第11話 まりさんの準備体操とぼく

「まりさん、手を離してください」


「え?なんで?イチローくん嫌だった?」


「嫌じゃないですけどみんなに誤解されます」

本音は握られていたい。なにせ高校まで

女子と手を握ったことがなかったからだ。

いや、うそだ。小田切とは小学生低学年の時は

手を握って登下校していた。


「だったらいいじゃん。はい、行くよ」

まりさんはニコッとして僕の手を引っ張る。

相変わらずの天真爛漫だ。


「おい、星野まりに男いたのかよ」

「なんであんなもっさい奴、連れて歩いてるんだよ」

「星野まりってセンス悪いの?」


僕がまりさんと一緒に歩くたびにところ構わず悪口が

聞こえてくる。

僕はまりさんに対して申し訳なく感じて下向き加減になる。


「はい、気にしない。気にしない。

これから一緒に住むんだよ。早く慣れよっ。

これくらいで参ってたら一緒に住めなくなっちゃうよ」

アイドルはメンタル強くないとやっていけないんだと

はじめて理解した。


「みんな、おはよ~!」

サークル活動で使っている講義室に入ると共に

まりさんは大きな声で挨拶をした。


「おはよ~!」

「おはよ~ございます」

部員の声が講義室にこだまする。


「まりさん、手を......」

なんとまりさんは手を握ったまま講義室に入ったのだ。

こっちを向いてニコッとする。

その表情はドラマで見たことあるような

好きな人に投げかけるような笑顔だった。


(かわいい... じゃない!みんなが誤解する)


「まり先輩、あれ、つきあってるの?」

「まり、まさかあの子にいったの?」

「憧れのまり先輩が...」

「なんであいつなんだよ」

「おれも手を握られてぇ」


サークル内はざわついている。


!! 小田切がこっちを見ている。

目が合った。

(あっ!めっちゃ逸らされた)

怒っている、あの表情は。


小田切奈央はクールだ。基本感情は表に出さない。

でも幼なじみの僕には小田切の感情がわかる。

今のあの表情は『怒』だ。

きっとサークル活動の場に手をつないで現れたことに対して

不謹慎だと思っているのだろう。


「まり、今日はまりがインストラクターなんだから早く着替えておいで」

部長の花菜さんがまりさんに声を掛けた。そしてみんなに向かって手を叩く。


「はいはい!みんな、準備体操するよ~。ペアになって!」


「イチローくん、着替え行くよっ」

「はい...まりさん、手...」

「まだいいの。もうちょっとだから」


(なにがもうちょっと??)


ぼくはまりさんのしたいことが全くわからない。


更衣室で着替えた後、僕たちは講義室に戻った。

みんな準備体操をしていた。

僕の目はどうしても小田切にいってしまう。

小田切は1人で準備体操をしていた。

たしかに小田切は社交性が低い。

話しかけづらい雰囲気を持っているのもあるだろう。

正直、僕も話しかけづらい。

小学生の頃はあんなに仲良く遊んでいたのに......


「まりさん、小田切が1人みたいなんで組んで上げてください」

ぼくは1人で準備体操している小田切のことを気遣った。


「やだ!イチローくんと組む」


「え?いやいや、男ですよ。ぼく」


「あれ?ルール1は忘れたのかな?」


まりさんが顔を斜めにして下から僕の顔をのぞき込むときは

なにか悪いことを考えているときだ。


「わかりました。従えばいいんですね」


「ものわかりが早くてけっこうけっこう」


ぼくとまりさんとの柔軟体操が始まる。

男の視線も女の視線も怖い。

男にいたってはこちらをにらんでいるようにさえ見える。


「まりさん、ぼく耐えられません」

「がんばる、がんばる。乗り切ろうね。

 はい。せーの」

まりさんが僕の身体を押す。

身体が硬い僕はあまり伸びない。

後ろから押すまりさんも相当な力が必要だ。


むにゅ~!!


おっぱいが背中に。

まりさんが力一杯押そうと後ろから僕に覆い被さる。


「いててて」

ぼくは声を出してしまう。

みんなの視線が僕たちに集まる。


「おいおい、あいつまじかよ」

「うらやましすぎね」

「わたしもまりさんと組みたいな」


誰もがうらやましがるぼくの状況に

男も女も視線が釘付けだ。


いまの僕にとっては、『視線>おっぱい』だ。


「まりさん、胸があたって困ります」


むにゅ~


もう一度おっぱいを押しつけられる。

無言で文句を言うなと言われた気分だ。


これは完全に故意だ。もはや狙ってやってるとしか思えない。

男全員からは目の敵にされ、

天真爛漫な性格のまりさんにはファンの女子も多い。

女の人達にも後ろ指を指されている気分だ。


挙げ句の果てには小田切からは冷徹な目で完全に見下されている。


(なにがキラーパスだ。僕の大学生活、おわった......)


「じゃあね、イチローくん」

まりさんが耳元でささやく。

これも周りから見たらいちゃついているようにしか見えないのだろう。


「え?」

まりさんの感触がなくなる。

一気に身体が元の状態に戻った。

まりさんが離れていくのが背中越しにわかる。

(なにがしたかったんだ!あのひとは)


「奈央ちゃ~ん、1人?」


(!! まさかの小田切にコンタクト!?)


「はい。1人です」

(小田切の声がいつもと違う。クールではない。

 怒っているときの感情だ)


「準備体操、一緒にできる?」

小田切のことをよく知らないまりさんには

今の怒っている小田切の感情は読み取れないはずだ。

もしや一色触発か?ぼくはドキドキする。


「はい。」

小田切が感情を飲み込んだ。


「じゃあ、あそこにイチローくんが1人だから

 一緒に組んであげて」


(ちょっと!!まりさん。なんてことを)


「......はい」



……………………………………………………………………・・


あとがき


第10話をお読みいただきありがとうございます。


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