第1村人発見


 ゆっくりと両手を上げた状態でこちらに近付いてきたのは、見るからに前衛職ではない軽装の男性だった。

 外国人の顔つきから具体的な年齢は解らないが間違いなく年上だと思われる。

 軽装とはいえこんな深層に潜ってくる猛者というだけあってスキルだけに依存した低ランク帯と違って全身が鍛え上げられている。スキル抜きでも低ランクのダンジョンなら力任せに攻略できそうな筋肉だ。

 だとしても、あの不可解なほどの気配遮断は一体どういうことだろうか。

 ドッペルゲンガーや人型ガーディアンやダンジョンの人化を経験してきた身だ、あまり簡単に警戒心を解かずにすぐに対応できる体勢で相手の出方を待った。


「私、このアビスの最奥を目指して探検している研究者のロペスと申します。斥候系統のジョブばかり取ってとにかく戦闘を回避して潜ってきているのですが、貴方方は一体どうやってここまで……?」


 ステータス画面からポーションを取り出して見せてモンスターではないことを証明してくれた。

 ドッペルゲンガーの証明まで知ってるってことはやっぱりかなりの高位探索者らしい。

 そんな、高位探索者まで行ける人が斥候系統のジョブ複数……それで全く気配を感じ取れなかったのか。

 俺が知ってるのは主に日本でメジャーなジョブが中心だし、普通の人間はパーティを組む上で類似したジョブを取ることはないので同系統ジョブ構成とかされてたらこんなに気付けないこともあるんだなぁ……。

 少し警戒を解いたオレは【魔剣製生】で作った剣を消した。

 今この剣、旧東京1番ダンジョンの死に顔になっているせいで幼女のデスマスクを象った明らかにやべー剣になってしまっている。

 持ってるだけで人格を疑われそうな剣なので詳しく見られる前に敵意がないアピールも兼ねて消しておいた。さっきのモンスターの感触からして素手でも問題ないレベルのモンスターしか湧かないみたいだし。


「えっと、オレ達はその、ランダム転移のサイコロで転移してきたばかりで……」

「ランダム転移のサイコロ!?そんな物を使うほど追い込まれていたんですか!?」

「ア、ハイ……。今どうしても地上に戻れない事情がありまして」

「それは……あまり深く聞かないほうがよろしいでしょうか?この後はどうなさるつもりですか?」


 あ、明らかになんか事情のある人だと思われてる……!

 オレの後ろに隠れるように立っているニーヤをちらりと見て何か納得したように頷いたぞこの人!すまん、確かに事情はあるけどほぼ100思ってるやつと違います!


「……すみません、ここのマップも何もなくて失礼を承知の上でお聞きしたいのですが、ここらへんでどこか落ち着ける場所ってありますか?」

「ここはアビスの2152階層目ですが、2150階層が安全地帯になっています。そちらはどうでしょうか?」

「ありがとうございます!!一旦そこに向かおうと思います!」

「どうせならご案内しましょうか?ランダム転移のサイコロで突然来られた方には慣れないダンジョンとエリアだと思いますし、お連れ様に万が一が無いように……」


 ランダム転移のサイコロなんて世間一般では金持ちの緊急避難用のアイテムだとされてるから勘違いをされてる気がする。もしかしてこれオレも従者系のジョブ取ったタイプの非現役探索者だと思われてる?上流階級の人だとそういった特殊な育成をした従者が付く事があると聞いたことがある。そもそも冒険者学校は日本特有の制度だからな……。必ず戦闘経験があるとは限らないから自力で身を守れるのかを心配されてるのか。……すみません、一般現役探索者です。

 さっき戦ったモンスターからして自力で行く事も全く問題ないしニーヤがダンジョンだとバレるのも怖いしで断ろうとしたが、遠慮しているのだと思われて逆により案内の意思を強めてしまったようだった。

 ニーヤも外見だけならちょっとエキセントリックな配色だが美少女だし、ロペスさんが来てからずっと黙っていて大人しいからお嬢様っぽく見えたんだろうな。護衛対象と護衛みたいに思われてそうだ……。

 折角の探索の途中に逆戻りさせてしまうのは申し訳ないのだが、下手に誤解を解いてニーヤについて言及される方が問題と判断して案内をお願いした。



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