第10話 まりさんの唇とぼく
「ねえ、キスしたことある?」
(え!?なに?)
僕は頭が混乱する。
「い、いえ」
「じゃあ、しよっか?」
ずきゅーん、僕は心を撃ち抜かれた。その言葉とまりさんのかわいい顔に。
なんだこの展開は...顔がほてる。
「ルール0が………」
僕はとっさにまりさんに手を出したはいけない最重要ルールを口にしてしまう。
「イチローくんは、したい?」
まりさんが顔を斜めにして下から僕の顔を覗き込む。
さすがアイドル。おねだりの仕方が最強だ。
それはしたい!したいに決まってる。
星野まりだからしたいのか。
ファーストキスをしてみたいのか。
小田切奈央………はもうしたのかな、キス。
頭の中がパニックだ。
もちろんここでイケメンのような気の利いたことは言えない。
「し、したい………です」
「そっかぁ、したいのか。残念......」
何が残念なんだ。やっぱりぼくをからかっただけなのか。
さっきの答えは『したくない』が正解だったの?
今からでも答えを変えた方がいいの?
人生で初めてのシチュエーションで頭の中は考えることでいっぱいだ。
『女性は貞操観念がある。一度は理由をつけて断る生き物だ!強引さがポイント!』とこの前見た雑誌に書いてあったぞ。
「し、したいです!」
僕は頑張って意思表示をもう一度してみた。
「残念だなぁ。私はイチローくんとキスしてもいいと思ったんだよ。本当に。
でもイチローくんが『したい』って言っちゃうと私に手を出す意思がイチローくんにあるってことになるでしょ?ルールゼロに抵触しちゃうよね」
僕は頭がついていかない。なにを言ってるんだろうか、まりさんは。
「ごめんなさい。ちょっとよくわからなくって」
「ルール1:私が何をしても文句を言わない。
なら私からイチローくんにキスしてもいいでしょ?」
「はい、そうですね」
僕はそれがあるからキスを受け入れることができると思っていた。
「でもさ、イチローくんがしたいって言うと私に手を出すことと一緒だよね」
「確かにそうですね」
「じゃあ、ルール1とルール0だとどっちが優先順位高い?」
話の流れが見えてきた。
僕の選択肢が間違っていたと言うことだ。
あそこでしたくないって言っていればまりさんがルール1を発動して僕にキスができたと言うことだ。もう過去には戻れない。最後の悪あがきだ。
「ルール1です。まりさんの意思があるからです。ルール0は僕の意思です。まりさんと僕だったらまりさんが優先です!」
悪あがきにしては理にかなっている。
「なるほど。たしかにそう言う考え方もあるね。でもやっぱり0というプレミアムなルール制定は強いでしょっ」
僕は一気にテンションが下がる。最後の悪あがきは起死回生にはならなかった。
仕方ない。キスは諦めよう。
「ごめんなさい。キスに期待してしまった僕が悪いです」
「悪くないよ。でも助けてくれたお礼はしなくちゃね......
あっ!小田切奈央ちゃん」
まりさんは僕たちが走って来た方向を見ながら小田切奈央の名前を呼んだ。
!!
僕は慌てて横を見る。小田切奈央なんていない。
「ちゅっ」
ほっぺに優しい感触が残る。
(えっ!......なに?)
笑顔のまりさんが僕の顔の横にいる。
「しちゃった」
まりさんは嬉しそうに、そして照れながら微笑んでいる。
「え、えっ………」
僕は気が動転している。
「奈央ちゃんとわたし、どっちがいい?」
そんなの答えられるわけがない…………
「………」
「あっ、答えられないんだ。ぶーぶー、まりさんのキスを返せ」
ふくれっ面で僕のほおをぐりぐりする。
「ごへんなはい」
ほおをぐりぐりされてちゃんと謝れない。
「うそうそ。奈央ちゃんを落とすためにまり先輩が
イチローくんに最高のキラーパス出してあげるから」
「いいです。そんなパスもらってもゴール決められませんから」
「大丈夫、大丈夫。最後ボールにタッチするだけでいいから、ね?」
「正直、ちょっと怖いですよ。なにしでかすか、まりさんは」
「まり先輩に任せなさい。泥船に乗ったつもりで!」
「それ、そっこーで沈没するやつじゃないですか」
「あっ!間違えた。宝船だったっけ?」
「それじゃ、また賊に襲われますよ。
まりさん、もしかして頭悪い?」
「あっ!ひどい。わたしのこと頭悪いって言った。
どーせわたしは推薦入学ですよ~だ」
まりさんがふてくされる顔もかわいい。
感情表現が豊かだ。やっぱり小田切奈央とは違う。
「じゃあ、これから一緒に住みますし、
まりさんの素敵なところいっぱい見つけますね」
「どんどん見つけなさい。そして奈央ちゃんよりも
好きになっても良いんだよ」
「それは困ります。ルール0に抵触しちゃいます」
なんかぼくもまりさんのペースに引き込まれてしまっている。
「あっ!もうこんな時間だ。サークル行こっ!」
いろんなことが起きたがまだ一日は終わっていない。
これからサークルって結構大変だ。
「その前に匂って!」
まりさんから指示されていつものように匂いを嗅いだ。
走ったせいで首筋は汗ばんでいる。
いつものまりさんの良い香りが鼻を通っていく。
ぼくはもう、完全にこの匂いに虜だ。
まりさんのシャンプーのような匂いとまりさんの汗をかいた素の匂い。
僕の嗅覚はこの混ざった匂いを完全に記憶してしまった。
「大丈夫そうです。ご飯3杯いけます」
「もう、なにそれ。でもよかった。あれだけ走った後でも大丈夫って
うれしいね」
「僕もうれしいですよ。倒れなくて」
「そうだ!行かなきゃ」
まりさんがまた僕の手を握って走り出した。
そしてサークルでのまりさんからのまさかのスルーパスの連続。
僕はゴールを決められるのか……
…………………………………………………………………
あとがき
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