無駄な進化
ニヤリと嗤ったカメレオンヘッドは、そのまま再び溶けるように姿を消した。
逃げられる。
その前にせめて一太刀入れたくてつい先程まで居た筈の位置に剣を振るうが時既に遅しで虚しく空を裂いただけに終わる。
一時的に表面をペイントしても無視して再度透明化できるのは厄介だが想定内だ。とにかく相手の攻撃レンジと手法の確定が出来たので最低限の目的は達成している。
敵意自体は切れていない事をひりつく違和感から感じながらも現在地から離れるように走り出す。
キングポイズントードの毒をばら撒いた位置からできるだけ離れるように、丁度対角線上を走り抜ける。
途中リポップしていたマーダーマリオネットのパーティを複数トレインしたがむしろ秒しか保たなくても盾になるのであえてそのまま引き連れていく。
【生命探知】からカメレオンヘッドが追ってきている事を確認すると、完全に悪臭から開放されたタイミングで立ち止まる。
ここからはオレの嗅覚が頼りだ。
サイレントブーツによって本体から発せられる音はゼロになり、変異前からあったであろうステルス能力はペイント後でも有効。
音もなく姿もない敵を検知するためにどうするのかと考えた時に残された手段が臭いだった。
色は残っていないが、先程被ったキングポイズントードの毒の耐え難い悪臭は残っている。
残された【身代わり人形】は4つ。
これが尽きる前に
もはや邪魔になる視覚情報を遮断するため瞼を閉じる。視界不良解消オプションオンにしていて良かった、きっと配信では見えているだろう。
マーダーマリオネットが立てる装備の音から攻撃されない距離を保ちながら臭気を探る。
集中していると、草刈りで飽きるほど嗅いだ悪臭が左からした。
方向を把握したら目を開いて【強者の振る舞い】を発動して待ちながら後衛型マーダーマリオネットの放った複数のフレイムピラーを避ける。
天をつく炎柱の隙間をあえて左側に作るように避けると、誘い込まれた一撃がオレに向かってくる事を信じて左腕を振った。
手応えあり。
心臓を突き刺そうと伸びてきた舌を左手で掴めた。
当然マーダーマリオネットをスライスできる舌に素手で触れるということは刃に素手で直接触れるのと同じ扱いになるので【身代わり人形】が1つ、2つ、3つと連続して砕ける。
全ての【身代わり人形】が砕ける前に【強者の振る舞い】で上がったパワーを籠めて渾身の力で舌を引っ張った。
確かな手応えを感じつつもついに【身代わり人形】が尽きて舌を掴む左腕が切り落とされるのもそのまま、舌を逃さないように左足で踏みつける。
触れるものを切り裂く刃と耐久性のみを重視した無骨なブーツが一瞬拮抗するが、刃状になっている側面からではなく真上から踏み潰したブーツに軍配が上がった。
残された右腕で振るわれた剣は不可視の暗殺者を切り裂いた。
「グゲェッ!」
空気中に青紫色の血が飛び散るが、クリーンヒットとは言い難い感触。
これは……自ら舌を切って逃げられたか。
ブーツに踏み潰された舌がピクリともしない。それでもある程度の怪我を負ったのは確実。
前方の何もない空間からボタボタと血が垂れる。
血を止められないのか姿を消すことを諦めたのか、それとも不可能になったのか何もなかった空間にカメレオンヘッドが現れる。
先程の一撃はカメレオンヘッドの顔半分を抉り取ったらしい。左半分が欠けた頭部とダラリと垂れたまま仕舞われない舌の断面。右手に構えた剣は舌を切断するのに使われたのだろう青紫色の血がこびりついたままだ。
全く先程までこちらをバカにしていた側とは思えない体たらくだ。
なんて思いつつもオレ自身左手からの出血が止まらないので早期決着をしたい。
ポーションを出してから使わせてくれる敵ではないと思うので空気を読まず横殴りしてきたマーダーマリオネットに剣を突き立てて【生命簒奪】で連続補給。
血が止まった事によってオレが何らかの回復手段を使ったことに気が付いたのだろう、カメレオンヘッドは怒りに身を任せて剣を振りかぶってきた。
「グゲェェェェッ!」
「無駄に増やした手足は随分とお粗末だな」
暗殺に特化した個体故に正面からの戦闘経験なんて皆無なのだろう。
不気味に動く足は踏み込みが甘く、振り下ろされた剣は力しか入っていないただの素振りも同然。
隠蔽能力と舌を失ったこいつに手こずる要素なんて皆無だった。
素人丸出しの大ぶりの一撃を避けると魔力を込めた一撃で頭を刎ね飛ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます