肉花
朝
肉花
幼い頃、手に皮の塊ができた。
左手のひらの感情線から2センチほど下にあった。
花弁のような皮が幾重もあって、薔薇のようだった。
薔薇といえば聞こえはいいが、少し赤みを帯びて気持ちが悪かった。
かりかりと爪をたて、つまんで引っ張った。
一向にとれないそれだったが、親にバレては怒られると思い隠していた。
爪切りで挟んでしまおうと思っても、なかなか大きく挟めない。
幼い私はその頃ちょうど、カッターの万能性に感動していた。
鋏がなくともカッターがあれば何でもスパッと切れる。
親に危ないと言われても、工作にはカッターを使っていた。
そうだ、カッターで切り取ってしまおう。
病院に行ってもどうせ同じことをされるはず。
私はカッターの刃で花弁の中央を傷付けてみた。
やはり皮だから痛みはない。
少しずつ、少しずつ痛くない表面から削った。
思ったように上手く削れない。
どれだけ時間がかかるんだ。
我慢ならず、花弁の下側、手のひらに沿うようにカッターを押し当てた。
そして右手の親指でぐっと力を込めた。
ぶわっと血が飛び出して、痛さのあまりカッターを取り落とした。
床にしゃがみこんで、必死に傷口を押さえながら痛みに耐えていた。
「どうしたの!」
刃が飛び出たカッター、蹲る我が子。
ただごとでない様子に、母は半ば悲鳴のような声をあげていた。
こうなってはもう大人を頼るほかない。
私は泣きながら母に左手を見せた。
流血ひとつない、つるんとした手のひらだった。
肉花 朝 @morning51
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