第4話 まりさんのルールとぼく

「だから今日からイチローくんと同棲します」


「はぁ!?なんでそうなるんですか!」


「だって毎日イチローくんに匂いチェックしてもらわないと誰とも会えないもん。わたしイチローくんが気絶しない日にしか人と会わないし、大学にも行かない!アイドルもやらない!」


「いやいや!同棲なんて無理ですよ」


「じゃあわたしにもう外に出るなって言うの?」


「いや、そう言うわけじゃなくて………」


「じゃあ、きまりね。不束者ですが

 よろしくお願いします」


まりさんは本気の目だ。

現役アイドルとのまさかの同棲。

こんなにもかわいい人が僕と一緒に………


僕が勝手に興奮して気を失ってしまっただけなのに

なぜか美少女と同棲することになった。


「じゃあ、ルールを決めておきましょ」

まりさんは次へと話を進めようとする。


「ちょっと待ってください。

 まりさんはいいんですか?

 ぼくと同棲しても。だってアイドルですよ」


「わたしのこときらい?」


「い、いえ。嫌いじゃないです」

上目遣いのかわいい笑顔で『わたしのこときらい?』なんて聞かれて

嫌いですって言えるわけもない。

むしろ大半の男性はまりさんのことを『好きです』って答えるだろう。


「アイドルが同棲しちゃいけない法律でもある?」


「いや、それはないですけど......」


「だから同棲した上でのルール決めが重要なの」


「なるほど......」

素直な僕は言われたことを真に受けてしまう。


「じゃあ、イチローくんは大学の講義とサークル以外に何かしていることはある?」


「ぼくはその2つだけです。ゆくゆくはバイトもする予定です」

いじめられっ子の僕には社交性というモノがない。

外に出て誰かと楽しむという感性も持ち合わせていない。

それ以外に外に出るとするとアルバイトくらいだ。


「じゃあ、好きな子はいる?」


脳裏に小田切奈央の顔が浮かぶ。

(!!)

なんて質問をしてくるんだ。それに何の意味があるのか。


「その顔はいるって顔だな。ねえ、どんな子?」


「まりさん、話がそれてますよ。その情報いりますか?」


「だって同棲していることがその子にばれたらイチローくんピンチじゃん」


「大丈夫です。相手にその気は無いですから」


「そっか。なにかあったんだね。で、どんな子?」

まりさんがぐいぐいくる。顔は完全に興味津々だ。


「幼馴染です。それ以上は言いません」

まりさんの表情からゼロ回答だとまだまだ食い下がってきそうだった。

だから適度に答える。これくらいの情報ならそれが誰かを特定される心配もない。

そう思いきや、


「あっ!もしかして小田切奈央ちゃん?」


「え?な、なんで!?」

僕は耳まで真っ赤になっている。


「やったー!当たった!」

まりさんは大喜びだ。


「なんでまりさんが小田切ってわかるんですか。だって小田切と僕が幼馴染って誰にも言ってないし、ましてや小田切が言いふらすことなんて絶対にないです。なのにどうして」

焦った僕は早口になっていた。


「イチローくん、なんでイチローくんがここのサークルに入れたか知ってる?すごい倍率高いの知ってるよね?合格するのはイケメンばかり。お世辞でもイチローくんはかっこいいって言えないじゃん」


なんか小さくディスられた気がする。

たしかに僕にとっても都市伝説級の出来事だった。


「どうしてですか?」

確かにその理由が気になっていた。


「奈央ちゃんのおかげだよ。奈央ちゃんは芸能学部の推薦入学でしょ?ここでいう特待生なの。もちろんもうすでにこのサークルの将来の幹部候補なんだよ。男子の選考の時、奈央ちゃんがイチローくんを推薦したんだよ」


(え!小田切が俺を………、なんで?)


「わけがわからない………」

ぼそっと呟いてしまう。


「イチローくんのこと好きなんじゃない?」

まりさんはイタズラ好きな小悪魔の笑みを浮かべている。


「そ、そんなことありません。だって5回も振られてるんですよ」


「いいねー、わたしそういうの嫌いじゃないよ。いつでも相談してね。私は自称恋愛マスターなのだ」

まりさんは両手を腰にあてて自慢げなポーズを取った。

それがまたかわいい。

そして突き出した胸の乳首がピンと浮かんでいる。

白いシャツのせいでうっすらと乳輪まで透けて見える。


僕は一気に顔が赤くなる。そして下を見てもじもじしてしまう。

それをみてまりさんがその理由に気付いて言葉を発する。


「ルール1:私がノーブラでも文句を言わない」


なんてすばらしいルールなんだ。

誰もが僕をうらやましがるだろう。


しかしこれから発表されるルールは僕を地獄へと追いやるものだった。


「いや、僕が困ります。そのルールは」


「女の子のノーブラは嫌い??」

また上目遣いで下から僕の顔をのぞき込む。


「いや、きらいではないですけど......」

僕はまりさんから目をそらして答える。


「じゃあ、決まりね」

ニコッと笑顔で答えられるともう反論はできない。


「ルール2:空いている時間は常に私と行動する」


「え!なんで」

驚きのあまりタメ口になってしまう。


「だってイチローくんがいないと匂いが大丈夫かわからないもん」


「まりさんは匂わないので大丈夫です!」

僕は語気を強めて伝えた。


「イチローくんが絶対に気絶しなくなったら信じる。それまではイチローくんに検査してもらうの」


まりさんは膨れっ面だ。引く気はないようだ。

これは観念して付き合うしかない。

そもそも気絶した僕が悪いのだから。


「ルール3:代わりにイチローくんが気絶したら私が看護する」


ルール2で僕が気絶する可能性は高い。そうなったら責任を持って僕の面倒を見てくれるということだ。

たしかにそれは約束してもらわないと僕も一緒に出歩けない。


「ルール2と3がバーターということですね」


「そうそう。よくわかってるね」


「ルール4:私を守ること」


「えっと......どういうことですか?」


「アイドルをしているとストーカーとか学内でも無理矢理言い寄ってくる男が多いの。だから守って欲しいの」


「ごめんなさい。僕、強くないので守れないです」


「それでもいいの。近くにいてくれるだけで安心だから」


「わかりました。それなら頑張ります」

僕は自分なりにできる限り頑張ろうと思った。


「ありがとう。いい子いい子」

まりさんは僕の頭をなでなでする。


きゅんっ......


大きくなってから頭をなでられたのは初めてだ。

妹にはよく頭なでなでをしたが逆にされたことはなかった。

こんなにもむずかゆくてうれしいのはなぜだろう。

男の僕でさえもキュンとしてしまう。


「どう?あたまなでなで。キュンとするでしょ?

 女の子は頭なでなでされるともっとキュンとするんだよ。

 さっきわたしになでなでしてくれたお礼だよ」


まりさんといると女心の勉強になる。

ぼくは心のメモにがっちりとそれを書き込んだ。


「ルール5:今後のルールは状況に応じて追記する」


たしかにそうだなと思う。現状ではこれからどうなるのか全く想像がつかない。これからルールが増えていくことは理解しておいた方がよい。至極当然だ。


「これが最後。ルール0」


「ルール0!?」

僕は驚きとともに嫌な予感しかしなかった......


……………………………………………………


あとがき


第4話をお読みいただきありがとうございます。

ルール設定がこれから大きな影響を与えていきます。


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