちょっとクラウお姉ちゃん……指でお尻をくすぐるのやめて。

 桃のようなつるんとした可愛らしいお尻、触りたくなるのも無理はない。

 でも、その目で触るのはよろしくないって。君、本当に六歳か?


 何というか、嗜虐的しぎゃくてき?いじめっ子のようなサディスティックな視線で、俺の桃尻をナデナデしてくんの――あっ、やばい……出るっ……出ちゃう……出っ!!


「――ぁ……」


「はい、しーしー、しーしー……おしっこしーしー……」


 皆。川の綺麗な音を想像してくれよな。

 決して、じょぼぼぼぼぼぼぼぼぼ――とか駄目だめだぞ?

 あと、川に直接してるわけじゃないからな……勘違かんちがいすんなよ?





 手をつないで、俺とクラウお姉ちゃんは家まで歩いている。

 俺は泣き顔だった。クラウお姉ちゃんは心配そうに、俺の様子を見ながら手を引いてくれている。


 何故なぜ泣いているかって?


 暴発の結果だよ。言い方悪い?仕方ないんだ、本当の事だから。

 だって、クラウお姉ちゃんまで汚してしまったんだもん……


 いきなりの放出に、俺の息子がビックリしてしまってさ……

 なんていうのが正しいんだろうな……指でつまんだホース?そんな感じでさ。

 分かるだろ?止まらないんだ……止まれなかったんだよ!!

 それで、息子の暴走を止めようと、クラウお姉ちゃんが……くっ!……駄目だめだ、もうやめよう……地獄だ。

 もう、今日は最悪の誕生日だっ……!!



 しかし月日が流れ、夏になった。

 誕生日の暴発事件から、一ヶ月ってとこだな。

 俺の一番目の姉、レインお姉ちゃんが……学校に通うことになった。

 レインお姉ちゃんは八歳だ。小学生としたら遅めの入学だろうけど、この村には今まで学校なんか無かったんだよ。

 ちなみに、レインお姉ちゃんをふくめても、生徒はたったの五人だってさ。

 このパターンだと、クラウお姉ちゃんの入学時は四人、俺の時は三人になりそうなんだと。


 レインお姉ちゃんの入学にともなって、スクルーズ家では会議が開かれた。とは言っても、夫婦二人の会話だが。

 入学金を払わなければならないんだとさ。まぁ当然か。

 でもって、実はスクルーズ家、最近金の入りがいい。


 俺が産まれた年に作った、新しい畑があっただろ?その畑が、実は大豊作だったんだ。

 オヤジ殿の元カノ、リュナ・ロクッサさんと共同で管理しているこの大きな畑は、ここ一年で不思議ふしぎなほどにみのったんだ。

 俺は一度しか見に行った事はないけど、おどろくほど広かったな。


 そんでもって、初めて会ったオヤジ殿の元カノ……リュナさんだけど。

 ルドルフとは本当にもうなんでもなくて、普通に共同経営者って感じだった。

 俺の事も可愛がってくれてさ、あと……リュナさんも結婚してて、子供もいるんだってさ。

 俺と同い年の女の子で。まだ会えてはいないけど、多分可愛いんじゃね?

 でもさ、それだとリュナさんは産後すぐ畑仕事とかしてたって事だろう?行動的だよな。


 ――っと、話がれちまったな。すまん。

 その畑でれる野菜。多くは大根や人参に似たもの、根菜こんさいだな。

 それがバカほど売れたんだ。


 月に一度、隣町……って言っても相当遠いんだが、その町から商人が来る。

 その商人が【スクルーズロクッサ畑】の野菜を、高値で買ってくれたんだ。

 だから、レインお姉ちゃんは何のうれいもなく学校へ行ける。

 何を学ぶかはまったく知らないが、とにかくこの過疎化かそかした村に、学舎がくしゃが建つのだ。


 そして今日。レインお姉ちゃんが学校へ行く日が来た。

 今は、一緒に登校する友達を待っている所だ。


 お。レインお姉ちゃん、緊張してるな……お行儀よく座ってはいるが、もじもじしている。

 うんうん。おしっこはしておいた方がいいぞ。

 俺がそんな親切な考えをしていると、レインお姉ちゃんと目が合う。


「ねぇミオ、お姉ちゃんね……学校に行くんだよ~」


 にっこり笑顔で、俺に笑みを向けるレインお姉ちゃん。


「……うん。なんでぇ?」


 笑うなよ。三歳児なんだから、何に対しても「なんで?」って言うだろ?

 俺も必死に三歳児やってんの!ロールプレイなんだよ!

 何にもできない転生生活なんだから、せめてロールプレイくらいさせろ!


「う~んっとね……お勉強をするんだよ。みんなと一緒に」


「ふ~ん、なんでぇ?」


「えへへ……えっと~」


 ごめんレインお姉ちゃん。

 困らせたいわけじゃないんだ……三歳児だから!

 と、そんな俺の葛藤かっとうを助ける様に、レインお姉ちゃんの友達とやらがやって来てくれた。ナイスタイミングだ!


「ごめんくださ~い!レインちゃんいますか~?」


 何とも活発な声音こわねだ、さぞかし元気な子なのだろう。


「――あ!ミラージュちゃん!!やっと来たよ~」


 レインお姉ちゃんの顔も、パァ――っと明るくなった。

 そうだよな、笑顔の方が可愛いよ。

 レインお姉ちゃんが立ち上がって、布のかばんを持つ。

 中身はほとんどからだ、何故なぜなら勉強道具が無いから。

 他の生徒も同じなはずだけどな。


 月に一度しか来ない商人を待って、勉学を遅らせられないと思っているのだろうか。

 今までしてこなかったのだから、毛ほども変わらないと思うがねぇ。


「よっ!レインちゃん、お待たせだよっ」


 お、おお……なんてボーイッシュな女の子!思った通りの活発そうな声、ショートカットの髪形にへそ出しの短いシャツ、太腿ふとももばっちりのショーパンは見事としか言えん。


 いや、待て……冷静になろう。相手は八歳だ。

 八歳の幼女相手に、俺は何を評論家ぶっているのか……そうだよな、冷静になればなるほど……キモくない?


「もう登校?の時間なんだね~……」


「そうだよ……って、お!?お~、この子がレインちゃんの弟君か~!可愛いねぇ……!」


 ミラージュ、だっけ?俺を見るそのつり目は、好奇心こうきしんそのものだ。

 何というか、恥ずかしいって……俺は天使の笑顔で、お姉さまの親友さんに挨拶あいさつをする。


「……こん、にひ……」


 んだ。初対面でんだんだけど。

 し、仕方ないだろ!家族以外とまともに会話なんてしてこなかったんだから!!

 あ?そうだよ!前世の俺と一緒だよ!!文句あっか此畜生こんちくしょう


「あはは!お顔真っ赤だよ~!」


 すいません。シャイって事で勘弁かんべんして。

 おっと……レインお姉ちゃん?


駄目だめだよ~、ミオはとっっても恥ずかしがり屋さんなんだからねっ」


「え~、そうなの~?」


 そうなんです。そう言う事にしておいて……お願いします。

 俺は必死に笑いながら、このミラージュって子との初対面を終えたのだった。




 レインお姉ちゃんが学校に行った後、俺はクラウお姉ちゃんと共にママンのお手伝いをしていた。

 まぁ、俺は何もしてないんだけどさ。する努力はしてるつもり……でも結局。


「あ~ほらっ、やっぱりこんなに散らかして……もうっ」


 ママンにあきれられてしまった。

 本当は片付けをしているつもりなんだ……思うように動くようになった身体だけど、まだ繊細せんさいな動きには慣れない。

 積木つみきを元の箱の中に戻そうとするんだが、これはが中々むずかしい。

 ん?そうだよ……ちゃんと誕プレで貰った積木つみきで遊んでるんだよ!いい子だろ!?笑いたきゃ笑えっ!中身が三十過ぎたおっさんの積木つみき遊び……滑稽こっけいだろ……?


 それでも、ママンを喜ばせようと思って片付けてたつもりなんだが……積木つみきは転がるわ、箱はくずすわで……ハッキリ言って自分でもクソむかついた。

 だから持ってる積木つみき投げちゃうじゃん。そこを見られた。


「ママ。私がやるからいいよ」


 お、クラウお姉ちゃんが代わりに片付けてくれるらしい。

 しかしなんだ……この前の川での一件から、クラウお姉ちゃんがやけにくっ付いてくる。なんだこれ?


 レギンは台所に向かった。夕食の準備だとさ。

 でもって俺は、クラウお姉ちゃんのひざの上で人形のように抱かれているよ。

 実はママンは今日、いつもの何倍も気合が入っている。

 その理由は、ただよってくるかぐわしい匂いが理由だ。

 その匂いは荒々しく、非常に血の気のあるものだ。そう、肉だよ。


 村唯一の狩人ハンターが、ボアを捕まえたんだと。

 害獣がいじゅうなんて滅多めったに出ないド田舎に、偶然迷い込んだ動物。

 そう言えば、犬や猫も見ないな……鳥すらいないのはおかしくね?


 それはさておき、それで野菜と物々交換をしたんだよ。ボアと同等の価値にするには、結構な野菜の量だったらしいが、それでも子供たちにお肉を食べさせたかったレギンは、奮発ふんぱつしてくれたんだ。


 でもさ。俺、聞いちゃったんだよね……ママンが「これでルドルフにスタミナを……うふふ」って言ってるのをさ……これは、もうあれだよな?妹か弟が出来るフラグだよな?


「ミオ。お肉食べれるって……うれし?」


 お?クラウお姉ちゃん、俺の両手をにぎにぎして拍手はくしゅさせてくれている。

 それって赤ちゃんによくやる、“じょうずじょうず”ってやつかな?

 いやいや、俺はもう三歳だぞ、クラウよ……


「おにく?」


「うん。お肉だよ。動物さんだよ」


 その言い方だとなんか怖くないか?じゃあ何て言うの?いや知らんよ。

 牛とか豚とかさ、この村には居ないんだから。滅多めったに捕獲できないんだぞ、動物。動物性タンパク質……マジで貴重なんだから、この村。


「おいちいの?」


「……う~ん、多分ね」


 なるほどね、クラウお姉ちゃんも食べた事はないのか。って事は、肉なんて相当久しぶりなのでは?スクルーズ家。

 でもさ……酪農らくのうもしていないこの村、普通に考えてどうやって生きてんのか不思議ふしぎでならねぇよ。

 日本じゃ……考えられないからなやっぱり、俺はもっぱら宅配サービスで飯食ってたから、ありがたみが分かってないんだと思うけど。

 こうして転生して、この村に産まれて、食の何たるかが初めてわかった気がするんだ。


「それじゃあ、私の分もあげるね……」


 え?クラウお姉ちゃん、肉食わないの?俺は顔を上げて、次姉の顔をのぞく。

 そしたらさ……何て言ったと思う?この子……おっそろしいぞ。


「だから……スタミナ付けてね?」


「……」


 ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!

 飲み物口にふくんでたら、噴水ふんすいになってたところだよ!!

 クラウ、お前も聞いてたんだな!?ママンの独り言……本当に六歳かお前……つーか性に目覚めるの早すぎなんだよ!!

 やめて!やめてくれ!!そんなメスの顔しないで!!


 怖い!怖いから!!マ、ママーーーーーーー!!

 あなたの娘、あなたにそっくりだよおぉぉぉぉぉ!!遺伝子怖ーーい!!

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