対話
「ニーヤお前っ!」
「まずは通報からだよぉ、死神君」
「お前、傷は」
「あたしを何だと思ってるのぉ?」
先程までのまともな話し方は何処へやら、すっかり元のメスガキ喋りに戻ってしまったニーヤは一度姿を消して、もう一度現れたら元通り、すっかり無傷になっていた。
ダンジョンを人間の基準で考えたのが愚かだったか、傷に動揺していた己を戒める。本当に無事なのを確認できたのでニーヤの言う通り通報をしたほうが良いだろう。
念の為左肩の傷にもう一度ポーションをかけてみれば今度は無事に治ったので【ヒールストップ】系統の治癒停止スキルだったのだろう。
【犯罪王】は国際指名手配犯なので発見者には通報の義務がある。
現地の警察に先程までの状況を説明してダンジョンアウト後の硬直で動けなくなっているであろう【犯罪王】の回収をお願いした。
専用ホットラインでは虚偽の報告が出来ないので全て聞いた州警察は即座に行動を始めてくれて、数分後現地のアビス探索者が気絶している【犯罪王】を確保、警察への引き渡しをした事を教えてくれた。
できれば後日情報提供者として協力してほしいと言われたが、オレは【ランダム転移】によって日本から転移してきて事情があって即座にダンジョンアウトする事が難しい旨を伝えた。
また【ランダム転移】で来たので入国審査を受けていないこと、ダンジョンアウト後で良ければ【真実の口】を使用して報告と
これで一応密入国扱いは無くなった。
ついでにとばかりにネットで調べたダンジョンアウト後の救助サービス業者を探しておく。いつダンジョンアウトすることになるかは解らないが、野ざらしで放置からの犯罪巻き込みだけは無くなったと思う。
後これでダンジョンアウト後に身元不明者としていきなり独房行きにはならなくなった。
最後に残る問題はニーヤのことだけだ。
限界状態だったとはいえ、一度信じた相手だ。もうダンジョンだからと無下には出来ない。
ついに殺すだけの選択肢を取ることはできなくなってしまった。
「やっとあたしと話してくれる気になったんだぁ♡ありがとぅ」
「……とりあえず、まずその語尾伸ばすメスガキっぽい喋り方やめてくれないか、真面目に話せない」
「死神くんが最近一番反応良かったASMRの女の子がこういう喋り方だったけど嫌いだったのぉ?」
死にたい。
「頼む、マジで辞めてくれ」
「あ……ごめん」
オレの脳内を読めるニーヤにどれだけオレが凹んだのか伝わったのだろう、割とガチ目に謝られた。
というか相変わらず当たり前のようにオレの脳内を読んでいるなこいつは。
今も、さっきの【犯罪王】の相手をしていた時も、オレの脳内を読めるからこそ出来た行動だったのは確かだ。
けど、そんな相手と対話をする事が出来るのか。オレは出来ない。
「なぁ、もうオレの頭の中を読んで解った気になるの辞めないか」
「どういうこと?」
「オレの頭の中を覗かないで会話できるならオレをお前をダンジョンとしてじゃなく、一個人として扱うから」
「へんなの……だって、人間はさっきのやつみたいに口では嘘をつくよ?なのになんで頭の中を読んじゃいけないの?」
「それがわからない限りお前はモンスターでしかない。そしてオレはモンスターを地上につれていくことは出来ない。」
オレの頭の中を読んでもオレの言っている事を理解しきれなかったのだろう。
不自由そうにしながらもニーヤは受け入れた。
「……わかった」
そう言ったニーヤを前に頭の中で今のは嘘だ、お前を騙して殺そうとしている。ダンジョンなんて大嫌いだと心の底から持っている思いをぶちまけた。
それでもピクリともしないニーヤに、本当に頭の中を読んでいないのだと仮定を信じる事にした。
【フレンドリーファイア】を発動する。
ニーヤは動かない。
瞬間的に練った魔力によるブーストで加速して手に持ったままの剣をニーヤに向けて切りつけた。
ニーヤは動かなかった。
「……最後までお前を試して、信じれなくてごめん。もうこんな事しないから、許してくれるなら沢山話そう」
びっくりして目を見開いているニーヤに申し訳無さが湧いてくる。これすらも演技かもしれないという疑心はある。でも、それでも……。
ニーヤがただのモンスターでは無いと確信を持てたなら、一緒に地上に行こう。
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