ニーヤ抹殺計画


 笑えばいいと思うよ、の幻聴を聞きながら頭を抱えて数秒。

 俗に言う賢者タイムというやつか、呆然として思考停止していた頭がふと冷静になった。


 いや、ちょっと待てよ……?


 そもそもなんでダンジョンなんかの言う事を素直に受け入れてんだ?ダンジョンの言う事を真に受けて良いことなんて無いだろ。真実を話す保証なんて無いし、害虫の言う事を聞いてなんのメリットがある?

 てか、命が繋がってるって何がどうなってそうなってるんだよ。オレがダンジョン内でニーヤと同時にダンジョンアウトしたらどうするんだ?そもそもダンジョンコアはどうなってる?一言で命が繋がってるなんて言ったって具体的にどうなってるかは未確定だ。

 こいつはダンジョンだぞ、自分に不都合な情報は隠していてもおかしくない。


「一応今のうちに聞いておくが、お前だけを殺す条件を素直に言うつもりはあるか」

「言うわけないじゃん」

「わかった」


 そうだよな、当然だ。

 でも、一つ希望が見えた。条件を聞いたオレに対して有るわけないと答えるのではなく、言うわけないと答えた。

 これはつまりキチンと殺す手段があるということだろう?

 そうだ、オレは仮にも死神(笑)だぞ?死神(笑)のくせに殺したいやつ一体すら殺せないのか???そんなのあり得ないよな???オレが殺せなくて逆に誰が殺せるんだよ???

 メンタルをリセットする。


「よし」

「死神君さぁ……君って本当にぶれないねぇ」

「思考盗聴されてても最後に殺せれば問題ない」


 まず繋がりとやらがどの程度のものか検証する必要があるな。


「今からオレはお前を殺そうとするからちゃんと殺されそうになったら自己申告しろよ」

「横暴だぁ……人間って本当に意味わかんない。素直にあたしといちゃいちゃハッピーライフしようって気にならないのぉ?こんなに可愛くなったのに全く好きになってくれないじゃん」

「そんなのお前がダンジョンな限り有り得ないな」


 さて、脱線はこれくらいにしておいてだ。

 いい加減命のルールを教えてもらおうじゃないか。



 手持ちのアイテム、過去のドロップ品、純粋な暴力、攻撃部位、距離、スキル、それら全てを試した。

 途中精密さんに検証のコツとかを聞いて更に詳細を確認できたと思う。うんざりした様子のニーヤに何度もまだやるのかと聞かれたが辞めるはずもない。塩漬け依頼と比べたらこの程度の検証問題ない。

 検証の結果分かったことが何点かある。


 まず、ニーヤはオレから半径5メートル以上離れることが出来ない。

 形だけ真似ても所詮は人外、こちらがどれだけの速度を出そうと足一歩動かすこと無く追尾してくるので正直気持ち悪い。

 地上にも行ける、じゃなくてオレの側から離れられないが正しい表現だったということだ。


 次、オレのステータス欄の異常。

 アイテムを取り出すためにステータスを開いたら覚えのないステータス欄があった。

 それがニーヤだ。

【王眼】で確認したステータスと全く同じ内容がオレ自身のステータスと並んでいる。

 正直意味がわからない。


 そして攻撃について。

 とにかくリスクのないスキルは全て試した。

 その上で唯一こいつが反応したスキルが【フレンドリーファイア】ということだ。

 他のスキルの攻撃では避ける素振りもなく受け止めていたのに【フレンドリーファイア】だけは受け止めるのではなく姿ごと消えてすかした。

 つまり……先程のステータス異常と合わせて考えるとこいつは今、暫定オレのパーティメンバーになっている可能性が高い。


 どうやってパーティになっているのかについては解らない。オレは今までパーティを組んだことがないから正しいパーティの組み方がわからないとかそういうことではない。本当に。

 確認のため今まで一度も使ったことのなかったパーティ関係のステータスを弄ろうとしたら何も触ることが出来なかった。

 堂々とあるパーティ解散のボタンすら反応しない時点でニーヤが何らかの制限をかけている事がわかる。


 今までの無敵状態はパーティシステムの恩恵によるモノで、こいつ自身の異能ではないこと。

 今のところこいつが制限しているのが確定しているのはパーティ編集系のステータス画面と思われること。


 この2点と思考盗聴をされていることを踏まえた上でニーヤの抹殺をしなければならない。


「絶対にぶっ殺すからな」

「熱烈ぅ〜。初めてのパーティメンバーに酷いことしないでよぉ」

「お前はノーカンだから。初めてのパーティメンバーはもっと別の人だから」

「死神君さぁ、ずっとそんな事言ってるけど今までパーティ誰とも組めてないじゃん。諦めなよ」

「殺す」


 効かないとわかっていても剣を振りたい時がある。

 それが今だ。




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