3-8
下水道を深く堕ちていったそこに、扉はあった。識別コードを読み込ませ、押し開ける。
ジェットシャワーの停止を待たず、私は研究室へ進んだ。透き通った温水と、濁り切った下水とがフレームから滴り落ち、霜の中に凍てつく。それが砕ける音を切り裂きながら、私はカプセルの前に立った。
失敗した。死ぬべきだ。死なねばならない。それがルールだ。
だがその前に、一つだけ聞きたかった。私はどうすればよかったのか。ただ一言でいい、博士の口から聞きたかった。
カプセルのコンソールを叩く。覚醒プログラムが起動し、蛍光色の電解液の放電と共に、さざ波が影となって天井に揺らぐ。
博士は目覚めない。グラフモニターを見れば、心拍も脳波も停止していた。
「ふざけるな!」
私はカプセルを叩き割った。電解液が足元に溢れる、凍ることのない液体、その上に博士は投げ出された。死人の蒼白、だが結露したライトの照り付ける、その表情は――――
「何故だ」
私は引き金を引いた。自分のこめかみに向けて、ブラスターを何度も、何度でも。しかし最早、弾丸は無かった。
「何故私は死ねなかった!」
死ぬことさえできない。
私は殺すために作られた。だが既に、あのセクサロイドは死んだ。博士も死んだ。ならば何を、何のために殺せばいい。
殺すことしかできない。
研究室を飛び出し、下水道の闇へ吼える。
応えるのは、雨水の濁流だけだった。
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