第3話
俺達は後日、例の神社の鳥居の前に立っていた。
「準備はいいよな?荒谷」
「うん」
ミッションは、出口を見つけること。そしてそれが不可能なら地図を完成に近づけ、出口がある場所を絞り込んでいくこと。
実にシンプルな作戦。
が、実際そう甘くはなかった。
★
オオオオオオオオオ!!
化け物の咆哮が地を揺らす。
意気揚々、いや意気揚々ではないかもしれないが、気合を入れてこの空間に再び足を踏み込んだ俺たちは早速あの化け物に追われる羽目になっていた。
「なんであんたと一緒に来るとあいつにすぐに追いかけられるんだよ!」
「俺に文句言うな!」
「だってあたし1人の時は目ぇ合うまでは襲ってこないんだぞ!?なのになんであんたがいると入った瞬間に襲われるんだよ!?」
文句をぎゃあぎゃあ言われながら、俺たちは何とか脱出に成功する。
そんなことが1週間近くは続いたところで、美桜さんはいよいよ気づき始めた。
「だめだ。あんたがいると足手纏いすぎる」
彼女は学校の近くにあるカフェにて、オレンジジュースを片手に頭を抱える。
俺は向かい側で、申し訳なさそうに縮こまっていた。
「このままじゃ出口はおろか地図もまともに作れないし……というか、これあんたに原因があるんじゃ?」
「まあ、こうなってくるとそうだと言わざるを得ない」
「あの化け物に好かれる体臭してるんじゃない?」
「その悪口は初めて聞いた」
彼女は深いため息をつく。
別に俺も望んであの化け物に好かれてる(?)わけじゃないんだぞ、と心の中で恨みの言葉を吐いた。
「それじゃあ、作戦変更。……あんた囮ね」
やはりと言うべきか。この状況が続くと当然誰でもその答えに至るだろう。当たり前である。
化け物に追われる原因を作っているのが俺だとするなら、俺を餌にして気をそらし、その間彼女はいつもの作業をすればいいのだから。
「嫌、といっても拒否権は」
「あるわけないだろ。じゃないとあんたがいる意味ないし」
「ですよね」
俺はがっくりとうなだれる。彼女はそんな俺に見向きもせず不機嫌な瞳でスマホをいじっていた。
「んじゃ、このあとここ出たら実験して──」
と、ここでスマホが震える音がした。美桜さんのスマホらしい。
彼女はしゃべるのを中断し指をしばらく動かした。
そして何を思ったのか、急に席を立つ。
「ごめん、呼び出し食らった」
「呼び出し?」
「文化祭のやつ……はあ、めんどくさ」
文化祭のやつ、というのは文化祭の準備のことだろう。確かに夏休みも迫ってるので、この時期に始まっているのは当然か。俺はというと1番人数の割り当てが多い内装組なのでまだ行かなくても大丈夫なはずだ。多分。
「悪いけど、1人で囮の練習でもしといて」
金は払っておいたから、と言い残してそのまま彼女は早足でカフェを出て行ってしまった。俺は1人、カフェ内のレトロな音楽とともにポツネンと取り残される。
答える間もなく行ってしまった……。
ぼっちになった俺を嘲るかのように、外ではセミが鳴いていた。
★
「囮の練習しとけって……一体どうしろと」
赤色の鳥居が俺を見下ろし、ずっしりと構えている。
正直に言うとここにはもう近づきたくない。やると言ってしまったからにはしょうがないが、それでも、怖い。それはあの化け物に対する単純な恐怖ではない。いろんな負の感情が掛け合わさって、それが俺の心に圧をかけているのだ
俺はごくりと唾を飲み込む。そして深呼吸を1回した。日和るな。大丈夫だ。
そう思いながら、俺は鳥居の下を通り抜ける。
「……!」
「ちゃんと来た……のか?」
俺は周りをぐるりと見る。
いや、おかしい。何か変だ。
「いつもの廊下じゃない」
俺がいたのはホテル内のような古びた廊下ではなく、家の中だった。内装は現代にもあるごくありふれた洋風で、中は綺麗に片付いてはいるけれど、どこか寂しさを感じるような。
俺はリビングにあるスライド式の大窓に目を向ける。外は真っ暗だった。夜では無い。何も見えない漆黒の壁のようだ。
試しに開けてみようとはしてみたけれどビクともしない。玄関のドアも開けようとしたがこちらもダメだった。
「まさか」
閉じ込められた?いや、まだそんなことを考えてはいけないと頭をブンブンと振る。
後ろを見ると、階段が続いていた。二階があるらしい。
階段を上がった二階には寝室と思わしき部屋があった。
別に他意はないのだが、入ってみることにした。
お邪魔しまーす、と小さく呟きながらドアを開く。
すると、その小さくあいた隙間からすすり声が聞こえた。
「!?」
誰かいる。
この空間に先客がいるということか?
鼓動が早くなる。ドクン、ドクンとまるで警鐘を鳴らすみたいに心臓が脈打つ音がはっきりと聞こえてくる。
ドアを開けてしまっていいのか、でも、なにかここの出口に繋がるヒントを得られるかもしれない。汗がぽたりと床に落ちる。
俺は歯を食いしばって目をつぶって決意を固めた。
ええい、ままよ!
取っ手を掴み、勢いよくドアを開く。
「………っ」
すすり泣く声が止まった。
自分の心臓の音が他人に聞こえてしまうんじゃないかというくらい、静かだ。
こんなことするんじゃなかったと後悔が押し寄せる。
俺は目を開くことができず、ただそこに立っていることしかできない。
しばらくそうしているとやがて、ぼそりと
「あなた………誰」
聞き覚えのある声が聞こえた。
棘の混じったような、それでいて芯のある声。似た声を昼にも聞いた。
恐る恐る目を開ける。
そして、目に飛び込んできたのは。
「美桜さん?」
ベッドの反対側で、怯えたようにこちらを見る美桜綾音の姿だった。
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