2-4

 記憶の再生が終わった、その時だった。脊髄反射プログラムが、意識を現実現在に引き戻す。


 ゴミ山に埋もれた視界に、雨水越しのハイビーム・ライトが差す。回収業者スカベンジャーの投光器ではない、一台の高級車からだった。

 後部座席から、透明な防水コートを羽織り、一人のセクサロイド――――に見えるが、違う。アンドロイドが出てくる。


 そのくびれを強調する所作は、確かにセクサロイド特有だ。しかし身体は違う、全てに金がかかっている。石膏製のフレーム、宝石をあしらった関節、熱を持ったバイオシリコンの肌。他人に売るためでなく、自分自身のためだけの美しさ。当然とばかりに長い手足が、六インチのピンヒールでこちらを見下ろしていた。


「見覚えのあるゴミだと思ったら、友達に会うなんてね」


 サングラスで隠れた知らない顔が、鋭く澄まして近づいてくる。アンドロイドは滑らかにしゃがむと、唇にキスをしてきた。

 口内端子越しに、少なくない電流が流し込まれる。放電寸前だったあらゆる駆動系が、即座に息を吹き返した。立ち上がり歩くだけなら、十分すぎる電力だ。


 アンドロイドは音も無く離れ、もう一度立ち上がる。


「久しぶり」

「いや……」

「わからない? 私よ」


 サングラスを外したその時、ようやく理解した。地面に視線が滑る時、その目つきだけはよく知っている。


 ベティ。

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