配信5回目



 現在地は島が目視できるほどの距離に来た辺りだ。

 海系のフィールドダンジョン対策として遠上市で売っていたアイテム【使い捨てクルーザー】によって一人で島付近まで来れた。

 一番性能の良さそうなやつを選んだのだが速度、自動操縦機能の充実っぷりに後で好評レビューをしに行くことを内心誓った。


 現在時刻は夜の1時。

【暗視ゴーグル】と【サイレントブーツ】を装備しているので光源の無さは問題にならず足音も完全に消えている。

 いつもの配信設定にプラスして残酷表現オフ機能を設定して、配信タイトル「【鬼退治】旧香川4番ダンジョンスタンピード残党駆除依頼完了、または逃走まで」で配信を始める。

 今回に限っては逃走の可能性もあるので完了までのタイトルにはしなかった。


「深夜ですがこんばんは、初めましての方もそうでない方もご視聴ありがとうございます。塩漬けちゃんねるです。画面を見ればわかると思いますが今回はいつものようなダンジョンアタックではありません。」


 遠方の島とタイトルから察しのいい視聴者が驚いている。


「一番最初に注意を。今回の依頼は旧香川ダンジョン管理ギルドの依頼に基づいて行います。旧香川4番ダンジョン跡地の島への侵入は一般の方には許可されていませんので間違っても来ないでください。また、今回の依頼について【制約】にて依頼達成が困難だと判断された場合逃走になります。」


 思念入力で固定コメントに設定。

 今回の注意事項はかつて無いほどガチなので赤字にしておく。

 万が一物見遊山で来られては知らない内に死んでましたなんてことになりかねないので絶対に来ないように念押しする必要がある。


「さて、ひとまず依頼について説明します。今回の依頼は旧香川4番ダンジョン跡地のスタンピード残党……つまり地上適応個体の完全駆除になります。地上ですので死ぬ場合は本当に死ぬので今回は残酷表現はオフにしています」


 最低視聴者年齢が15歳以上になるダンチューブ的にかけられる年齢フィルターが18歳以上限定と20歳以上限定の二択になるのだが、どちらもかけてしまうとオレが弾かれるという意味不明な事態に陥る為かけられない。

 その為残酷表現オフのオプションとなる。

 一人称視点なので万が一死んでもオレの死体は映らない筈だが念のためかけておく。

 あー……急に視聴者数が爆増したと思ったらコメント欄に最強さんがいる。なんかめちゃくちゃ怒ってるな……。

 こちらとしては全然勝算があるし万が一は全力で逃走するので受けた依頼だったがまともな大人はみんな止めてくるな。

 心配自体はありがたいのだが、逆に今オレ以上にこの依頼に向いてる人も居ないと思う。

 格上だったらその場で逃走を選択できる王眼持ちかつ敵モンスターの位置把握が可能で、逆に格下だった場合格下狩りの天職とも言えるジョブの補正で作業効率が人より優れているので。


「沢山のご心配ありがとうございます。不安を煽るような事を言ってしまいましたが勿論今回は万全の準備をしてきました。まずはこちら、【身代わり人形】を10個。それから【ランダム転移】が付与されたサイコロを用意しました」


【身代わり人形】はそのままで、相手の攻撃を代わりに受けてくれる消耗品だ。

 どんな攻撃でも必ず一度受け止めてくれるので不意打ちやとても反応できない速度の攻撃を食らった時の保険になる。

 そして【ランダム転移】のサイコロはその名の通り、全世界のダンジョンのいずれかにランダムに転移するレアドロップアイテムだ。

 行き先は全く指定できないが、ダンジョンの中に飛ばされるということは即ち地上からダンジョンルールの中に逃げることが出来るアイテムということになる。

 最悪の場合は10回まで身代わり人形が肩代わりしている内にランダム転移で逃走する、これだけの物を用意してようやく受付さんを説得したのだ。

 唯一恐ろしい事はランダム転移で飛んだ先が外国のダンジョンだった場合オレはステータスオープンを強いられる位か。


「逆に言えばこれだけの準備をしないと地上戦は許可されないということになります。視聴者の皆さんも万が一地上戦を行う時は万全の準備をしてください」


 絶対依頼料より身代わり人形一個のが高い、ランダム転移とかとんでもねーもん持ってるな!?、ガチ過ぎる、などコメントもようやく受け入れモードになってくれた。


「さて、今回のターゲットは変異オーガのコミュニティになります。地上適応の中で夜間の睡眠が必要になったようなので今回の作戦としては夜間のサイレントキリングを実行します」


 その為に用意した暗視ゴーグルとサイレントブーツである。

 どちらもダンジョンの中ではあまり使用されないおかげでかなり安いアイテムだが、地上で悪用されないように購入はライセンス制になっていたので購入待ちの時間もそれなりにかかった。


「当然、音を立てるわけにもいかないので声を出しての実況が出来ないので討伐中は無言になることをご了承ください」


 最初の混乱が落ち着いてきたコメントは頑張れ、無理するなと暖かいコメントで溢れている。


「それでは」


 依頼開始。

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