エピローグその1 彼は
あれから2週間が経った。
夕焼けに染められた橙色の空の下、俺はあの鳥居の前に改めて立っていた。
「今日でお別れ、だね」
石段を数段降りたところで、この世界の美桜綾音が、飲み終えた缶ジュースを両手で握り、寂しそうに笑う。
あの人は、2週間前にこの世界を去った。死んだ訳では無い。元の世界へ帰ったのだ。
「お姉ちゃんとは存分に話せた?」
「うん」
あの人がこの世界に来る、その更に前。
原因は分からない。けれど、この神社で交通事故に遭った姉の訃報を聞いたのがきっかけだと思う。
(姉ちゃんにもう1度だけ会いたい)
そう思ったら、気がついたらこの世界へ来ていたのだ。
家に帰ると死んだはずの姉が居て、泣き崩れてしまったのを覚えている。
「この世界の俺が戻ったら、よろしく頼む」
「うん、分かった」
五時を告げる夕焼け小焼けが流れる。
あの人を通し、間接的ではあるが向こうの世界の俺の気持ちに気付けた。元の世界へ帰る方法を探すのを拒んでいた自分の目を覚まさせてくれた。
大事なことを思い出させてくれた。
色々お礼を言わないとな。
目線を少し上げる。
町全体が夕焼けに照らされて、橙色の湖を作っていた。
この景色を見るのも、最後なんだな。
息を吸って、吐いた。
鳥居のほうに向き直る。
後ろはもう振り向かない。
帰ろう。
1歩ずつ地面を踏みしめながら歩き出す。
最後に見た夕空は、きれいに澄み渡っていた。
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