不信感

 出現したモンスター、トーテムトーテムのステータスはA級クラスのステータスで、特に偏りもなく変な初見殺しも無かったので戦闘自体はすぐに終わった。

 階層の深さから想像してた難易度ほどではないというか、旧東京1番ダンジョン基準で考えるならもっと強くてもいいはずの階層なのに比較したら旧東京1番ダンジョンの1層のレベルもないような強さだ。


「そりゃああんな極端に戦闘に振った子と成長に無限にリソース使い続ける子じゃあ違うよぉ」

「極端なのか?」

「そりゃそうだよぉ。方針転換前の第一弾のダンジョンだから人を殺す前提の設計だし潤沢なリソース使えたってのもあるけど、1000層目のエリアボスとか950階層からのボスラッシュとか普通は無理だから。あんまり強くすると人間が全然来てくれなくなるしねぇ」

「……」

「まぁ?旧系の特にファーストダンジョンはスタンピード前提で作られるからあの子の方針も間違ってはなかったけどぉ」


 さっきからダンジョン目線で話してるが、これって新発見ってやつなのかな……。

 うーん……、絶対バレたら報告しなかったことを怒られるタイプのやつだコレ……自分の一存で殺そうとしてる事に罪悪感が湧いてくる。


「あたしはもうセーフティが無いから、人間の為にいっぱいお喋りするよぉ♡」

「嘘くさ」

「もー、死神君はなんでさっきからあたしの言うことを全く信じてくれないのぉ?」


 正直オレが過剰にこいつに敵対心を持っているというのは……まぁ、あると思う。

 今のところ名付けの誘導以外に明確にこちらを騙そうとする挙動もない一見無力な相手だ、大分うざい話し方をしている事を除けば客観的に見たらおかしいのは問答無用で殺そうとするオレのほうかもしれない。

 ステータスだって雑魚そのもので原理不明の姿を消す術を除けば洗練受けてればE級でも倒せるようなスライムレベルだ。

 それでもオレはこいつが【王眼】が効くモンスターである限り信用も歩み寄りもできないと思う。


 旧東京1番ダンジョンの化身だって殺すにしてももっと情報を引き出してからの方が良かったのでは?とか言っている人も多かった。

 本当に人間の似姿は本当に厄介だと思う。

 無力そうで不快感の無い見た目があって言葉が通じると、まるでができる相手だと誤認させる事ができる。

 して、解り合えたつもりになった後にこいつに裏切られたらと思うとオレは到底コイツらダンジョンを受け入れようなんて思えなかった。


 けオレはダンジョンが嫌いだし、その中でも特に七門市28番ダンジョンは大嫌いだ。

 もしコイツの前に居るのがオレ以外の誰かだったら有り得たかもしれない未来全てを捨てる覚悟を決めないといけない。


 一人で煮詰まっているオレと、オレの頭の中の考えが読めるのに黙っているニーヤ。

 閉塞感が漂う洞窟型ダンジョンに僅かな空気の流れをもたらしたのは一体何者だろうか。


「……」


 少なくとも普通のモンスターではなかった。

 体感として【魂喰らいのレベード】に見られていた時に近い探知不能な、俗に言う第六感でしか認知できないようなそれ。

 あのカメレオンのお陰で不可視の存在の厄介さが身に沁みたオレは警戒を解かない。

【生命探知】を使用したが、何も引っかからなかった。【生命探知】で何も引っかからないということは今までほぼ無かった。探知系スキル無効系能力と同時に視覚的に姿を消すことが出来る能力を持った存在は中々居ない。居るとしても相当な高位のギミックボスなど制約がある事ばかりだ。

 オレのスキルは物理的な存在を探知するのではなくオレに敵意のある存在を探知するスキルなのでモンスター相手に無効化されたことはない。

 だが今【生命探知】で付近にモンスターを示す灯火が無いという事は……ふと、今まで一度も考えてこなかった第三の選択肢が思い浮かんだ。もしかして人間か……?


「……誰か居るんですか」


 他国ということもあって翻訳機能をオンにした上で誰何した。

 もし誰もいないならオレが一人で恥をかくだけで、もし誰か居たらそれはそれでニーヤについて下手に話すことが出来ない状態ということだ。

 一応モンスターの可能性もあったので剣を構えたままじっと待つと、じゃり……とわざと立てたであろう足音が斜め右の洞窟の奥から聞こえた。

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